第26話 彼女 

「少佐! それに棚橋たなはしセンパイ、綾小路あやのこうじセンパイ!」


 中に入るとかえでは三人の姿を確認した。機体を降りると彼らのもとに駆け寄る。


「ああ、本当に楓ちゃんじゃん。大佐がよく許可を出したもんだぜ」


 棚橋のモヒカンは銀色のメタリックカラーで染め上げられていた。


「それにゼロツーに乗れているということは、部隊へ正式に加わったということですね」


 綾小路がそのメガネをくいっと上げる。


「山本、よく来てくれたな。ん? あいつは……」


 すると秋山の視線が、後から入ってきたデコトラの座席にいる神父のほうを向いたのが、楓には分かった。


「ああ、とりあえず悪い人ではないですよ。お父さんも、あと大島将軍もOKを出してるんで」


「大佐が……、それに将軍も? そうか、それなら何かあるんだな」


 車を降りる神父のところに棚橋と綾小路が駆けていった。


「なんだよこの車、すっげークールじゃん!」


「ふむふむ、このパーツはひとつひとつが職人の手作業、塗装も全体のデザイン性もすばらしいですよ。これは究極のテイスト!」


「ふふっ、あなたたちにはこの良さが分かりますか。これは違いの分かるできる人たちであると見ました」


 前に路地裏の廃墟で対峙たいじしたことがあるとは思えない様子。楓には分からない男子的なナニカで通じあった彼らは、すぐに仲良くなったようであった。


「ん? ああ、キミですか」


 背後から楓にすり寄ってきたのは入口にいただった。


「なんだかワンちゃんみたいですねえ。ああ、でもあの悪い機械犬とは全然違うからね」


 楓がでてやると、ロボットはキュイっと鳴いた。


「やはり山本は……。いや、なんでもない」


 秋山は自分に楓の視線が向いたのに気づくと言葉をにごした。


「少佐。では、楓ちゃんをのもとに連れていきます」


 エマが楓の隣に立つ。


「えっと、少佐? 私には何がどうなっているのかまったく分かっていないんですけど」


「そうか。ああ、そうだな。俺達は演習中に敵の急襲を受けた。米軍も含めてほぼ壊滅だったと思うが、それは山本も聞いているだろう」


「はい」


「俺達はなんとか一度は脱出に成功したんだが、敵に位置を捕捉ほそくされていたようでな。敵の新型兵器に囲まれて絶体絶命の状況になった。黒田の機体以外すべて失ったところに現れたのがだったんだ」


「楓ちゃん聞いてよ、私が女だからって少佐もモヒカンもメガネも前に出たのよ。戦場で男も女もないのに……。そういう意味では全員失格ね。あの糞親父が見てたら絶対にお説教コース間違いなしの戦闘だったわ。私を見捨てていれば機体を三体も失うことなんてなかったのにさ」


 振り返ると、黒田がそんな風に言いながらも笑っていた。


「そのあたりは昔から変わっていないと


 エマがうなずいていた。


「さあ、楓ちゃん。もあなたに会うのを楽しみにしているはずだから、行きましょう」


 エマに促されて楓は奥へと連れて行かれる。少佐と黒田は神父のデコトラの方へと足を向けていた。


 強大な空洞部分からいくつも通路が伸びているようで、そのひとつにエマと楓は入っていく。通路幅には余裕があり、そこを様々な形状の機械たちが移動していた。他にも背の高いものや平で地面をうものなど、どれも楓がみたことのないタイプの機械たちだった。


「彼らはみな彼女に作られたようなんだけども、すべて自律して行動しているわ。でも私にはこの子たちが何を考えているとか、何を目的にそう動いているのかまでは分からないんだけどね」


 興味深そうにまわりを見ている楓にエマがそう説明する。


「なるほど。でも、ほんとに私たちを見ても攻撃してこないんですね。あら? おまえついてきたの?」


 楓は入口で迎えにきた箱型の個体が、自分の真後ろを音もなくぴったりとついてきていることに気づいた。


「その子は古株ふるかぶらしいわ。もともとは既製品きせいひんで、この世界がまだ平和だったころに作られたって」


「おおぅ、すると私なんかよりはるかにセンパイさんなのですね」


 楓がそういうと、箱型ロボはキュイっと鳴いた。


「ここよ。この先に『』がいるわ」


 エマが装飾の施されたこの洞窟のような場所には似つかわしくない木製の扉の前で立ち止まった。


――さて、どんな人がいるんだろうか? こんな機会たちを作っちゃうんだから博士はかせっぽい感じの人? でも、マッドサイエンティストっぽい人だったらどうしよう。ちゃんとコミュニケーションとれるかなあ。


 そんな楓の心配をよそにエマが扉を静かに開いた。


「あれ? 女の子?」


 そこにはあかい着物姿の十歳くらいの少女が椅子に座ってこちらを見ていた。


「楓ちゃんを連れてきてあげたわよ」


「ああ、ありがとうエマ。そして、さいかい再会というところであるな、にんげんのよ」


 不思議なしゃべり方をする和服の少女。楓は、なぜか彼女の着物の見事な紅葉もみじ刺繍ししゅうのほうに目がいってしまうのだった。

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