魔女、子供を拾う。そして育てる。

紫月 由良

第1話 魔女、子供を拾う。

「まったく酷いことをする」

 足元にはメイドらしいお仕着せ姿の死体がいくつも転がっている。兵士の脅威にもならないような非戦闘職だ。


 きっと面白半分に斬られ、殺されたのだろう。

 私、魔女ザビアは血の匂いが残る王城の中を歩く。

 火事場泥棒も大概かもしれないが、無駄な殺しをしないだけマシだ。


 ――それにつけても人の愚かさよ。

 無駄に命を散らせる傲慢さに反吐が出そうだ。


 目的は既に終えている。

 今は転移のために――半壊していても未だ健在な転移防止結界のために、歩いて王城を出なくてはいけない。

 とても面倒臭いこと……。

 経路がわかりやすいことくらいしか取り柄のない城。


 ――折角なのだからちょっと寄り道をしようかしら?


 既に敵国の軍隊は引き揚げた後。未だ略奪の後が生々しく、流れた血が乾ききっていない中だけど気にしない。二百年も生きていれば、国の滅亡の一つや二つ立ち会ったことがあるのだ。

 今更「キャーッ、人が数百人単位で死んでる!」なんてカマトトぶる気はない。


 そして思った通り薬草園は手つかずだった。

 貴重な植物が何種類も育っている。生育状況も悪くない。金銀財宝は持ち去っても、末端の兵士では目利きができないこういうものは、往々にして残っている。


 ――良い拾いものだったわ。


 ついでに足を延ばしただけだったけど、思った以上の収穫に顔がにやけそうだ。

 帰ったら調合楽しみ。

 最初に何を作って遊ぼう?

 いつの間にか歌を口ずさむほど上機嫌だった。


 「……?」


 魔女のトレードマークとも呼べる黒いシンプルなドレスが引っ掛かる。

 ぐいっと引っ張られる衝動に、何が当たったのか確認して……ちょっとどう反応したら良いか困った。


「まだ生き残りがいたのね」

 幼い、まだ十歳にも満たないような歳の子供が、しっかりとドレスの裾を握っていたのだ。


 上目遣いの双眸さに必死さが浮かんでいる。

 短い髪はくすんでパサパサしているし、あちこち服が擦り切れて汚れているのは、城が戦場になる以前から傷んでいた証拠。

 きっと行くあてのない孤児が、お情けで下働きをさせてもらっていたのだろう。

 多くの大人が死に、生き残った者がみな逃げ去った後では、このまま居られる訳もなく、かといって身を寄せられる場所もない。


 ――捨て置いたらきっと死ぬ。


 今の私は機嫌が良い。

 気まぐれで子供を拾っても良いと思うくらいには。

 苦労した身であれば、幼くとも多少は使えるだろうという打算もあった。

 家事を一から仕込む必要はなさそうだと。


「一緒に来る?」


 声をかけると、小さな声で「うん」と言ってドレスから手を離す。

「あの……」

「なぁに?」

 機嫌が良いから、今ならちょっとしたお願いも我儘も聞いてあげられる。


「この子も……!」


 どこからこんな体力が残っていたのかと思うほど素早く壁際に移動したかと思うと、瓦礫の影からもう一人子供を連れてきた。

 一人から二人。


 ――面倒が増えた。


 倍の労力……いいえ、私が構えない時間を子供たちだけで過ごさせられるから、手はかからなくなるかも。手取り足取り身の回りの世話をするような年ごろではなさそうだし。


 むしろ魔法薬の調合中や、魔法研究の間、放っておいても二人で一緒に遊べるんじゃないかしら?

 二人目の子の方が一回り小柄で、一歳か二歳幼そうだけど、大人がべったりと側にいる必要はなさそう。


「仕方がないわね」

 打算を気取られないよう、ちょっとだけ困ったようなそぶりで連れてくるように言った。

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