第21話 合同演習③

 ビルが揺れている。急いで機体に乗り込んだ全員がその強い振動を感じた。


「何だってんだ?」


「連中が下で何かしているわね」


 棚橋と黒田の言葉に綾小路が機動兵器のまま、ほふく前進で屋上の端へと向かう。頭部にカメラやセンサーが搭載されているため見た目は人間の動きそのものである。端にたどりついた綾小路が状況を伝える。


「何だ……、あのデカいやつは……。映像送ります」


 全員に地上の映像が共有された。そこに映るのは彼らも初めて見る大型機械兵器。本体の左右に複数の脚を持ち先端にはパイルバンカーらしきもの。その巨大なくい状のものが何度もビルに打ち出されていた。ビルの揺れの原因が明らかになった。


「おいおい、そんなんありかよ。ありゃあ連中の新兵器ってやつか?」


 棚橋も敵のすべての兵器を把握しているわけではない。それ以外にも見知らぬ兵器があるのかもしれないと想像させる光景だった。


「人類の居住区域を囲む壁をあれで破壊するつもりなのかもしれん。あれは危険だ。今のうちに何とかしなければ……」


「うーん。少佐、人類のほうも大事だけど…‥。これって私達のほうが絶体絶命の大ピンチって感じよ? まずは脱出だってば」


「そうだな……。ああ、みんな大佐の訓練を思い出すんだ。以前、航空機からの降下訓練をやっただろ? あの高度を思えばこんな高さ……」


「いえいえ少佐。あのときはパラシュート付きだったはずですけど……」


 大佐ゆずりの気合でなんとかしようとする傾向のある秋山に釘をさす綾小路。それにその当時行われた訓練は一回きり。敵への航空攻撃は高精度の迎撃により完全に無力化されることから、その訓練に特に意味はないと大佐自ら白状していたのも事実であった。


「それに俺達もをつけただろう? 大佐の秘密兵器をな。なあ、綾小路」


「いやいや、いきなり実戦で……ですか? それに詳しいことは何も教えていただいてませんけども……」


 すると秋山の機体の背面に設置された小型の収納部分から、金属板の翼が現れた。 


「んー、どう見てもそれで飛べる気はしないわね。それ絶対、あの試してないと思うわよ。ん……? きゃっ!」


 黒田が正直な感想を述べたと同時にビルが大きくかたむいた。 


「そろそろマズいか……。まあ、大佐殿はって言い切る人だしな。この状況、こいつを信じるしかないだろ。それにこんな事態を大佐が想定していたとは思えんから、これがあることに運が良かったと思うほかないだろ」


「まっ、にはやるっきゃないってことだぜ!」


 すると棚橋の機体からも折りたたまれていた羽が現れた。


「じゃあ、あなたが先頭ね。勇敢なモヒカンさん」


「ん? あ、ああ。そりゃ、そんなのは当然……。ってか、しょ、少佐、お手本をお願いしやーーっす!」


 棚橋の機動兵器がお辞儀をするように深く頭を下げた。


「フッ、もちろん言われなくともそのつもりだ。あの東に見えるビルの屋上。高さも広さもちょうどいい。あそこを目標にするぞ」


 棚橋の言葉を予想していたのか秋山の言葉からは余裕が感じられた。


「結局、飛ぶというより滑空かっくうなのよね。それって実際のと変わんないでしょ?」


「フェアリーは妖精だから、ほんとに空を飛べてしまうかもしれませんよ」


 綾小路が冗談を差し込む。


「私が純粋無垢じゅんすいむくな妖精さんだってことよく分かってるじゃないのよ、メガネ。ではそんな私が良い風が吹くように祈ってあげましょう。これは妖精の加護よ、感謝しなさいよキミたち。ということで私は最後に……」


 黒田が話し終える前に、地面がいままでで一番大きく振動し、かたむいた。建物の崩壊がはじまったと察知さっちした全員が、結局同時に走り出した。


「うおーーーーっ!」


 秋山の機体がビルの外に身体を投げ出し、一歩遅れて隊員たちも飛んだ。


「えっ、何か羽がない?」


 一番後方になった黒田の視界に秋山の機体の背から半透明の巨大な光の翼が広がっていくのが見えた。


「おおっ、飛んでます! これはまさに飛行しているのです!」


「こんな技術をどうやって……」


 常に玄武に一番近いポジションにいるはずの秋山ですら驚いていた。グライダー方式で滑空が可能となったということは出発直前に玄武から聴いてはいたが、詳しい資料に目を通す余裕はなかったため驚くしかなかった。


「でも、ちょっと! 電力がすごい持っていかれてるわよ。早く着地しないと!」


 黒田の通信で、メーターの数値が急激に下がっていくことに全員が気づいた。秋山は目標のビルに届くことを確認すると、その翼の機能をすぐさま停止し、その勢いのまま飛び込んで着地を成功させた。それを見て残りの隊員たちも同じように続く。空中で一定時間浮いたようになっていたが、それでもこのビルまでの距離はぎりぎりであった。


「エネルギー残量はおよそ半分。問題ない、このままあの山地まで突っ走る! 全員ついてこい!」


 秋山機がそのまま背の低いビルからビルへと飛び移り、最後に道路に着地。そしてついてきた全機がビルの間を一気に駆け抜けていった。


「へへっ、連中のにはこういうのは無かったみてえだな。まだ追ってきてねえぜ!」


「でも、少佐。この大佐のオーバーテクノロジーが無かったら、みんな地面に真っ逆さま……だったんじゃないのですか?」


「うっ……」


 綾小路の言葉に、すぐに返答のできない秋山。


「ひっ、もしかしてテキトーなこと言って突っ込んだのかしら。ちょっと少佐……」


「ん? ま、上手くいったんだし。それよりここから離脱することが優先だ。全員油断するなよ!」


「油断するなって言われてもよぅ。ああ……、思い出したらなんか恐ろしくなってきたぜ。クレージーだぜアンタ!」


 その後、彼らは山中に身をひそめることに成功するのだったが、秋山は全員から糾弾きゅうだんされしばらく肩身の狭い思いをしたのだった。

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