第36話 降臨

輝きまくる巨大なおっさんヤマダ。

決めポーズで伸ばした指先がキランキラン。

ニヒルな笑顔が『こんなの当然だぜ』ホントは闘いの緊張から解放されて今にも溶けだすおもちのよう。

デロデロだ。


そんなおっさんを遠くに見る港の街の公園。

なんだかわからないけど神様のような大きな人が悪者を倒したらしい。

ホントはどっちが悪者かなんてわからなかったけど。

あの輝きは味方に違いない。

もうひとつの角ばった人型人形には感じられなかったポカポカと温かく人を幸せにする感情がしみ込んでくるのだから。


みんなで笑顔。

大きな歓声をあげて、ゴールデンに輝くおっさんに手を振るみなさん。


ありがとー!ありがとー!


きっと俺たちを助けてくれた神様のようなヒトありがとー!


「ふんぬっ!」


おっさんヤマダ、随分と距離がある人たちのお礼もバッチリ聞こえている。

それにこたえるため、気合を入れなおしてもう一度両手をグルリとまわして決めポーズ!


シャキィーーーンッ


効果音がするとさらに輝くおっさんず・ボディ!


ああよかった。

みんなの生きるこの世界を俺なんかが守ることができたのだ。

ただの中年サラリーマンだった俺が。

妻にも娘にもアキレられていたブラックサラリーマンだったこの俺なんかが!


胸の中から湧き出る喜び。


何かを成し遂げた漢だけが噛みしめる喜び。

おっさんは『違いがわかる漢』になったのだ、さまざまな神の輝きがまぜこぜになってゴールデンな輝きがブレンド状態、まさに『違いがわかる男』なのだ!ナニソレ?



「よっしゃあ!今夜は神界の銘酒酒場『聖なる魂が昇天しちゃうぞ』で祝勝会だ!!

「やったわね経費で飲み放題よ!」

「よしよしよしキタキタキタあーーーーっ!」


勝手な叫びをあげる神様ズ。


この世界に住む人々も、神様たちも、そしておっさんも。


みんなが喜びに包まれているそんな瞬間。

空は青く晴れ渡り雲がノンビリ浮かんでいるそんな平和な風景。



一瞬にして崩れる平穏。

おっさんの頭上はるか彼方のなんにもない空間でそれは起こった。



パリインッ!



静寂を打ち砕く大きな音がした。

空を見上げると透明なガラスにひびが入ったよう。

なんにもない空間なはずなのに、おっさんの頭上の1点を中心に空がひび割れていく。


やがて空には暗黒の穴が空き、そこからガイコツの両腕がのびてくる。

暗闇の穴を両端からグイッとこじ開けた。



バリバリバリバリッ!!!



落雷が何度もなんども落ちたかのような轟音が連続して響き渡る。

やがてその音が止んだときには空中に巨大な暗黒が渦を巻き、闇の中から巨大な布が降りてくるのだった。

すっぽりと暗黒に包まれたマントを体に巻き付けたその頭頂部は髑髏。

マントに差し込まれているような首も伸びた腕先や足先も骨であり、どうやらこの存在は全身が骨だけで構成されている。骨格に真っ黒なマントを包むように巻いたようだ。


そんなマントな骨男は静かにおっさんの傍へと着地する。スイスイと寄ってきてヒュルリと辿りつくさまは明らかにこの次元のルールに縛られていない。重力も風も空気も感じさせず、宇宙空間を遊泳しているよう。


着地するとその巨体はおっさんよりさらに大きい。

そして骸骨目線でおっさんを睨む。

生物であれば眼球がはまるくぼみには何も見あたらない。あると言えるのは闇だけ。

1ミリも見通せない真っ暗闇が代わりにはまっているのだ。

だが闇に潜む強い意思がアカラサマにおっさんを睨みつけているのだった。


「ぬっ!」

「くっ!」

「こ、これはこれは!」

「なのなのなんなのーーー!」


あからさまに敵。

しかもこれまでの存在よりはるかに格上。

なにせこの世界の大神たちがガイコツの波動に吹きとばされないよう必死で足を踏ん張っているのだ!

全身を緊張させ、全ての能力を相手に向けて対峙しているのだ!


ひとりを除いて。


「ええわかっていましたよどうせこうなるって?終わったと思った瞬間に追加作業の連絡が入る、はたまた別件のクレーム電話が狙いすましたかのように鳴り始める。これこそいつも通りってヤツですよ!!」


達観!!

嗚呼、これぞ無我の境地!

そうだ、おっさんは死に直面なんてしなくても既に達していたのだ、悟りを開いていたのだ!!


終わりなく続いていく残業、目の前の仕事にまったく完成がみえていないのに次々と重なる新たなタスク。嘆いてもはじまらない、文句言っても仕事はなくならないのだ!


「さあ皆さん元気出して立ち向かいましょう。今日は祝勝会ですよ、さっさと終わらせないとあまり時間もないのでしょう?」


神様ズを励ますただの魂ヤマダ。アンタ何様?なんて野暮を言う存在はここにはいない。

そしておっさんがぬけぬけと言ってるのはただの社交辞令だ。

これはもうダメだこの後なんてあり得るハズがないのだから。

さっさと終わらせて一杯行けるのであればめちゃくちゃラッキーだ、だけどめちゃくちゃラッキーなら仕事が完成した瞬間に次が始まったりしない!つまりはもう詰んでいるのだ!


それでも。


ガックリしてる若いヤツラ?の前にチョッピリでもやる気が出る言葉を言ってしまう。それがヤマダ。

ブラックを抜けきれないチキン。


なんといってもこの世界の創造神ですら彼を面白がっているのだから。


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