勇者学院ブレイブソウル

宮杜 有天

第1話

 晴れた空の元、二つの人影が交錯する。刹那、木の打ち合う音が響いた。

 一つは黒髪の少年。その手に握られているのは木刀だ。もう一つは赤毛の少女。彼女が手に持つのは木製の槍だった。二人とも訓練服に身を包んでいる。


「アース。今日こそアンタから一本取ってやるんだから!」

「俺も負けねぇぜ、シャロン!」


 シャロンと呼ばれた少女の言葉に、少年――アースが応える。

 シャロンが鋭い突きを放つ。アースはそれをしのぎの部分で弾いて素早く踏み込んだ。体を開くと同時に右片手持ちにした木刀で相手の顔を狙う。

 シャロンは後ろへ跳ぶ。躱しながら弾かれた槍の穂先を相手に向けた。追撃をさせないための牽制だ。

 一連の攻防を終え二人が再び構えた。


 二人がいるのは勇者学院第二訓練場。アースたちを含め、二十人近くの生徒たちが訓練に勤しんでいる。

 勇者による魔王討伐が成されて百年。未だ人族と魔族の争いは続いている。再び魔王が現れることを危惧した人族は、切り札である勇者の育成を行うことにした。

 それがこの勇者学院だ。


「女の子の顔を狙うなんて、サイテー」


 シャロンは不敵な笑みを浮かべて言う。ゆっくりと退がりながら穂先を後ろへと回し、石突をアースへと向けた。


「シャロンなら躱すと思ってたぜ」

「ふんっ」


 シャロンが間合いを詰める。同時に槍を上段から打ち込んだ。刃にあたる部分がアースの頭上から迫る。

 アースは一歩前に進み刃の内へと入った。槍の動きは木刀で止める。そして体を沈めると同時に、木刀を回して槍を巻き込んだ。


「っ!」


 穂が地面に抑え込まれる。シャロンは素早く片手で槍を引いた。それから穂を掬い上げるように突き出す。

 アースはそれを木刀で受ける。頭部を狙った穂は木刀に逸らされて空を突いた。立ち上がる勢いを利用してアースが槍を跳ね上げる。

 大きく体勢を崩すシャロン。その胴にアースは左片手持ちした木刀を軽く当てた。


「?」


 予想外の軽い衝撃に戸惑い、少女の反応が鈍った。木刀に押し込まれる形でシャロンが尻餅をつく。


「また負けた!」


 剣先を顔の前に向けられて、シャロンは悔しそうに叫ぶ。


「アンタの剣術ってなんなの!? スライムみたいにねちっこい動きで封じてくるし。ほっんとキモい!」

「キモいって言われてもなぁ。っちゃんにはこれしか教わんなかったから、他を知らないし」

「もう一回勝負よ!」シャロンは勢いよく立ち上がった。

「なんじゃ。また負けたんか、七光り」


 アースとは別の、少年の声が聞こえてきた。

 シャロンは鬱陶しそうに声のした方を向く。二人と同じ歳くらいの少年が立っていた。

 茶色の巻き毛。額には目のような紋様があった。背は高く痩躯で、二人と同じく訓練服を着ている。


「うっさいわね、ユージン。アンタだってアースに負けっぱなしじゃない」

「負け越しじゃが何度か勝っとる。で、おぁは一勝でもしとったか?」

「くっ。でもアンタには何度も勝ってるから!」


 ユージンはシャロンの言葉を鼻で笑った。


「ワシの方が勝ち越しとるがの」

「なら、次はアンタと勝負よ。スキルが使えない魔術師さん」


 穂先をユージンへと向けてシャロンが言う。


「それを言うたら、お前ぁは魔術を使えんじゃろが。ガキみたいな煽りはよせ、七光り」

「七光り、七光りってうるさいっ」

「父親の自慢ばぁして威張っとるヤツが、七光りじゃのうてなんなんじゃ?」

「威張ってなんかいないわよ。アンタってほっんとムカつくヤツね」

「気が合うのう。ワシもお前ぁが気に入らん」


 一触即発。シャロンとユージンの周りだけ空気がピリピリし始める。


「相変わらず仲いいな」

「どこがっ!?」

「どこがじゃっ」


 アースの言葉に、二人が同時に返す。アースはそんな二人を見てニコニコしていた。


「アンタまで莫迦にして。纏めて叩きのめしてやるんだから!」


 シャロンが槍を構えた。穂先を地面すれすれまで下げて、低い姿勢ををとる。


槍技スキル・――」


 シャロンが口にした言葉に、周りで訓練していた生徒たちがざわめきだした。


「マジか。基礎訓練ってスキル禁止だろっ」


 生徒の一人が叫ぶ。


「お前ぁのスキルは、木製の槍と相性最悪じゃろが」


 ユージンが呆れたように言う。彼の体にいかづちが纏わり始めた。


「やばい逃げろ。巻き込まれるぞ!」


 蜘蛛の子を散らすように生徒たちがシャロンとユージンの周りから離れていく。


「――炎槍円舞っ」


 槍の穂が炎を纏う。シャロンが動いた。槍の長さを生かして、遠い間合いからの連撃。対複数を想定したシャロンの槍技スキルだ。

 槍が最初に狙うのはユージン。次いでアース。

 穂がその姿を捉える前に、ユージンが雷と共にかき消えた。アースの方は相変わらずニコニコ笑ったまま動かない。突き出された穂先はアースを捉える……はずだった。

 しかし槍はアースに届かなかった。槍の先端がなくなっていたのだ。


「あ……」


 シャロンの動きが止まる。逃げていた生徒たちの足も止まった。

 ユージンがアースの横に現れた。ニヤニヤしながら、ただの木の棒になった槍をのぞき込む。


「また燃やしちゃったな」

「懲りんヤツじゃのう」


 アースとユージンの声が、静かになった訓練場にこだました。

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