推しが寝取られた俺、推し変したら幼馴染で本当の恋がはじまった

桜井正宗

第1話 推しが寝取られた日

 No.1VTuberである『リリノア』と俺は付き合っていた。

 本当に奇跡のような出会いで特別な関係をもった――ハズだった。


 いつものように彼女の家に入った途端とたん、それは起きた。

 寝室の方でなにか物音がしていたんだ。



『……ケイくんより凄い』

『リリノアちゃん、エロすぎてヤバ』



 え、男の声?


 スキマから覗くと、そこには知らない男がいた。イケメン男だった。

 男はリリノアを前からも後ろからも乱暴に行為を繰り返し、彼女もまんざらでもないような声を漏らしていた。


 …………は?



 まさか!


 まさか、そんな……!



 リリノアが……寝取られた。

 俺の最強の推しが……。



 無限スパチャしてようやく出会えて、ようやく付き合えたのに……!


 うああああああああああ…………!!!




 ◆




 あれから絶望の毎日だった。

 リリノアとは別れ、配信をまったく見なくなった。


 ただただ毎日が過ぎていく。それだけの日々。



 俺は心に深い深い深すぎる傷を負った。もう治せそうにない。……ツライ。



 でも。それでもスパチャをしたくなり……スマホで配信を見た。

 リリノアではない、No.2のVTuberを。


 そう推し変だ。そうすれば気が少しは晴れると思ったんだ。



 名前は『怪鳥風月かいちょうふうげつコスモ』という、なかなか変わった名前をしたVTuberだった。


 なんとなく開いて、なんとなく眺めた。



「…………ん?」



 この特徴的な可愛い声、どこかで。


 気のせいかもしれないが、幼馴染の小桜こざくら 日菜ひなの声に酷似していた。……いや、まさかな。


 アイツがVTuberをやっているわけがない。

 そんな素振りを見せたこともない。


 とはいえ、たまに会う程度。

 ずっと友達として接していて、それ以上でもそれ以下でもなくて……関係が続いていることの方が奇跡的だ。



 とはいえ、気になるな

 どうせ隣家だから、聞きに行くのもありだろうか。


 俺の部屋と日菜の部屋は、かなり隣接している。余裕でノックできるレベル。

 窓を開けて、俺はカーテンで締め切られている小桜家の窓を叩いた。


 すると直ぐに反応があり、窓が開いた。日菜が顔を出す。



「ケイくん、久しぶり。てか、今は忙しいから対応できないんだよね……」


「配信か?」


「うんうん、そうなの――って、あっ!!」



 ついに口が滑ってしまったと両手で口を塞ぐ日菜。もう遅いって……!

 てか本当に配信していたのか。


 そんな、まさかな。

 パソコンに疎いコイツがVTuber? ありえないだろう。


 かもしれないが、万が一ということもある。



「うぃーっす」



 俺は、怪鳥風月コスモ独自の挨拶をする。



「うぃーーーーーーーーっす!」



 本人だ。


 本人だああああああ…………!!



 またも、しまったと一歩――いや、五歩は下がる日菜。もうバレバレだってーの。声も一致していたし。



「お前が“怪鳥風月コスモ”だったとはな」

「ちが……違うの!! わたし、VTuberなんてやってないし!!」



 耳まで真っ赤にする日菜は、必死に否定していたが……モロバレだってーの。パソコンの画面も見えていたしな。

 そうか、幼馴染の日菜がVTuberを。


 しかもNo.2って、凄すぎるだろう。



「なんでVTuberを?」

「……だから違うって……」


「諦めろ、日菜。証拠はお前の部屋にある」


「う、うぅ……。うん、実はそうなんだ」

「理由は?」


「ケイくんに推しになってもらいたくて」


「へ……」



 日菜のヤツ、今なんと?


 俺に推しになってほしい?



 それ、どういうこと!?



「だってさ、ケイくんずっとNo.1のコを推していて付き合っていたんでしょ。悔しくて!」



「マジか」

「マジだよ。だから振り向いてもらう為に――って、なに言わせてんのよ、バカッ!」



 窓を閉める日菜。カーテンもされたので、もう追求はできないが……これは驚いた。日菜が俺の為にVTuberをしていたなんて……!


 よし、推し変しよう!


 今日からNo.2の怪鳥風月コスモを推す!


 日菜を応援するぞ。

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