虚空のアノニマス
マギヒトカ
第1話 フレア=アサミヤ
バンズ、レタス、トマトにビーフパティにオンザ・何かしらのソース。基本的なハンバーガーはそのような構成になっている。普段これを食べるときは、あまり意識することはない。完成された1つのハンバーガーという個体として認識され、栄養があるんだか体に悪いんだかわからないが、美味しいし強固にお腹が満たされるジャンクフードとしてカブり付き、咀嚼され、コーラと一緒に胃に流し込まれる。
これは別にグルメ物語が始まったわけではない。私が今何をしているかというと、ホコリ臭いコンクリーの上にぶちまけられたそれらの食材を、半ば泣きながら拾い集めているのだ。ひとつ屋根の下で暮らしていたハンバーガーは一家離散でそれぞれの具材がもはや他人として、各々の生活を営んでいるように見える。
さらに何故そんなことをしているのか? という問いに答えるならば、「印獣」と呼ばれるランダムポップアップするモンスターに遭遇し、不意打ちを食らったから。さらにさらに何でハンバーガーなどを持ち歩いていたかというと、Uber Eatsの配達をしている最中だったから、というところで、大体の疑問に答えきれたかなと思う。
そっか、お前は誰だっていう疑問もあるか。それは――
「あー、フレアちゃん。ちゃんとバーガーのタレも洗い流してね。カラスが寄ってきたり、虫が湧いたりするからさ。ダメよ。女だてらの「デフィーター<印獣討伐員>」だからって、自分のかわいいおケツは自分で拭かないとね。アルバイトしなきゃいけないほど、困窮してるのが悪いんだもん」
政府の現場管理官の方が代わりに説明してくれたようだ。嫌味とセクハラをふんだんに盛り込んで。
うん、まあ、そういうわけで、要約すると、強くて美人なデフィーター<印獣討伐員>の私だけど、討伐業が芳しくないから、少しでも売上を担保するためにUber Eatsで副業(バイト)してて、そのさなかに本来の事業内容である印獣にエンカウントして、不意打ち食らって、配達中のバーガーを地面に食べさせることになって踏んだり蹴ったりなうってわけで。ああ、このあとバーガー屋さんにも、配達先のお客さんにも怒られる未来が待っているのね……。
「あの……お助け頂戴しまして、感謝差し上げます」
1つ忘れてた。印獣に襲われてた金持ちそうなご令嬢をお助けしたのよね。でもまあ別に、だからって降りかかってきた不幸のどれかがチャラになるわけでも何でもないんだけど。とびきり変な喋り方なのが気にはなるけど、お礼にすべての損失を補填してはくれないかしら? そんなことを考えながら、私はさっきの印獣との戦いを苦々しく思い返していた。
END
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