妹のクラスメイト、家にいます

真冬のスイカ

プロローグ

 ドアを開けると、薄暗い玄関の照明がぽつんと俺を出迎えた。外はもうすっかり夜。オフィスを出てから電車に揺られる間、いつも頭をよぎるのは「ああ、早く家に帰りたい」という思いだけ。仕事は嫌いじゃないけれど、どこかで張り詰めている気持ちがあるのだろう。家に着いてドアを閉めると、ようやく外界との薄い膜が自分を守ってくれる気がする。


 もっとも、守られている割にこの一人暮らしの部屋は必要最低限のものしかない。八畳ほどのリビング兼寝室と小さなキッチンスペース。テーブルとソファ、ベッド、それだけでほぼ床が埋まってしまう。生活感というよりは「生活を続けるための場所」といったほうが正しいかもしれない。


「ふう……」


 ため息をつきながら靴を脱ぎ、弁当を机に置いて部屋の電気をつける。帰宅してからは食事してシャワー浴びて寝るだけ。それがいつものパターンだった。


 そんな日常が突然揺らいだのは、深夜近くに鳴った玄関チャイムの音だった。

 こんな時間に訪ねてくる人なんて、俺には思い当たらない。配達は頼んでいないし、友人がアポなしで来るようなタイプでもない。

 「なんだろう……」と少し戸惑いながらドアを開けると、そこには——


「兄ちゃん、ごめん。もうどうにもならなくて……」


 俺の妹・莉香りかが、見知らぬ女の子を連れて立っていた。

 女の子は高校の制服の上にダボッとしたパーカーを羽織り、帽子まで深くかぶっている。夜の冷たい空気を背負って、肩を小さく震わせていた。


「えっと……クラスの友達で、家出しちゃったんだって。今夜だけでも泊めてあげられないかな?」


 そんな言葉に、俺は一瞬返事がつまった。だって、家出少女を泊めるなんて、常識的に考えればヤバい匂いしかしない。

 それに、俺が住んでいるのは“寝る場所が確保できれば十分”というスタンスで選んだ八畳のマンション。二人でもぎゅうぎゅうなのに、ましてや女子高生……? 


「……事情は? まさか本当に放り出されてるわけじゃないよな?」


 俺が半ば呆れたように訊くと、妹は困った顔で視線を落とした。

「……そこは、結希ゆきの方から出てっちゃった感じみたいなの。親御さんが再婚して、正直、結希が家にいてもいなくても気にしないっていうか……。むしろ、出ていって欲しいみたいで」


 再婚して娘をほったらかしか。正直、想像しづらいけど、妹の目は嘘をついているようには見えない。そして、女の子——結希もずっと顔を上げずに黙っている。

 で、そんな二人の姿を見ていたら、どうしたって「無理、帰ってくれ」なんて言えるわけがない。

 まさか、妹のクラスメイトが家出してきて、僕の部屋に泊めることになるなんて――想像を遥かに超えた展開だ。

 俺は少し頭をかいて、ゴクリと息を呑んだ。


「……わかった。じゃあ、とりあえず……上がってよ」


 そう言った瞬間、結希が初めて「すみません……」と消え入りそうな声を漏らした。パーカーのフードの奥で、大きな瞳が震えているのが見えた気がする。

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