第12話 あの日②

「なんで美咲ちゃんが作戦に参加してんだよ?」


 玄武が困った顔でそう言う。塹壕ざんごうの中で待機していた彼はそこにいるはずのない美咲が現れ困惑していた。


「あれえ? 玄ちゃんがお兄ちゃんの伝言を伝えにきたから、てっきり知ってるものだと思ってたんだけど」


「あっ、あれか……。どうしてがこの作戦参加なんだよ。美咲ちゃんは後方待機しててくんねえとみんな怪我したとき困るだろうがよ」


「ああ、そっちはもう心配ないわよ。救護班は私の鬼の指導でそれはもう成長著しいし、任せておいて心配ないんじゃないかした。今回はお兄ちゃんも戦闘に参加するでしょ。それに……、玄ちゃんも無茶して死なないようにって二人を見張るのが私のお仕事ってところかしらね。これが決戦だあって、二人が張り切っちゃうのが目に見えるし」


「そりゃ、そうだろ。ここで気合いれていかなきゃ、いつそうすんだってハナシだぜ」


「うん。でも、玄ちゃん、ってよくいてるじゃないの。人間にはってものがちゃんと存在するのよ」


「これだからリアリストってやつは……。そんな美咲ちゃんだって敵の本拠地に乗り込んでいこうなんて正気の沙汰じゃないと思うがな」


「ふふっ。こう見えて私、素人じゃないのよ。戦争初期にはお兄ちゃんと一緒に敵の個体をいくつもやっつけてたんだから」


「おぅ……。そういや、リーダーがそんなこと言ってたか。えっとやっぱ、これは美咲ちゃんにとっての復讐か何かなのか……?」


「まあ、正直それもあるかも知れない……。でも、そういう玄ちゃんだって奥さん亡くしてるっていってたでしょ」


「ああ……。家族も友人も知り合いも、あいつら俺にとって大事なもんを全部奪っていきやがった。連中をこの地上から殲滅するのが俺の生きる理由だ」


「うん。なら、無茶はしないことよ。ここ以外にも敵の自立型個体はいっぱいいるし。まあ、玄ちゃんがなんて考えてなくて安心したわ。こんな時代だし、生きる理由って大事よね」


「……」


――なんだよ。俺の頭ん中なんてすべてお見通しって感じかよ。これだから女ってのは油断ならねえな……。


 玄武はこの戦いで死んでも構わないとさえ考えていた。おそらく本州地域の奪還は時間の問題であり、自分が倒れてもあとに続く、未来を掴もうとする若者たちがまだ多く存在することも知っていた。そんな彼らのために道を拓くだけでもいいと覚悟は決めていたのだった。だが、彼女のやさしい表情を見ているとまだ生きながらえてもいいかもとも玄武には思えていた。


「敵襲! 想定より多いぞ! 未確認の個体もいくつか確認。作戦はCプランで行く!」


 離れたところから霧島リーダーの声がした。


 各地から合流したレジスタンスの数は、玄武がこれまでの戦闘で見てきた中でも最大規模とはいえ、実際はほんの数十人。いくつもプランはあったのだが敵の残存戦力が不明であることもあり、結局、各個撃破の単純な突撃作戦となったのは玄武の想定通りであった。


「美咲ちゃん、行くなら俺からできるだけ離れるな。俺が生きてる限りは絶対に守り抜いてやるから!」


「うふっ。戦場じゃなかったら、まるでプロポーズのセリフみたいでカッコいいわね」


「ぐっ……。ま、まあ、俺のカッコいいとこみせてやんよ!」


 人類側が最近開発した電磁パルス兵器により敵機械兵の動きを、まず一時的に止めることになっていた。まだ試作段階にあったこのEMP兵器の今回の実戦使用は初撃の一回きり。ここで距離を詰められるかが作戦の大きな鍵をにぎっていた。


 玄武は塹壕から飛び出すと、敵の放つ銃弾を躱しながら姿勢を低くして進んでいく。遅れずに美咲がついてきているのを玄武は横目で確認した。


「何だよ、俺よりも動きがいいんじゃねえのか? 射撃も的確で急所を一発も外してねえし」


「あら、治療以外で玄ちゃんに褒められるのも悪くないわね。だってこの弾丸、一発一発が手製で特殊加工の職人技の極みよ。無駄打ちなんてしたら斉藤おじいちゃんに叱られちゃうわ。ああ、玄ちゃんはいつも叱らてたっけ」


「ううっ。それは言わないで欲しいぜ。弾薬使用量ダントツトップの俺だが、その分命賭けて突っ込んでるからな……。まあ、爺さんへの感謝は常に忘れてねえけどよ」


「あら、あなたたち武器庫でいつも口喧嘩くちげんかばっかりなのに。良いこと聞いたわ。帰ったらおじいちゃんに教えてあげようっと」


「そ、そいつは……。まあ、それもってことで」


「ええ、そうね。成功させて


 先陣を切って議事堂内部に侵入した二人は辺りの様子をうかがう。


「国会なんてもん長い事開催されてねえし、この場所も荒れ果ててるって思ってたが、なんだか異様にきれいじゃねえかよ」


「おかしいわね。まるで毎日掃除をしてますって感じ……」


 ゴミや埃ひとつ落ちていない赤絨毯あかじゅうたんかれた廊下。機械的な何かで改造されている内部を想像していた玄武は、怪訝けげんな表情をする。


「正面玄関から入ったここが中央広間だったな。平和だった子供の頃、社会見学で来たことがあるぜ。奥の偉人の銅像も見覚えがあるし、まったく変わっちゃいねえようだ。さて、どっちに進むか。ラスボスのイメージからするとサイズ的に収まるのは左に行った衆議院か右に行った参議院の本会議場か……。美咲ちゃん、どっちだと思う?」


「そんなの知らないわよ。政治なんて人工知能の作った案を採用するかどうか決めるだけの場だったし」


「だな……。ん?」


 そのとき背後の二人が入ってきた見事な装飾のブロンズ製の扉が閉まった。


「これは閉じ込められたってことかしら」


「あえて俺達二人が入ってくるのを容認したって感じだな。これは招待されちまったみてえだな。さて、どっちにここの主人あるじがいるかだが……。たしか人間、右と左で迷ったら大抵は左に進むっていうな。敵も俺達の回避行動は左と予測して攻撃してる感じだし……。じゃっ、ここは右で!」


「えっ、そうなの? 招待されてるんだったらじゃないの?」


「まあ、ってやつだ」


「はあ……」


 あきれている美咲に構わず玄武は右へと進んでいき、本会議室のある二階へと上がっていく。慌てて美咲もそれについていった。


「さて、この扉の先にいるのかね?」


 玄武は大きな扉を注意しながらゆっくりと押し開けた。二人はその場からすぐには動かなかった。


「あれは人間か……?」


「女の子がいるわね」


 扇形に広がったズラッと並ぶ長テーブルと座席の先。会議場中央にある演台のさらに奥。そこに設置された赤絨毯のスペース。そこに置かれた玉座に十歳くらいの少女が座っているのが二人には見えた。

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