『VIR▲L CODE』遺伝子覚醒者たちの電脳戦争
あくるよ!
第1話 あの人に
「あなたはあの人に似てるわ」
どこからかそんな声が聞こえてくる。
私は「違うよ。私は分からないよ」と答える。
「いいえ。あなたのその顔つき、それにその性格はそっくりよ」
やめてくれ。私には分からないんだ。
「貴方はあの人みたいにならないでね」
私はゆっくりと答える。「ならないよ」
「そう。貴方もあの人みたいに居なくならないでね___________」
目の前に現れた母親の顔はドロドロと変形していき、私を見つめている。
「ママは亡霊を追っているの_____________」
はっとなり、気がつくとベットから起き上がっていた。嫌な夢だ。ベットには汗が滲んでいる。
ごめんなさい。ママ。
私が追っているんだ。亡霊を。
ママはもういないというのに未だに夢に見る。
私がきっと追っているんだ。あの人を。
会ったことのない父親を。
家族を失いはや3年が経った。
今だに空虚感は拭えないがそれなりに生活できていた。いや生きなければならなかった。なぜだか分からない。人間としての本能だろうか。
兎にも角にも私は立派に働いている。このクソッタレな世界でね。
嘘まみれの過大広告に金さえあればなんでもするクソども。という私も金のために汚れを仕事をしている立派なこの世界の住人なんだ。嫌になっちゃうね。
今日の仕事はドレスコードがある。亡き母の残したフォーマルな格好を手に取り鏡の前に合わせる。似合っているのだろうか。
外は真っ暗。ネオンが至る所で光り輝いている。がその下には焚き火に群がるホームレス達。
この世界は残酷だ。一瞬の迷いやミスが人生を狂わせる。この前ニュースでやっていたが大富豪だった人間は今やホームレスらしい。事の経緯は聞きたくなかったのでいまだに知らない。
正装に着替えた私はエレベーターを待つ。このエレベーター、以前落っこちそうになったんだよな。お世辞にも今住んでいるこの巨大マンションは素敵だとは言えない。
人が住んでいない(治安が悪すぎて住めない)棟には電子ドラッグ中毒が集まり一日中呻き声を上げている。
中庭には子供が...やめておこう。なんにせよここはクソだ。金さえあれば引っ越せるのにな。
さて、そんな素敵なお金を稼ぎに行こう。
私はいつも「ヤンおばあ」と街で呼ばれている胡散臭いおばさんを仲介役にして仕事を受けていた。回ってくるのはほとんど残り滓のようなもので誰もやらないものが最終的には残るんだ。だからこのザマさ。汚れ仕事のオンパレード。
同い年の子達は学校に行っている。
正直に羨ましいさ。だけど結局、あいつらも金があるから学生なんだ。私みたいに働いている人は多くいる。私ほど酷い仕事を受けている奴はもうすでに死んでいると思うけどね。
タクシーを呼び、目的地の高層タワーを目指す。
私は随分と暗い空しか見ていない。仕事の都合上夜に勤めることが多いんだ。売っているのは自分の精神だけ。全てを売った奴はこの街にごまんといるけどあれは恐ろしい。
それに比べたら今の仕事は精神的にきついだけなので楽なのかもしれない。人を殺すにしたってね。弱りきった人ばかりだ。最初に命を殺めた時は後悔したさ。だけどその後悔は何も解決しない。後悔が生むのは新たな常識なんだ。
だからもう、私はこの仕事に慣れている。
そんな私の仕事だが本日は正装をしている。そしてただの護衛なんだ。楽な案件に違いない。
目的地につき、タクシーから降りると電子マネーがごっそりと減っていく。
「あの野郎、多めに取ったな。」
まぁこの仕事が終われば後は自由時間だ。頑張ろうとは思うけど怠いものは怠い。
珍しくヤンおばあが仕事先にいた。
「珍しいですね。何処からお越しで?」
「冗談言ってる暇かい?今日の仕事はいつも以上に気を引き締めな。失敗したらウチではもう雇えないよ」
「ただの護衛じゃないの?」
「バカめ。護衛対象は人じゃねぇ。」
「?何を守るの?」
「あそこのトランクの中身さ。あれを今から最上階に持っていく。そこで取引相手を待つんだ」
「相手は?」
「『カグラ』だよ。」
私はぎょっとした。この国を今現在支配しているのは『カグラ』と呼ばれる大企業だ。そんな大企業相手に仕事をしたことは今まで一度たりともない。失敗したら命は無さそうだ。
「身を引き締めな。そろそろ上がるよ」
最上階の87階に着く。
目的のブツを囲うように配置に私たちはついていた。誰1人姿勢を崩すことはない。
やがてエレベーターが動き出し、87階で止まる。
どうやらお出ましのようだ。
「いらっしゃい。目的地のものは」
一瞬の出来事だった。先頭に立ち、エレベーターの扉が開くと同時に話しかけたヤンおばあの頭は丸くくり抜かれ、血が飛び散る。思考が停止した後、彼女が撃たれたのだと理解する。
「しゃがめ!」
私はすぐさま合図するが他のものは間に合わない。
運良くトランクの後ろにいた私を除いて皆は撃たれていくか撃ち返すのみだ。
「クソ、クソ、クソ。下の管理はどうなってんだよ。なんで武器持ち込ませてるんだ」
鳴り止まない銃声は私の不満の漏れた声を掻き消していく。
「おい!こうなったらお前がガバァ、はぁ、トランクを開け!中身をお前が盗め!取られるよ」
私に話しかけてきた同僚は反撃虚しくやられていく。
仲間の死体の後ろに隠れすぐさまトランクを開ける。もう生きている仲間は少ない。私達の反撃も終わるだろう。この時間を無駄にしてはいけない。
中を開けると小さなマイクロチップがあった。
「これをどうしろって言うんだ!」
盗まれてはいけない。盗まれては命がない。かと言って逃げれば命がない。どうすればいい。
神に縋り付くように祈っていた手のひらにはいつのまにかそれは消えていた。
無くした?落とした?いやそんなはずがない。しっかりと握っていた。下にはない。
銃声が終わり、こちらへ複数人が歩み寄ってくる。クソ、窓ガラスを割って逃げ切るか?
馬鹿言うな。87階だぞ。死ぬに決まってる。ならなんでこんな高層階にしたんだ。馬鹿。
振り向くと銃口が私のおでこにぴったりとくっつていていた。
「例のものはどこだ。」
「知らない。」
「ならば死ね」
銃声が鳴り響き、目の前が真っ暗になる。
これが死んだと言うやつか?一瞬で死の世界に行くんだな。案外。
もしかしてこの暗闇が永遠と続くのか?
それはそれでキツイな。
だがなんだろう。居心地がいい。うっすらと、徐々に意識が奪われていく。麻酔をかけられているみたいだ。
「VIR▲L CODE、認証」
消え沈んでいく意識の中でそんな声が聞こえた気がした____________
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