第47話 とても巧みなマッチポンプ



「へぇ、レミリスは雷系統の魔法が得意なんだ」

「多分ですけど」


 いつもの食堂での昼食後、ユーお姉様にそう言われ、答える。



 今日は、ミミリ様は同席していない。

 どうやら先生から呼び出されているようで、食べ始めの頃にはいたのだけど、約束をすっぽかしていたところをまんまと見つかって引っ張られていった。



 ミミリ様の――ユーお姉様のでもあるけど――クラス担任は、ちょっと怖そうな人だった。


 厳格な、決まり事に厳しそうな先生だった。

 私はいつでも柔和な笑みを絶やさない、ちょっと抜けたところもあるメオリ先生が担任だから、猶の事その先生の様子には驚いたのだけど。


「それを言うなら、アルエド先生もメオリ先生とは大分雰囲気が違うと思う」


 そう言ったのはノスディアさんで、その言葉に「たしかに」と納得すると同時に、私は運がよかったのかもと思った。



 だって、魔法がうまく使えない私にあそこまで優しく寄り添ってくれる先生なんて、もしかしたら他にはいないかもしれないもの。



「魔法の得意不得意は、元々の体質の他に性格によるところもあるという話もありますが、雷魔法が得意そうという印象は正直に言って、私にはあまりありませんでした」


 そう言ったのは、同席しているシルビア様だ。


「シルビア姉様、雷魔法が得意な人って、どんな人が多いの?」

「そうね。例えば派手好きとか」

「派手好き……」

「他にも攻撃的とか」

「攻撃的……?」


 私が?

 一応疑ってみるけど、私からは程遠い性格のような気がする。


 もしかして、自認がそうというだけで、実際にはそういうところも私にあったり……?


「あんたは地味で日和見でしょ」


 フンと鼻を鳴らしながら、そんな声が横から差し込まれる。

 見れば、そこにいるのはモアさんで。


「モアさん……!」

「はぁ?! ちょっと何であんたそんなに嬉しそうな顔してんのよ!」

「私の事を分かっていてくれて、嬉しかくて」

「嫌味の一つも通じないとか!」


 モアさんが、何故か顔を赤くして叫ぶ。


 怒っている……という感じはしない。

 だってモアさん、本当に怒っている時ってもっとちゃんと怖いもの。

 でもじゃあ何で顔が赤いのか。


 も、もしかして!


「モアさん、体調でも悪いのでは?! 私、ルームメイトとしてモアさんの看病を!」

「はぁ?! 何でそんな話になるのよ!」


 別にどこも悪くないわよ!

 そう言って、モアさんはプイッと顔をそむける。



 モアさんは、結構分かりやすい人だ。

 最近は、モアさんの嘘と冗談と本音の区別が少しずつつくようになってきた。


 その目から見ると、多分嘘はついていない。


「よかった……」


 そうホッと胸を撫で下ろしていると、ユーお姉様が「性格的な事は分からないけど」と前置きした上でこう言った。


「私は別に意外じゃないけどなぁ、レミリスが雷魔法が得意なの」

「え」

「ユー様、どうして?」


 私の疑問を、ノスディアさんが代わりに拾ってくれる。

 するとユーお姉様が「だって」と応じた。


「レミリスって、度々光ってきたじゃない。最初の魔力制御の授業でも、儀式で貰った固有魔法だって、ほら」

「光って、光と雷はまた別なんじゃあ」

「光魔法は、雷魔法の派生です。二年生になれば具体的に習うと思いますが」


 フォローしてくれたのは、シルビア様だ。

 それにノスディアさんとモアさんは、声を合わせて「へぇ」と答える。


「じゃあ、元々雷魔法とか光魔法とかが得意な体質っていう事なのかも」


 ノスディアさんがそう言って、私に目をやり「どう?」と聞いてくる。

 おそらく心当たりの有無を聞いてきているのだと思う。



 私は一応少し考え、それからフルフルと首を横に振った。


「我が家の家系に多いのは、植物系の魔法の使い手です」

「あぁそういえばレミリスとレミリスのお祖母様の魔法媒体に刻まれている刻印も、植物系だったね」

「はい。特にお祖母様は、植物に関する魔法適性が強いのだと言っていました」


 思い出したのは、幼き日の二人で過ごした温室の日々。

 お祖母様の魔力で育てられた薬草たちが青く瑞々しいあの空間は、ひどく居心地がよかった。


 お祖母様だけではない。

 他の人たちも、多分大抵が土属性の派生・木属性の魔法に強かったと思う。


「今日の感じだと、あんた別に『土属性の魔法が特段得意』っていう感じじゃあなかったけど」

「そう、ですね。残念ながら」


 モアさんにそう指摘され、少し落ち込む。


 私も何か秀でているところがあるのなら、お祖母様とお揃いがよかった……。


「べ、別に苦手なら練習すればいいのよ! 上級魔法でもない限り、大抵の魔法は努力の積み重ねである程度の練度まで上げられるんだから!」

「モアさん……!」


 元気づけようとしてくれている。

 その事が嬉しくて、思わず感激してしまう。


「モア、自分で落ち込ませておいて、自分でフォローして印象値上げてる。とても巧みなマッチポンプ」


 そんな私たちを見て、ノスディアさんがポソリと言った。

 その声を、どうやらモアさんの地獄耳は漏らさず聞き取ったようである。


「そっ、そんなんじゃあないわよ!」


 反射のように吠えた。



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