元メガバンク行員×3児ワーママの頭の中③「スピリチュアルはお好き?」

綾部まと

秋葉原で「邪気」を感じる

10年前に比べて、だいぶ変わった街がある。それが秋葉原だ。


先日、大学の同窓会があった。会場は、秋葉原と神田の間にあるレストランだ。どうせ家にいても子どもたちから用事を言いつけられるだけだから、早めに家を出て、開始時間より到着して、秋葉原の街をゆっくりと歩いてみた。


歩いてるうちに、気分が悪くなってきた。その街は、邪気にまみれていた。しかも苦手なタイプの邪気だ。吐きそうになりながら、原因は何か探りながら足を進めた。


まず、外国人が10年前よりべらぼうに多い。日曜夜ということもあり、日本人は家にいた時間帯だったのかもしれない。それでも日本人より多いのは異常に思えた。


正直いって、外国人は別にどうでもいい。ヨーロッパにいるタチの悪い移民のように、凶悪な目をしているわけでもないし、誰かを騙してやろうと狙っているわけでもない。日本に来る観光客たちは、毒にも薬にもならない。


それよりも異様だったのは、建物たちだ。大きなビルが立ち並び、広告収入を得るために、でかいアニメの看板がおかれるようになった。だいたいは美少女もので、彼女たちは同じ顔をして、不自然に大きい胸を持って、ほほ笑んでいる。「この街に来るってことは、こういうものが好きなんだろう?」と言うかのように。


心底、気持ち悪かった。まるで一つしかメニューがない食堂に放り投げられたような気分だった。


昔はあまり大々的にアニメの看板は出ていなかった。「実はここに、こんな店が…」という感じの雑居ビルが多かったからだ。そこには「オタクって、悪いことなんだよね」と思わせる後ろ暗さがあった。


でも今は「オタクです!」というのを全面に出していい。そういう傾向になってきてる。街の作りも、何も隠すことはなく、オープンで、ある意味ではクリーンになっている。


でも、これっていいことばっかりじゃない。少し脱線するが「誰でも好きになっていい」ということは、商業的な戦いに巻き込まれることを意味する。一部の熱狂的なファンがお金を払うことがないから。「みんなに好かれるよう」と思った瞬間に価値基準は「自分の面白いもの」から「他人が面白いと思うもの」になり、成功の判断軸も「どれだけ売れたか」に変わる売上がすべて。


番人に愛されるものを作れ…。だから薄められたサイダーみたいな作品が、世の中にあふれるようになった。


昔の「一部の人に好かれればいいよね」という風潮が、今では「誰にでも好かれなきゃいけない」に変わってきている。だから少女たちは同じような顔をして、ストーリーも同じような感じになっている。俺が強くて最強で、女の子にモテて…。


もちろん時代も関係してるのだと思う。昔は頑張っても多少は報われたのかもしれない。今は頑張っても報われない。それでも頑張らなかったら「努力が足りないせいだ」なんて言われる。


こんな世の中では、頑張るのがバカみたいになるのも仕方ない。せめて現実逃避の時くらい、いい思いをさせてくれ。そう思うのももっともだ。


そんな現実をまざまざと見せつけられて「これが好きなんだろう?」という欲望の塊をぶつけられて、なんだかフラフラしてしまった。


こんな感想を大学の同窓会で後輩に話すと、驚かれた。「実は俺も同じこと思ってたんですよね。街の雰囲気、変わりましたよね。なんだか歩いて気持ち悪くなっちゃいました」と言うではないか。彼は別にオタクではない。そんな彼でもそう感じるってことは、やっぱり何かが変わったんだと思う。


今の秋葉原が「悪い」と言いたいわけではない。街自身はきれいになったし、「こういったものがここにありますよ」っていうのはわかりやすくなった。


でも、分かりやすさの代償に、何かを失ったような気がする。その後ろにあった「後ろめたいけど、誰も分かってくれないけど、私はこれが好きだ!」という、黒くてどろりとした欲望。私はそんなものに惹かれて、昔は秋葉原に通っていた。そこにはもちろん邪気があったのだと思う。でも今とタイプの違う邪気だ。


秋葉原の居酒屋は0時で終わることが多いから、私たちは3次会で歌舞伎町に移動した。歌舞伎町も昔と比べて変わりはしたけれど、やっぱり昔のままだった。愛と欲、そしてトッピングにアルコールをどうぞ。


この世の終わりみたいな愛憎劇が繰り広げられて、人々はそれを楽しそうに眺めている。これは昔から一貫していて、外国人が増えても変わらない。やっぱり私は汚いものが好きなんだな、と思う。それも一層、汚いものが。

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