第4話 理不尽に抗ってみようかな。

 地下牢に入れられて一日が過ぎた。


(勝手に召喚しておいて一部があか色というだけで地下牢行きとか)


 看守は夜と朝の二回、私が過ごしている地下牢の前に立ち下品な罵詈雑言を繰り出しては戻った。私の食事はまだ無いが、近いうちに用意されると看守が言っていた。

 ただね、本来の看守は監視するだけの存在のはずなのだが酒精の匂いをさせながら唾液を飛ばすさまは呆れて物が言えなくなる様相だった。


(一体、なにがやりたいのやら?)


 それは一種のストレス解消のようで罵詈雑言の言葉には「裏切り者」やら「お前は生きている価値がないから死ね」と意味不明な言葉を好き勝手言ってくれていた。

 しかも、私の両手両脚には鉄製の枷が着いておりなんらかの封印が施されていた。


(鑑定は使えるかな?)


 私は入口前に佇む看守の様子を把握しながら枷を鑑定する。


 ──────────────────

 魔力封じの腕輪(火属性のみ)

 魔力封じの足枷(火属性のみ)

 ──────────────────


 これらは火属性持ちのみを封じる、心許ない枷でしか無かった。

 詳細を調べると対応Lvが八〇。私が本気を出せば外せる代物だった。

 なお、鑑定偽装で与えられた制限は容姿の偽装とMP削減、攻撃力削減だ。


(勇者補正が生きているから無意味よね?)


 鑑定偽装の裏に隠れている技能スキル行使は普通に可能だった。

 鑑定が出来ている時点で分かりきった話なのだけど。


(うん? 称号におかしな文言が追加されているわね。〈あけを身に纏った者〉とか一種の罪歴みたいな扱いとか? 捕縛されている間に追加されたのかも)


 いやはや、どのような理屈でこのような称号が付与されたのやら?

 ステータスに表記された称号を鑑定すると〈裏切り者:世界を破滅に導く者〉という意味不明な詳細が出てきた。いや、マジで意味不明なんですけど?

 それこそこの世界の住人の都合を強引に押し付けられているだけとしか思えない。


(父さんはどう思っているのかな?)


 覚悟という単語な割に軽口のように注意されたけど。

 処刑というだけあって私を殺しにかかっていることだけは判明したけどね。


(というかヒマぁ。娯楽はないの? 看守の罵詈雑言以外の楽しみが欲しい!)


 なんて思っていると頭上より聞き覚えのある声音が響いてきた。


「昨日はともかく、いきなり訓練とか最悪だ〜!」

「剣士が私だけって酷くない? 他の女子は一人を除いて魔道士や神官だよ?」

「斥候も居るぞ〜。それは見た目的に腕っ節がいいと思われたとか? 知らんけど」

「私だって女子なんだけど! 抱き心地が良いとか言っていたくせに!」

「バカップル喧嘩するな。請われて承諾した以上はやるしかないって」

「「変態に言われたくない!」」

「変態だと!?」


 そこは通気口。夜になると月明かりが差し込む天然の照明から聞こえてきた。


「でもさ。世界を救ってくれとか主語の大きな言葉を言われても困るよね?」

「反応に困るとしか言えないな。なにをするかも示されないまま訓練だって集められて今があるし」

「仮にここで反発すると水月ミツキさんのように処刑されそうだしね」

「だな。この世界は無駄に命の扱いが軽そうだし」


 三人の声音の内、一人はアカツキ君。

 残り二人の男女は四組のバカップル、鈴代スズシロ君と街内マチナイさんだった。たまたまカラオケに参加表明をしたがため異世界召喚に巻き込まれてしまった不運のバカップル。

 彼氏である某氏は沈黙したまま二人の会話を聞いていただけだった。


アカツキの彼女も王太子殿下に寝取られたしな」

「おいこら! まだ寝取られてねーよ!」

「そう? 夜中に呼び出されて嬉しそうに寝室から出ていったけど」

「なん、だと?」


 あらら。蒼李アオイってば早速、股を開きに向かったのね。

 最愛の彼氏が居るというのに、あちこちに粉をかけまくる蒼李アオイ

 我が妹ながら節操のない、股の緩い女の子に育ってしまったね。

 私が処女で妹は非処女。ここでも違いが明確になった気がするよ。


「もうさ、アカツキも諦めて、姉と付き合ったらどうだ?」

「ちょっと! 付き合う以前に姉は処刑されちゃうよ?」

「あ、そういえばそうだったか。すまん。今言った事は忘れてくれ」

「お、おい。姉だと? 俺が付き合っているのは水月ミツキ姉だぞ?」

「「はぁ?」」


 おや? 私達姉妹の差違に気づいている人達も居たのね。

 普段は空気を読んで聞き流していただけなのかもしれない。


「お、お前。頭、大丈夫か?」

「俺をバカにするな!」

「バカではない自覚はあるのね」

「お前等、喧嘩売ってるのか!」

「いや、ウチの高校、偏差値高いぞ」

「そういえばそうだった」

「お前等」


 これは二人の言い分が正しいかもね。

 私でさえ心配になるくらいのバカだから。

 頻繁に男漁りして試験が赤点ギリな蒼李アオイ

 父の手伝いの合間に勉強して学年二位の私。

 廊下の結果では水月ミツキ朱李アカリは有名だ。


「そういえば全国模試で一位を獲って全校生徒の前で表彰されていたな」

「臨時で行われた朝礼よね」

「知らないぞ? そんな朝礼」

「「欠席者だったか」」


 年末の就活で大忙しだったからでは?

 蒼李アオイと同じ会社に勤めたくて躍起になっていたし。

 それこそ彼氏ではなくストーカーだと疑いたくなるレベルで。


(独占欲が強いというか嫉妬深いというか)


 これを知ると蒼李アオイに奪われて正解だと思わざるを得ない。


「ま、一兵卒に落とされた彼氏と聖女の禁断の恋が終焉したってことで」

「そうね。アカツキ君は新しい恋を探してみたら?」

「おいこら! 勝手に恋愛を終わったことにするな!」


 いや、既に終わっているでしょ?

 ここは異世界で産まれ育った世界の常識は通用しない。

 召喚という名の拉致を行われた直後から常識を押し付けてきたのだもの。

 バカップルのように一兵卒だったなら交際も継続しただろうが蒼李アオイは似合わない聖女になり、あっけなく彼との交際を終わらせた性女となった。

 その証拠に、


「あ、噂をすればアカツキ君の彼女が王太子殿下の隣で胸を押し当ててる」

「な! なん、だと?」

「これが現実だ。素直に受け止めろ」


 地下牢からは見えないが、蒼李アオイの浮気現場を目撃したようで、バカップルから慰められていた。これが現実。一方的な愛情は重すぎるってことなのかも。


(これは別れて正解だったね。中学時分の蒼李アオイ、グッジョブ!)


 私がそう思うと蒼李アオイが盛大なクシャミを発していた。


「大丈夫か?」

「え、ええ。急に妙な寒気を感じまして」

「無理は良くない。今日は寝所にて休むがいい」

「お、御言葉に甘えさせていただきます」


 そんな会話が地下牢の入口付近から響いてきた。

 蒼李アオイはそそくさと侍女を連れて寝所に戻った。

 残った王太子は複数の足音をさせながら地下牢に入ってくる。


(これは御対面かな? 下手に顔を覚えられても困るから眼鏡はそのまま)


 とはいえ蒼李アオイとそっくりなので意味はないが。


「殿下のお越しである。頭を下げろ!」

「……」


 これは無視の一択だよね。

 一方的に常識を押し付ける輩だもの。


「おい! 聞いているのか?」

「どうせ死せる運命にある者だ。下手に命じたところで時間の無駄だ」

「しかし殿下?」

「くどい!」

「はっ! 失礼しました」


 割と物わかりの良い殿下なのかもね。


「さて、貴様には聞きたい事がある」

「……」

「答えれば処刑を無くす事もだ」

「……」


 横目で見た限りだが、なにかしらの技能スキルを行使しているね。

 状態異常耐性がフル稼働しているから私には通用しないけど。


「なぜ、あけに選ばれた?」


 知らんがな。これはどちらかと言えば自分で選んだ結果だし。


「我が国では五〇年前からあけは出現していない」

「それがなにか?」

「殿下の許可なく喋るな!」

「貴様が、黙れ」

「はっ!」


 この瞬間、殿下の気苦労が垣間見えたよ。

 許可がないまま喋るなって「お前が言うな」だからね?

 答える前提なのだから許可は出ているものと思いなよ。


「今一度、問う。なぜ、あけに選ばれた?」

「火精霊の気まぐれでは?」

「そうか、気まぐれか」


 私の問い返しになぜか笑顔になった王太子。


「我の人心掌握が効いていないか。あけを持っていても、勇者なのだな」


 それが王太子の技能スキルなのね。

 鑑定すると一種の尋問技能スキルのようである。


(王太子のLvは六九か。それなりに高いのね。人族の上限がLv八〇だから勇者にはなれないが、英雄にはなれると)


 チラ見鑑定で気づかれないのは滑稽だけど。


「処刑の日程を伝える。貴様は二週間後の早朝より、市中引き回しを実施する。そして六日の移動ののち、国境沿い〈嘆きの渓谷〉への墜落刑とする。それまでの間に辞世の句でも詠むことだな」


 変なところで戦国時代。文明レベルで言えば有り得るのかな?


「そうね。こんな国、物理的に消し飛んだ方が、世界のためになりそうね。いっそのこと私が消して差し上げましょうか?」


 私はそう、地下牢から出ようとしていた王太子に告げた。

 立ち止まった王太子は恐る恐る振り返る。


「そ、それが貴様の辞世の句か?」

「根拠の無い冤罪を被せられたもの。一方的に異世界から呼び出しておいて都合の悪い者が居ただけで理由を告げることなく処刑よ? そのような者達に召喚陣を使う資格なんてあるのかしら? 私は神の怒りを買ってまで召喚した理由が知りたいわね」


 王太子は私の問いかけに青ざめ、沈黙を選んだ。


「……」


 そうなると私達に知られたくない思惑が存在するのだろう。

 沈黙した王太子と違い、看守は黙らなかったけど。


「だ、黙れ!」

「お前が黙れ」

「「ひぃ!」」


 おっと。威圧技能スキルなんて持っていないのになぜか怯えられた。

 これはおそらくLvか魔女の持つ基礎技能スキルなのかもしれない。

 王太子達は恐慌状態になったまま地下牢を後にした。


「アンモニア臭が急増した理由は知らない方がいいかな?」


 私は急遽、見える範囲を聖魔法で浄めておいた。

 不潔な空気は病気を生むし。二週間後まで健康維持は必須だもの。


(逃走は処刑日になるのか。そうなると暇だよね。あ、そうだった! 面白技能スキルを探し出して有効化してみようかな? 脱獄ではないけど冒険者としてなにかしらの仕事が出来るかもしれないし、資金集めも必要だもの)



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