第47話 「まさしく縦横無尽。おっぱいのケスラー・シンドロームだ……!」
『心細いって……。まあ、そりゃそうでしょうけど』
ジンがそう言ったそばから、ふわーっと遺体が漂ってくる。
彼は頭を低くしてその遺体をそっとよけた。ジンも遺体が平気なわけではなく、努めて考えないようにしているようだ。
『そこのすみっこで、背中を向けててくれればいいから……。その間に、ぱぱっと着替えるから……』
と、サミーナが言う。
ジンはため息をついて、両手を挙げた。
『わかりました。まあ……やっぱりこわいですもんね』
『こ、こわくなどない。心細いだけだ』
『同じでしょ……』
《ジンもそこにとどまるのですね? ではこれから与圧します》
『ああ、頼むよ』
私は部屋の与圧を開始した。
すでに艦首付近のシステムは掌握している。高圧空気のタンクも残っていたので、すこしずつ試しながら電探室に送る。
送気口から空気が出て、風に流された室内の遺体が自然と部屋の反対側に集まってくれた。これにはジンもサミーナもほっとする。
だがEVA服を着替えられるくらいの気圧になるには、数分ばかり時間がかかる。
部屋に空気が満たされていくのを待ちながら、サミーナが言った。
『やはり……不愉快か?』
『いきなり、なんです』
『この話し方だ。でも唯一の将校だから、皆の前ではけじめとして、やっぱり……きちんとしなければ』
『そういうものなんですかね。みんな気にしないと思うけど』
エメルやブーバーたちはそうだろうが、避難民の中には気にする者もいるだろう。よく知らない若い艦長代理が、仲間内でくだけた態度を取っているのを目にしたら、信頼する気が失せてしまう。
それがジンには、いまいちわからないのだろう。
前世の取引先で、若い社長のベンチャー企業があった。
その社長はフランクな人柄で、社員たちとも友達のような間柄だった。
会社が小さい頃はそれでも良かったのだろうが、新しい社員が増えるにつれ、それが不協和音になっていった。けっきょくその会社は新人組が大挙して辞めて、バラバラになってしまった。
人数が多いと、社長との距離が遠い者がどうしても出てくる。そういう社員たちに示しをつけるためには、「公平にそっけなく」するしかないのだ。
『気にする者もいる、それが問題だ』
『でも、いまは2人きりですよ』
《コホン》
『ああ、ごめん。2人と1機だ。……とにかく、いまはすこしくらいリラックスしてもいいんじゃないのかな、と思っただけです』
『ありがとう。ジンくん』
サミーナに名前で呼ばれて、ジンは驚いたようだった。
『でも、これ以上なれなれしい言葉遣いをしたら……元に戻れなくなりそうな気がする。わたしはこの通り弱い女だから……だれかに寄りかかると、だめなの。いま以上に君に頼ってしまう。だから……やっぱり、このままでいようと思う』
『頼ってくれても——』
《与圧が完了しました》
私はあえて大きな声で、ジンの言葉を遮るように言った。
それ以上は、まずいのではと思ったのだ。
サミーナの言う『いま以上に君に頼ってしまう』という言葉には、男女のニュアンスも入っているように聞こえた。
もちろん、それが直接、色恋沙汰になるわけではないが——その可能性さえある、だからやめておいたほうがいい……とサミーナは直感的に察して告げたのだ。すごく遠回しに。
ある意味、すごい色っぽい台詞ではある。
だが我らがジンくんはまだ15だし、男というのはえてしてその辺の心の機微が読み取れない。
だから何にも考えずに『いいっスよー、頼ってくれてもー。俺、がんばっちゃいますよー』くらいのノリで安請け合いしてしまうのだ。
彼女はそんな話をしてるのではない。答えるには覚悟が必要なのだ。
以上が私が会話の邪魔をした理由である。
ファインプレイだとほめてほしいくらいだ! 特にアビー! 報酬として太もも1年分を要求する! あとミニスカの下のショーパンを1日禁止する!
まあ、真面目な話。
艦長代理とメインパイロットが、感情のもつれからややこしいことになるのは、誰かの命に関わる。
すまないが干渉させていただいた。
『あ……もう? 早いね』
実のところはまだ0.7気圧だったのだが、喋っているうちに何とかなるだろう。
《0.8気圧で充分でしょう。気温は約20度。湿度はゼロです》
『ではEVA服を脱いでみる』
EVA服を操作し、サミーナも外部環境を確認する。
『じゃあ、あっち向いてますから』
ジンがサミーナに背中を向けた。
これで2人のカメラからの視点は使えなくなった。
だが現在、この廃艦の様々なカメラは私の支配下にある。
この電探室もだ。
さすがに40年たっているので半分以上が故障していたが、それでも十分な視界が確保されている。
さて! 長らくお待たせしました!
どうしたものかな!
私、レイダスは……
見る
→見ない
まあここは紳士らしく、見ないでおくべきだろう。
いくらなんでも、ここで覗きなんて許されるものではない。
私は心穏やかに電探室の全カメラをオフラインに——
するわけないだろ!
→見る
見ない
はい、決定ー。
普段、〈S・ヘイワード〉の艦内ではけっこう我慢しているのだ。
真空溶接なんて神の与えた奇跡のような現象に乗っからない手があるだろうか。
それにこのカメラたちは、
……といっても、EVA服のアンダーウェアだから、そんなすごいものが見れるわけでもないだろう。
ちょっと明日の活力になるような、ほんのりしたものでいいのだ。それだけで充分なのだ。
さあ見よう。
サミーナはいまヘルメットをはずし、頭をふるふると振っている。軽くポニーテールにまとめた暗めのブロンドが、ふわっと広がった。
普段はセミロングに制帽姿なのでこれだけでも新鮮だ……。
ちなみにジンもヘルメットを脱いでいた。息が詰まるからだろう。
『いまヘルメットを脱いだ。あまり匂いはしない。いつものイオン臭だけだ。細菌も死滅したからか。次は上半身を脱いでみる』
なぜかサミーナは実況してくれる。
ファスナーの安全装置を外し、まろやかで量感たっぷりな膨らみに沿わせて、降ろしていく。ファスナーのYの字型の合わせ目が広がっていき——スポーツブラに拘束された双丘がぷるん、とまろび出た。
スゴイ、デカイ。
グレーのスポーツブラが小さく見えるくらいだ。いや、実際に小さめだった。たぶん艦内の物資ではちょうどいいサイズがないのだろう。
その小さめブラからこぼれ落ちそうな立派な胸が、無重力空間で暴れ回っている。縦に、横に、ぶつかりあっては離れるその様は、まさしく縦横無尽。おっぱいのケスラー・シンドロームだ……!
『ふう……』
サミーナはちょっと安堵の混じったため息をついた。
EVA服は窮屈だったらしく、胸の位置をブラと一緒に何度も直している。白くて上気した肌が美しい。
『ここからが難しい。腰の金具が溶接しているから……』
というか誰に実況してるんだ、この娘は。
しかし実際、腰の金具がギリギリ邪魔をして、ファスナーはおへそのちょっと下くらいまでしか下がらない。
そこから先は、やや強引にお尻を抜くしかないだろう。
『よっ。このっ。……行けそう。あれ? えーい……!』
サミーナは悪戦苦闘する。もう少しで行けそうなのだが、絶妙に通らない。
なんとかEVA服から逃れようと、白いお尻の上端がふるふると震える。骨盤の出っ張りのあたりが惜しいところで引っかかってて、もじもじ、くねくねするのだが、お尻はそれでも動かない(大きなかぶの感じで)。
そして腰の動きと合わせて、その上のバストがまた、たゆんたゆんと跳ね回る。
とてつもなく扇情的な光景だったが、サミーナはいたって真面目だ。一生懸命、脱ごうとする。そのギャップがまたたまらない。
部屋の片隅に漂っているご遺体たちも、これにはほっこりしているご様子だった。サムズアップしてるみたいな姿勢の遺体もある。なにこの状況。
『あのー、大丈夫ですか?』
背中を向けたまま、ジンがたずねる。
『だ、大丈夫……。あと少し、あと少しなんだ……! もう、ちょっ……とっ!』
すぽん!とEVA服が脱げた。
ジタバタして下半身に空気が溜まっていたせいで、足は簡単に、するっと抜けてしまった。
サミーナは勢い余って、くるくると回転し、電探室の空中を舞った。
『わ……! わ……! 止ま……!』
『え? 少尉? うわっ!』
どしーん、とぶつかって、絡み合い——
気付けばサミーナはジンの頭にまたがるような格好になっていた。
ネイの時と違ってショーツはどうにか脱げなかったが。(でも半分脱げてお尻も半見えだった)
『み、見ちゃ、やあ……!』
『す、すみませ……ん? うわあ……!』
無我夢中で伸ばした手が、おっぱいを鷲掴みにする。
『歯を食いしばれぇ……!』
今度のビンタはクリーンヒットした。
もはや様式美だ。私は感動すら覚えていた。
すごいなジンは。
ただのラッキースケベでは済まされない何かを持っている。この世界を動かす力を秘めているのか?(秘めていない)
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