第23話 漆黒の戦士
あたりには人も機械兵の姿も無いようだった。
――間違いなくウチの部隊のだ。この機体番号は……、04と05。棚橋センパイと綾小路センパイの機体だ。
機体の肩の装甲部分に白く塗装されていた数字を二つ、近い場所で楓は発見したが、そこには二人の姿は無かった。離れた場所にもう一機の残骸らしきものが見え、彼女は急いでそこへ駆け寄る。
――01って、秋山少佐の機体じゃん……。いや、姿が無いということはまだ無事である可能性も十分あるって。で、あとは黒田センパイの機体……。
ガサッ。
草を踏む音がした。楓が
――マズい! 機動兵器から離れすぎた。
機体までは20メートルほど。楓が駆け出そうとすると一体が軽快な身のこなしで先回りし、彼女と機体との間に割り込む。
「ですよねえ……。全部お見通しって感じですかあ。あ、あの、私、あやしいものではなくてですね。うーん、やはり言葉は通じてませんかね……」
念の為にと来るときに玄武から拳銃を渡されてはいたが、銃自体どうしても好きになれない楓は機動兵器の中に置いてきていた。それがあったところで目の前の敵に役に立たないことは理解していたが、そんなものでも心の支えくらいにはなっていたかもしれないとも思う彼女だった。
――ゲーム開始序盤の平原で
何か打開策がないか考え続けてはいるが、状況は誰が見たとしても手詰まりであった。残りの二体も楓の逃げ道を塞ぐような位置に移動している。
――ひと思いにガブリって感じなら楽に
三体が一斉に飛びかかってくることまで楓には分かっていた。敵が飛びかかろうとする瞬間を見て、楓はあきらめ目を閉じた。
――お父さん、お母さん……。ごめんね。
そのとき強い風が吹いたのを楓は感じた。わずかに聴こえたモーター音。目を開けると正面の一体がぺしゃんこに潰れて破壊されていた。
――後ろ?
振り返ると残りの二体が宙に吊るされていた。人型の機械兵なのか楓の機動兵器と同じくらいの体長3メートルほどのそいつが
――助けられた? いや、でもこんな機動兵器なんてないし、人型の敵機。でも見たことないやつだ。
機械兵にも人型タイプのものは複数存在するが、それは連中の作るようなそれとは明らかに異なっていた。真っ黒なボディはまるで人間がデザインしたような雰囲気があり、機能性を重視した機械兵の有り様とは違う、とても洗練された印象。玄武の開発した機動兵器はゴテゴテしていてまったくの兵器そのものだが、現れたそれはまるでアニメか何かの楓的にはかっこいい創作物のようだった。
「あ、あのお……。もしや、助けていただけたとか……? ん? 何? どういうこと?」
その漆黒の戦士はゆっくりとその右手を伸ばすと、楓の乗ってきたMA02を指差していた。指先まで女性のもののような繊細な作りで、さっき機械犬の首を握りつぶした怪力があるようには見えなかった。
「えっと、あれに乗れと? はいはい、了解であります!」
訳が分からない状況だが、そういうことなのだろうと楓は走リだすと、すぐさま機動兵器に乗り込んだ。
「ご要望のとおりにしてみました!」
通じるか分からないが、外に向けてスピーカで呼びかけてみた。
「あれ? それって……」
すると漆黒の戦士は楓のほうに向いて重心を深く落とした。次の瞬間、それは楓目掛けて突っ込んできた。
「うわあっ!」
咄嗟の判断で回避する楓。それは玄武との訓練が役に立った瞬間だった。
――お父さんの機体の動きより速いよ。でも、攻撃するんだったらなんでさっき助けたの? もしかして、ただのバトルジャンキーなの? 機械にもそんなやつがいるの?
楓の機動兵器の操縦は天性のものであった。玄武との訓練最終日には、彼の攻撃はひとつも当たらないほどになっていた。通常機動兵器というのはパイロットに合わせて調整が必要なのだが、それは機動兵器にかける制限についての内容である。個人ごとの特性に合わせてその制限を緩めたり強めたりしてバランスを取るのだと玄武から彼女は聞いていた。だが、楓の機体はすべてのリミッターが解除された状態にしてあるという。この機動兵器の力を100%解放できるのは楓だけなんだと玄武は言っていたが、彼女はその言葉の意味をちゃんと理解してはいなかった。
ゆっくりと振り向く漆黒の騎士。楓の反応に驚いたのか想定通りだったのかは彼女には分からなかったが、それでもなぜか目の前の人型兵器が
「やっぱ、
漆黒の戦士には楓の呟きなど聞こえてはいなかっただろうが、さっきよりも格段に速い動きで彼女に襲いかかってきたのだった。
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