第54話 夏の予定は
高校生活最初の長期休暇目前となった天ノ橋高校。生徒たちは午前で授業を終えてそれぞれの時間を過ごしている。
涙、陽、マーティも学校終わりにショッピングモールのフードコートでそれぞれファストフードを買って、食べながら話をしているところ。
「揚げ物だらけになってしまったな」
「イイじゃん! なんか小さいパーティ開いているみたい!」
「ついクセでサラダを頼んだ僕が間抜けみたいだ……」
四人掛けのテーブルで肩をガクッと落としている涙を二人は宥める。
「冷めちゃう前に食べようよ。いただきます!」
マーティが自分のハンバーガーに手を付ける。続いて陽もサンドイッチを手に取って人齧り。涙もドリンクを飲む。
「陽は夏休み旅行とか行くの?」
「んー、今年は無いかなぁ。紺七は部活の合宿があるし、姉ちゃんもサークルの人たちと一緒に居るって言ってた。父さんも仕事の休みが取れそうにないって言ってたし。涙は? 家のこととか大丈夫なの?」
「まぁそれなりにはね。管理は親戚にしてもらって、今は恩人の家に住ませてもらっているよ。その人と趣味が合ってね、毎日いい感じにロボット工学に没頭出来てるよ」
「マーティは日本に慣れたか? 兄貴はあれから帰ってきたのか?」
「日本に来てもうじき一年だからね。日本語も、二人が一緒だったからケッコーイイ感じになってきたでしょ?」
涙と陽が相槌代わりに微笑んだ。
「ちなみに、兄さんは帰ってきたよ。ボクと違ってドライだから、帰ってきてからまだ大した会話はしてないけれどね。ボクもオーストラリア行きたかったなぁ」
「いつか三人で行きたいね」
涙の言葉にマーティがにっかりと笑って頷いた。
「そういうヨウは、サマーバケーションはどう過ごすの? ずーッと家で勉強っていうのはちょっともったいないよね?」
「どうしようかな……って思ってるんだよね。その……二人が良ければなんだけど、勉強会したり、ちょっと遊びに行ったりとかしたいな~とか思ってたり」
どっちつかずな言い方をする陽。
彼のことをよく知る涙はそれを遠慮と取り、言葉通りに受け取ったマーティは迷いと取った。
「別に臆することは無いよ。勉強会も遊びに行ったりすることも僕はできるよ。マーティは?」
「ボクも日に寄るけど問題ないよ。イギリスにも今年は帰らないし。いつがいい? ヨウとルイが決めて良いよ」
断られるかもしれないと思っていた陽は呆気にとられる。
「陽がいつでも空いてるなら、日程は僕が決めるからどこに行きたいか候補出してよ。あ、宿泊はちょっと無しかも。やっても陽の家とか近場限定ね」
「あはは、助かる。俺スケジュール管理とか苦手だし。まずは勉強会したい。実技系の課題とか楽しく終わらせたいし。それから最近隣町にできたアスレチック施設とかも行ってみたい。ちょっと気になってるんだよね。スポーツ観戦とかもさ、したくない?」
「行ってみたい! この間、野球部のみんなが大きな大会に出るために頑張ってた! ゼンコク大会……? には進めなかったって言ってたやつ!」
マーティが言っているのはおそらく高校野球のことだろう。華都から関西は片道五時間ほどかかってしまう。新幹線の最寄り駅まで頑張っても一時間、そこから新大阪までが四時間。夏の暑さも相まって日帰りをするには不向きである。
しかしそんなことを知らないマーティは目を輝かせている。
「マーティ、お前面白いなぁ! でもその希望は俺の財布が叶えてくれないってさ」
「僕もちょっと厳しいかも。今の家の人が『良いよ』って言わない可能性もあるし」
マーティは愛想笑いをしながら「だよね~」とポテトを摘まむ。星の瞬きはほんの数十秒で消えていった。
「マーティが日本に居る間に一回でもいいから遠出したいね」
涙の提案に陽がサンドイッチを咀嚼しながら「わかる」と答える。
「段階を踏んで徐々に遠いところ行きたいよな。最初は近場、次は都市部、その次は観光地。――最終的に海外とか行けそうじゃね?」
「可能性としてはゼロじゃないよね」
「そういえばマーティの留学期間っていつまでなの?」
ちょうど大きな口を開けてハンバーガーを食べ終わったマーティが二人の視線に目を丸くする。陽がもう一度同じ質問をすると、カレの黒目が斜め上を向いたまま体ごと左右に揺れた。
「確か一年だった気がするんだけど、一年半だった気もするんだよね……。忘れちゃった。また確認しておかないと」
SWORDの契約は突然変わることが多々ある。それこそ山城を引き抜いた例も含めて、幹部たちの思い付きで所属先や異動の話が変更になったり、無かったことになったりもする。
マーティも書面上では一年でサインをしたが、事件のせいで人が減り、都市によって特徴が異なっていた怪奇事件も場所や季節関係なく起きている。もしかすると明日突然マーティが遠いアフリカ支部に飛んだりする確率は僅かにある。
もちろん涙も今晩飛行機でイギリス支部に行けと言われる可能性だってある。
だから明確な数字で伝達することが難しい。
「でも二人と一緒に色んな所に行きたいなぁ。兄さんは誘っても『仕事が休みの日に行こうな』って言ってボクとお休みが合わないようにしているし。ホームステイ先の人たちもね、ボクの話をいっぱい聞いてくれるからボクは楽しいんだけど、離れるときは『ごめんね、また後で聞くからね』ってサッと行っちゃうの。そういうのが続いちゃうとさ、何か寂しくなっちゃうよね」
「それでマーティは夜に出歩いてたのか?」
陽の一言に場が凍り付く。
涙は二人を交互に見る。
「体育祭の晩に俺の家の近くでマーティを見かけた気がしたし、塾の帰り、それも夜遅い時間に、小学校の近辺でなんかしてなかったか? 声かけようとしたときにはもう居なかったからわかんなかったけどさ」
「ボクが夜に出歩いてる? 気のせいじゃない? ボクは学校が終わったら家に直行して兄さんやホームステイファミリーの手伝いをしている。外に出ることはあるだろうけど、夜遅い時間には有り得ないよ。それに“声をかけようとしたときにはもう居ない”って、シュンカンイドー……出来なきゃムリじゃない?」
マーティは陽が向ける真剣な眼差しから一秒も目を離さなかった。
「まぁ、ヨウがシロクジチューボクのことを気にかけてくれているのは嬉しいよ」
カレは優しく微笑みかけて、陽のトレーにあったナゲットを一つこそっと盗って口に放り投げた。
「あ、オレのナゲット食ったなぁ!」
じゃあ俺はお前の取るもんね。陽は涙のオニオンフライを摘まんだ。
「ちょっとぉ、そんなことしなくても上げるってば」
涙もマーティと陽のトレーに手を出してそれぞれからポテトとナゲットをいただいた。
それからはいつもと同じ空気に戻る。夏休みの間にいつ会って、どこで何をするかを相談していると、気づけば昼下がりになっていた。
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