散歩

 その日は絵に描いたような快晴でしたから、気分転換に、ぼんやりと散歩をしていたんです。本当にいい天気でしたので、うっとりして、つい遠くの市街地まで訪れてしまいました。いったん、上の青空を見上げると、奥行きの測れない蒼いガラスに引き込まれて、ぐいぐい視界が狭まれていきました。すると急に、肩に何かがぶつかって、青空からの脱出には成功したのですが、後ろの方を向くと、スーツを着て、髪型がきちっとしている、いかにも会社員という感じの男性が倒れていました。男性がこちらをにらんでいて、すぐにでも逃げ出したかったのですが、人並みの道徳はもっていましたので、手を差し伸べようと思い、近づくと、地上のアスファルトに男性が沈んでいました。こんなことは初めてですから、どうしていいかもわからず、困って、ただ見守ることしかできませんでした。ちょうどダイラタンシーに鉄球が落ちたような早さでゆっくりと沈んでいくものですから、にらむ男性に怯えながら、結構な時間、おどおどしていたわけです。すっかり男性が毛の先まで沈んでしまうと、アスファルトは怖いほど来た時と同じ様子をしていて、もう、二度こんなものをみせられることがあったらたまらないと思い、散歩は中断することにしました。家に帰る途中は、誰にもぶつからず、一度も転びませんでした。

 以上が明日の出来事になります。

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