お父様と悪役貴族
窓から薄らと朝日が入って来たのに気付き、ベッドの中で目が覚める。
日が昇ってそう時間が立っていないのだろう、まだ薄らと暗いベッドの天蓋を眺める。
「小説や漫画なら知らない天井だ、なんて呟くシーンだろうな。」
生憎とこのベッドは天蓋付きなので天井は見えないが……。
そんか益体もないことを呟きながら無駄に広いベッドから降りて伸びをする。
久しぶりに王都屋敷のベッドを使ったが、当然の様にその品質は最高級。目覚めは悪くない。
ふと部屋に備え付けられた鏡が目に入った。
そこには上半身裸の自分の姿が写っている。
歳の割には鍛えられた身体だと思う。
身体の至る所に若い頃の戦場働きで出来た古傷が目につくが、余分な脂肪がない引き締まった身体だ。
昨日は遅くまでレオナルドと泣きながら抱き合っていたので目が薄らと腫れている。
「ふぅ……。 もう歳だな。」
軽く自分の老いを感じながら窓を開ける。
窓からは広い
……ん? あれはレオナルドか?
中庭で剣を振るうレオナルドが見えた。
恐らく夜明け前から剣を降っているのだろう。
まるで水を被った様に汗だくになっているのがよく分かる。
「―――よし。」
―――――――――
――――――
―――
我が公爵家の王都屋敷は広い。
そりゃあもう無駄に広い。
そして豪華絢爛だ。ロココ調でバロック調な貴族文化丸出しな感じ。
そして立地も良い。
何せ王城からも近いし、
なので当然維持費は高い。
本当に嫌になるくらい高い。
本音を言うと戦後のどさくさに紛れて王都にあるこの屋敷は手放したかったのだが、王室やら妻や側近にバレて怒られた事があった。
貴族にはこの国の経済を回す義務があり、その代表たる公爵家当主が何とする!ってわけだ。
だって本当に維持費が半端ないんだ……。
そんな事言うなら税金くらい安くして欲しいと言ったら国王から本気で呆れられた。
そんな馬鹿な想い出を思い出しながら中庭に向かう。
「―――876! 19877! 19878! 19879!」
中庭の一角に建てられた東屋の傍でレオナルドが一心不乱に剣を降っていた。
剣筋は悪くない。
魔力を持つ貴族特有の目にも止まらぬ速度で剣が振り下ろされる。
薄いシャツ1枚で剣を降っているのだが、剣を振るう度に全身の肉がプルプル震えている。
「精が出るな。レオナルド。」
「―――お、お父様!?」
私が声を掛けたから集中が途切れてしまったのだろう。
レオナルドの全身に張り巡らされていた魔力が霧散する。
「あ、いえ、これはその……。昨日お父様とお話をさせて頂き、このままでは駄目だと思ったと言いますか……。何だか無性に何かをしたくなったと言いますか……。」
しどろもどろと口を開くレオナルド。
もしかしたら少し照れているのかもしれない。
「そうか。まぁ例の平民の子との決闘もあるしな。まだ2ヶ月近くあるとは言え、今から追い込むのは悪くない。」
「え、あ、いえ。あの決闘は国の考えを無視した軽率な行動だったと思いますし、お、俺が個人的にあの平民に謝罪を、しようと……。」
謝罪。謝罪か……。
確かに相手はゲームの主人公だし、ゲームのストーリー通り進むとレオナルドは廃嫡されてしまう。
当然、親として息子の不幸なんぞ望むつもりは一切ない。
レオナルドの言う通り、適当に謝罪するなりして決闘の話をなかった事にして近寄らない様にするのが無難だろう。
しかし、ここで国の上層部たる公爵としての考えが邪魔をする。
「―――私としては決闘の話は奇貨と考える。勿論、レオナルドさえ良ければ、だがな。」
「奇貨……ですか?」
不思議そうな顔をするレオナルド。
「うむ。我々国の上層部としては、今後数年は間違いなく学園に入学する平民の数が増えると考えている。」
「魔力持ちの平民が増加……。―――そうか!これも戦争の弊害という訳ですね!? 」
ほう。昨日も思ったが、レオナルドの頭の回転は早い様だ。
気を良くした私はレオナルドに話の続きを促す。
「先の大戦は我が国に非常に大きなダメージを与えました。特に魔力持ちの貴族階級への影響は大きく、戦後家を維持出来ずに平民にならざるを得なかった貴族家は多いはずです。」
その通りだ。
通常なら国から補填を出したり、寄親たる地域の有力な貴族がフォローをするのだが、あの時はそんな余裕は誰にもなかったのだ。
付け加えるなら、戦時中の性犯罪の増加や敵対していた魔族からの略取などもある。
それに戦地に赴く予定の貴族が懸想した相手と燃え上がるなんてのはよくある話だし、その相手が平民だと言うのもない話ではない。
かく言う私も、レオナルドが出来たのは私が戦地に赴く前に燃え上がった時だった。
嫁さんは貴族だったけども。
「その通りだ。―――戦争終結から15年。これからは魔力を持つ平民が学園に入学して来るだろう。そうなると貴族と平民の間で軋轢が生まれるのは当然の事だ。」
順調な国家経営に官民の軋轢など百害あって一利なしだ。
これが数名程度なら何とでもなるが、実際に国が把握しているだけでも魔力持ちの平民の子どもはかなりの数がいる。
我々貴族もその考えをアップデートする時期に来ているという訳だ。
そこで決闘騒ぎを利用する。
基本的にこの国の貴族は戦士階級。
言ってしまえば大体脳筋である。
伝統的にこの国では階級の高い低いよりも強い弱いを重視する傾向にある。
レオナルドと決闘をして例の少年の力を見せつければ、平民を馬鹿にする貴族の子弟達の考えを改める一助になるかもしれない。
と、レオナルドに説明をすると―――。
「考えてみれば当然じゃないか!くそ! 自分の無能さがつくづく嫌になる。魔力を持つ平民を上手く取り込めれば、当然国力の増加にも繋がる。むしろ数だけなら平民の方が多いのだ。少量の魔力持ちが増えるだけでもその効果は計り知れない……。そう考えると狙い目は戦災孤児か? いや、魔力持ちの子どもがいる親も狙い目かもし―――。」
ブツブツと独り言を言い出した。
その目は何だか狂気を孕んでいて、正直ちょっと怖い。
あまり関わってこなかった息子の新たな一面を垣間見た気がする。
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