それからとこれからと
『アンコール!!アンコール!!アンコール!!』
「アンコールありがとー!」
ライブも終盤になった。大きなアンコールを受け、ウミカは最後のステージに上がる。
最後の曲は、ナガレボシエールとして一番最初に出した曲。これまでの思いを込めて、高らかに歌う。
「……」
ドームの最上階、客席ではなく入り口付近に人影が現れた。ライブも終わるという時間に増えた観客は、古守ウツロ。
残りの敵を叩きのめし、追加で現れた援軍を一人残らず潰し終えると、気が付けばこんな時間になっていた。後処理を国際警察に任せて、僅かだがウミカのステージを見る為に会場に入った。
今いる観客に迷惑がかからない様に、席からも離れた位置に立つ。
「♪~♪」
ステージの上で歌うウミカは、テレビで見るよりも一層輝いて見えた。
この場の誰よりも楽しそうな姿に、ウツロの口角が思わず上がる。夢の舞台で煌めく姿を見れた。それだけで今回の報酬は十分だ。
彼女のステージを守れた、この結果だけでこれ以上はいらない。夢の舞台で楽しそうに歌う彼女の姿が、何よりの報酬だった。
「みんなありがとー!!」
最後の曲も終わり、ウミカは観客に大きく手を振る。
会場を揺らすほどの歓声の中、ふと彼女と目があった気がした。ウツロがいる場所とステージは遠く遠く離れている。ウツロから見えるウミカの姿は小さく、表情を伺うことなどできない。
観客に席はほぼ全て埋まっている。この大群衆の中から、遠く離れた位置にいるたった一人を見つける事など、普通に考えて不可能なはずだ。
だが、ウツロには確かに、ウミカと視線が合ったのだという確信がある。
「 」
モニターに映るウミカの口が動く。マイクに拾われていないため、何を言ったのかはわからない。だが、言葉と共に咲いた彼女の笑みは、これまでテレビや雑誌などで見てきたどの表情よりも、一番美しい笑顔だった。
こうして、ナガレボシエールの初ドームライブは無事終わりを迎える。
あらゆる邪悪に狙われた夢の舞台は、正義の味方達とたった一人の魔王の力により、誰一人として犠牲を出さず、ただ楽しいライブとして観客全員の記憶と心に刻まれた。
***********
ナガレボシエールのライブが終わり1週間ほど経った。ウツロは自宅で登校の為制服に着替え、残りの時間を潰すためにスマホをつついていると、とあるニュース記事が目に入った。事の真相を知る為、ある人にすぐさま電話をかける。
「これ、どういう事ですか」
『なるほど、ご覧になりましたか』
スマホから聞こえてきたのは、渋い男の声。もちろんジョンさんだ。流れてきた内容について、どうしても聞いておきたかった。
通話を続けながらテレビの電源を付けると、朝の情報番組が映し出される。
『続いてのニュースです。先日行われたライブで大反響を呼んだナガレボシエールさんですが、昨日午後、しばらくの間芸能活動を大幅縮小すると事務所より発表がありました。縮小理由は学業を優先するとの事で、卒業までは活動を控えるとの事です』
女性キャスターが読み上げた内容は、ウツロにとって無視できない内容だった。
「活動休止って話だった筈では?」
ウミカを匿っていたあの夜、ジョンとした話では、ウミカは活動休止と名ばかりの引退する予定だと聞いていた。ウミカ本人からもだ。
だが、流れてきた内容は活動縮小。内容は似ているようでまったく違う。
『こちらとしても、当初はそのつもりでした』
ライブを成功させても、ウミカが狙われなくなるわけではない。今回の襲撃が失敗したとしても、またしつこく狙われるだろう。ウミカにはいくら代償を支払ったとしても、手に入れるだけの価値がある。
今後の襲撃に備えて周りに警備を増やし、外への露出が多い芸能活動は休止する筈だった。
だが、聞く限りでは少ないながらも仕事は継続するようだ。
『色々と状況が変わりまして』
「状況が?」
『ええ、まだ様子見ではありますが、当分はウミカさんを狙う者達は現れない筈です』
ジョンさんが言うには、あのライブ以降ウミカを狙った襲撃もなく、彼女の周りに付き纏っていた怪しい影が消えたらしい。
『あの日、私達は裏で組織の本体に襲撃をかけました。全てではありませんが、そこそこの数を壊滅する事ができました。その結果、様子見に転じた所も多かったのでしょう』
「なるほど」
『それともう一つ、構成員不足ですね。あの日、多くの構成員が再起不能になり逮捕されました。今頃、ウミカさんを狙っていた組織は人手不足でまともに活動できない筈です』
「あー、それってつまり……」
『ええ、そういう事です』
大規模襲撃で人が出払った本拠地に行ったカウンターが、それなりの成果を出した上に、襲撃は失敗したどころか向かわせた構成員は全滅。誰一人帰還できていない。
組織がいくら数があるからといって、人材は無限ではない。裏の組織など補充は簡単にはいかない筈だ。
人手不足の中、他の組織が壊滅したと情報が入れば守りに転じるのも理解できる。
『彼らの補給が整うまでは、ウミカさんに手を出さないでしょう』
「でも時間の問題なんじゃ?」
『いえ、そうとも限りません』
ターゲットが逃げも隠れもできない状態で行われた大規模襲撃だが、結果は失敗どころか手痛い反撃を食らう始末。いくらウミカを捕えればお釣りがくるといえ、成功しなければ大損どころではない。
ウミカを狙う連中からすれば、今回以上の人員を用いたより確実な方法を取らざる為に無駄な消耗は避けるはずだ。
つまり、
『これからも厳重な警備体制は維持しますが、我々が思い描いていたよりもずっと良い状況です』
ウツロは思わず安堵の息を吐く。
友人の未来がいい方向進んでいる。こんなにいいニュースを朝から聞けるとは思ってなかった。
『これも、貴方のおかげですウツロ君』
「ジョンさん達も頑張ってくれたおかげですよ」
『貴方がいなければ反攻作戦も成功しなかった。ウミカさんの未来を切り開いたのは、間違いなく貴方です』
そろそろ時間なので、と言い残してジョンさんと通話が切れる。
時計を見ると、ウツロも登校する時間だ。スマホをポケットに入れ、鞄を持ち家を出る。
いつもは少しだけ憂鬱な朝の通学路が、今日は輝いて見えた。軽い足取りで、少しだけ速足で学校に向かう。
あぁ、なんて綺麗な朝日だろう。
いつもより少しだけ早く学校についた。教室に入り席に座ると、少し遅れてマリアが教室に入ってきた。
「おはようございます。今日はお早いんですね」
「ちょっと良い事があってね」
いつもはマリアが先に教室にいるのだが、今日は珍しく反対だ。
たわいない会話をしているとウツロとマリア、二人のスマホが振動する。
「今日から部活再開だそうです」
「みたいだな。えっと、なになに」
実はウミカのライブが終わった次の日から部活は休みだった。
何やら理由があってホムラとハルカが部活に来れず、マリアも事件の事後処理として放課後は走り回っていた事もあり、部員の半分以上が休むならと休部状態となっていたのだ。
「ビクトリーで集合だって」
「では、いつも通り一緒に行きましょうか」
いつも通り、各々放課後にカードショップビクトリー集合と連絡が来た。
ホムラとハルカとは違うクラスで、ダイチ部長とはそもそも学年が違う。部活のある日はいつもマリアと二人で移動するのが日常だった。
「お前ら席につけー。朝礼始めるぞー」
チャイムと同時に担任が教室に入り、朝礼が始まった。
いつも通りの日常がまた始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます