乞《こ》うもの
「たすけて」
小さな声が蝶に向けられた。
流れていく二つの木桶と男の身体。
娘のいる場所から遠く離れていこうとする。
このまま眺めているだけでは よくない気がして。どうすればいいのかは分からないけれど、助けなければいけない気がして。
娘は、絞り出すように、蝶に
男を助けて欲しい、と。
蝶は、静かに語り出す。
『助ける、とは?』
『具体的に、何をして欲しいのですか?』
『男が、どうなれば よいのでしょう?』
『あなたの 願いは?』
「わたしの、ねがい?」
娘は、考えた。
――わたしは、この男にどうなって欲しいのだろう?
この男を、どうしたいのだろう?
助けるって、どういうこと?
娘が逡巡している間にも、男は木桶とともに流されていく。
このままでは、娘の視界から消える。
――イヤだ。
男と過ごした時間は長くない。
けれども、男は、あの暗闇から連れ出してくれた。食事を与え、暖を取らせてくれた。
机上のものをばらまいた時、床にぶつかる衝撃音よりも男の笑い声のほうが大きかった。
男には、この先も笑っていてほしいと思う。
これこそが、願い。
娘は、願いを決めた。
蝶が、再び語り出す。
『あなたは、わたくしたちが 何をなせるのか、ご存知ないのですね』
それは、ため息にも似て。
何も知らない娘の顔を見て、蝶は致し方なくその正体を告げた。
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