第25話 los!
暗黒竜を打ち破ったおっさんが地面に突き刺さって気を失っているその頃。
モビルアーマーFT-ZXは上空でホバリングしながら眼下に広がる戦況を見定めていた。パイロットはもちろんエミイ。
ヤムダは暗黒竜を突き破り地面深くでおねんね中。
ユーリ・エストラントは魔法詠唱で動くことができない。
敵のゴーレムは倒れこんで自分を修復するのに手いっぱい。
みんなみーーーんな手いっぱい。
うふふふふやりたい放題タイム到来っ!まずはあの顔面から地中に突き刺さっているヤムダをひんむいて激写するところから・・・
だけれどもココには2体の『動けるもの』が存在している。
1体はFT-ZXに搭乗しているエミイ。
もう1体は敵側にいる。灼熱魔人だ。
魔人は動きの取れない敵と味方を見渡したあと、空中のFT-ZXを指さした。
ニマァ。
皮肉な笑いが悪役そのもの。
貴様の番だ
口に出さなくったって伝わる。
貴様を八つ裂きにして獄炎で焼き尽くしてやると言っているのだ。
灼熱魔人の真っ赤な瞳が燃え上がる。まるでどこかのロボットのようなビームが両目から放たれると、相手の精神を破壊する感応波がエミイの脳に直撃した。
地獄の業火に焼かれ己の存在をへし折られる洗脳波。元の世界では浄化の炎だ。
一瞬で絶望を悟らせるほどの意識誘導。
世界を救う崇高な勇気が後ろからヒザカックンされたかのようにホニャホニャと崩れてしまう。相手を畏怖させ破滅すら覚悟させる圧倒的強者の波動に飲み込まれてしまう。ヒト睨みで弱者を屈服させてしまう魔人の威圧。
どんな機械をあやつろうと所詮はこの世界の下等生物。
ワレの眼圧に耐えられるわけもなし、今はもう震え泣き叫んでおるかもしれん。
FT-ZXの操縦席では灼熱魔人のパフォーマンスにプルブルと震えるエミイ。
自分自身を抱きしめており、俯いたその顔の表情はわからない。
ポタリポタリと顔から水滴が滴り落ちるその様は、まさに異世界の魔人が発するオーラで恐怖に怯え泣き出す乙女そのものであった。
エミイはそんなタイプではないけれど。
よほどに心を強く保てる強者でなければあっさり陥落してしまう魔人の能力。
か弱い乙女が耐えられるはずがない。
それが『か弱い』乙女であれば。
恐怖。
絶望。
激しい邪念のオーラが渦巻く場所なのだ。
巻き込まれないために必要なのは相手より強い覇気。
そんなもの持っていない?
それならば。
相手より強力な邪念があればよい!
灼熱魔人の邪念オーラ?エミイにとってはそよ風みたいなものでいっそここちよかった。
この魔人がどんな手段をとろうとも、結局は相手に打ち勝つというスポーツ選手のような清廉な目的でしかない。可愛いものだ。
わかりやすく純粋なのだから。
紆余曲折をへたエミイからすれば、思わずふふふと微笑みが浮ぶ。可愛らしいものでも見ているかのよう。
小さな小さな仔犬ちゃん。
自分より大きな相手に精いっぱいの虚勢を張ってキャンキャン吠える。
あらあら。
躾けないと。
ペロリと舌なめずりしたエミイの脳裏で灼熱魔人は便利グッズ。あの炎を使えばヤムダはどんな姿をみせてくれるのでしょう?
操縦席でエミイが震えているのはおっさんを想像してイッちまってるからであった。
脳内ではおっさんヤムダが地獄の業火に焼かれ「アッチャイィ~ンッ!!」意味不明の叫びを上げて両足を交互にリフトアップ、足の裏が焼け付いてしまわないよう踊り狂いながら必死で泣ぶ姿。
エミイが両手で自分を抱きしめるのは、そんな妄想で高鳴る胸を必死におさえるためだ。
そしてエミイから滴り落ちた水滴は涙でなくヨダレなのだった。
おっさんの前世の趣味のひとつは、古き昔の青春小説を読みキュンキュンすること、ダイヤのように輝く涙をポロポロリンと流して過去に想いをはせる。
ショボショボしてボヤける視界でメガネをはずしたり老眼鏡をかけたりしながら瞳をうるませる自分を思い出してはダメだ。
可憐な女の子、勝ち気で純粋な男の子の甘くて酸っぱい初恋なんて大好物。
そんな清く切ない世界の住人となる瞬間にアタリメをあぶってポンシュのアテにしている自分の姿なんて思い出してはダメなのだ。
乙女心が育ちまくったおっさん。得意技は勝手な思い込み。
すぐに気づかされることになる。
『可憐な少女』がか弱い存在である理由にならないことを。
『乙女』が守られるべき存在である理由にならないことを。
パシュウゥゥンッ!
FT-ZXの背中のパーツ、通称ランドセルからいくつかの簡易ロケットが打ちあがった。
超上空で外装がハズレると内部に格納されたミラーのパーツが展開する。
月面のコロニーでFT-ZXを光の暴力で叩きのめした光学砲台の簡易版。
サクと二人で思い出しながらモビルアーマーのAIに相談して追加した新兵器だ。
使用すれば高熱でミラーも溶解してしまうために1回こっきりしか使えないが、集約した太陽光はどんなものでも溶解し蒸発させ、そして消滅させる。
はるか上空にいくつもキラリンと光るミラーに気付いた灼熱魔人。
自分が負けるなんてチッとも思っていない。
あの機械が使う光の力は自分と相性がよい。自分が扱う炎もまた光と熱を発する。
属性が近いならば魔人である自分に効くわけがない。
だって自分は灼熱魔人だもの。
暗黒竜は残念だったが、アレは暗黒属性と相反する属性であったから。
一本筋の通った竜だった。
あいつか俺か?この試練を乗り越えればどちらかが次世代の神へと昇格しただろう。
お互いはライバルという存在ではない。
魔人や精霊の頂点にいる自分、あらゆる生命体の頂点にいる暗黒竜。
同じ次元の住人でも住んでいる位相が違う。
あちらの世界では出会うことなんてないのだから競い合う相手ではない。
ただ互いに存在を積み重ねてそれぞれの世界で王となってしまった存在。
経てきた経験も存在する理由も違う。
それでも同じような孤独な存在が他にもいて自分の宿命を果たしている。そんな事実にどれほど勇気づけられただろうか。
闘いの最中に想いをめぐらせてしまったのが灼熱魔人の失敗であった。
自分が負けるわけがないという自負がそうさせたのか。
かれこれ数か月もともに戦った暗黒竜が討たれてしまいちょっぴりおセンチになってしまったのか。
そのために光学砲台の持つ『発射までに太陽光を集約する時間がかかる』という弱点は見事にチャラとなってしまった。
この世界が灼熱魔人の属する次元であればまた違ったのだろう。
だがこの世界の太陽神も光や炎の精霊たちも、異次元の侵略者を応援することはない。
灼熱魔人がこの世界で発する獄炎から10倍もの超高熱が発射されるまで、もう数秒もないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます