死祈彩る少女は今宵白星の天蓋を張る
七詩のなめ
第1話 再聖
例えばあなたが明日死ぬとわかっていたなら、今日何をする?
例えば王様が世界を破壊し尽くす暴君なら、あなたはどうする?
例えばみんなに特別な力が宿った世界なら、君はどう生きる?
答えはきっと、“何もしない”。
青白く燃ゆる赤い草原。極寒の砂漠に佇む錆色の獅子。
胎動する絶望の楽園。文明を喰らう生きた塩水。
そして、笑い泣く腐食した肉塊。
7つの終末が世界を呪った14年後。それでも人類史は終われなかった。
そして、少女と青年が出会って再びその産声は鼓動の如く鳴り始める。
これは混沌と呼ばれる少女と、王様と呼ばれる一癖二癖もある者たちが世界を救うまでの物語。
絶望が希望に変わる終末世界のその後の物語である。
――――――
誰もが寝静まる夜。2人の少女はとある場所へと向かっていた。暗い森の中。誰一人として寄せ付けない場所に建築された石レンガの廃城のその地下に
蜘蛛の巣が張り、害虫の巣窟と成り果てて、
少女の求めるものがここにあるのだ。そういう情報を彼女は手に入れていた。
けれど、現実のそれは思っていたよりも活発で、狂人的で――不可思議だっただけで……。
「ヒャッホー‼︎ みんな元気してるか? してるよな! してなきゃおかしいよなぁ⁉︎ ちなみに俺様はバッキバキのグッチャグチャに元気だぜ! いえぇぇぇぇい‼︎」
おそらくは青年が気絶か瀕死にまで陥れたのだろう。自らの手によって眠らせた者たちで作り上げたさながら王座に座り、青年は高らかに演説をしていたのだ。
その様子を見て、少女――
マリアはここにある人物を探してやってきていた。そうでなければ好き好んでこんな場所になど来るはずもない。その人物の特徴はというと……。
「身長176センチ。細身。手入れされていない長い黒髪。赤い虹彩。鋭い目つき。そして何より……悪魔的発想と嘲笑。もしかしなくても彼が?」
「まず間違いなく探し人ここにありって感じよね」
「……」
「何よ! わかったわよ! そんな人を殺せそうな目で見つめないでくれる⁉︎ あれがマリアの探していた歴史的大犯罪者の
三度狂ったように高笑いを繰り返している彼――皇悠人を見て、マリアは頭を抱えた。
幼い頃から養成所で共に育ち、今では大犯罪者を収監する牢獄の看守長にまで昇進した幼馴染の
ここでようやくにして皇は二人の存在を認知する。
「お〜? こっれはこれは白髪のポニテがキュートで有能な看守長様ではあらせられませんか〜? どうしたどうした。また俺様に遊ばれるためノコノコと遠路はるばるこんな小汚ぇ場所までやってきたってのかい、このマゾ女。それと……そいつはお友達――ってだけじゃなさそうだ」
一息。眼光もさらに鋭くなる。
「小綺麗な制服――それは大東亜連合国軍の制服だな? 艶やかで手入れの行き届いた黒髪。それに反するような金の虹彩。傷ひとつない肌。何より――」
皇は悪魔のような笑みと共に自身の胸元を親指で突きながらに続ける。
「一部分だけでも十二分にわかる“セイレーン”の刺青。あんたがかの有名な”死の歌姫”だろ? 会えて光栄だよ。俺様を殺しにでも来たのかい、
煽りはされど止まず。皇はまるで誰かを馬鹿にしていなければ生きていけないかのように罵る。その様子に他でもない看守長である白伊が震えて隣の幼馴染を見ることができないでいた。
皇の見つめる先にいたのは罵りが始まってから一貫して笑みを浮かべているマリアだ。けれど、その目に笑みはない。怒りと呆れの混ざった常人であれば言葉を詰まらせるほどの圧のある表情とでも言えばいいのか。1つだけ言えるのは白伊の態度こそが普通の反応であるということだけだ。
「おしゃべりは終わった? ならいくつか確認したいことがあるんだけど、その前に1ついい?」
「お〜お〜、なんだって聞けばいいさ、言えばいいさ。なんてたって今の俺様は――」
サクッと。
目にも留まらぬ早い動きでナイフが投射され、その切先は皇の脳幹に突き刺さる。青ざめる白伊は震えながらマリアの方を見るが、見たことを後悔するように尻餅をついた。そこにいたのは幼馴染の白伊が知る中で最も怒れる鬼がいたのだ。
積み上げた王座から転げ落ちる皇を前に笑みを浮かべたままのマリアは語る。
「私、“死の歌姫”って呼ばれるのがこの世の何よりも嫌いなの。1回死んでくれない?」
「ちょ〜⁉︎ こ、困るんだけど! 囚人だろうと正当な理由なしに手を出されるとあたしが始末書を書かなくちゃいけないんだけれど⁉︎」
「ごめんごめん。でも、彼が本物の皇悠人なら、この程度じゃ死なないでしょ?」
「こ、この程度って……」
通常、脳幹を破壊された人は死にいたる。そんなことは誰でもわかりきっていることだ。だから、この程度などという言い方は間違っている。
ただし、それが普通の人間であればの話だが。
王座から転げ落ちた皇の死体は程なくしてピクリと動き出す。指先が動き、手が動き、肘が曲がり、手のひらが自らの頭に刺さるナイフを掴む。ゆっくりと立ち上がり、同時にナイフも少しずつ抜かれていく。完全に立ち上がる頃には傷口はおろか血の一滴すら元通りになった皇がそこにいた。
「ひぃ〜! これホラーなんだけれど! 普通に怖いんだけれど⁉︎」
「どうやら本物だったみたいね。まったく、嫌になる」
「お〜いおいおいおい。人を殺しておいてそういう言い草はどうなんだい? えぇ?」
この後に及んでも憎まれ口を叩く度量はもはや尊敬に値する。白伊はすでに泡を吹いて倒れそうだ。
再三、マリアには目的がある。それは彼――皇悠人に会うことだ。けれど、それだけではない。彼女の目的には続きがあった。ゆえに彼の口車に乗り続けるわけにはいかなかった。
自らを落ち着かせるために深呼吸を行う。決して怒りが収まったわけではない。話を進めるために呆れること選んだマリアは頼まれていた確認事項を口にする。
「皇悠人。10年前に起きた首都大量虐殺“魔王生誕祭”の首謀者にして実行犯。計999人の殺害及び首都機能の4割を破壊した。間違いない?」
「ああ、対外的にはそうなってるな〜」
「対外的……ね。なら真実を話して」
「それが真実だ」
ニヤリと。またも嘲るようにマリアを見下す。
小さく息を吐いてマリアは事前に受け取っていた資料を取り出す。そこに書かれていたのは先ほど彼女が語ったものだ。彼女が持っているのは原本の写し。それでも軍の上層部でなければ手に入れることすらできない代物だが、それを簡単に破り捨てる。
その様子を見て、皇は初めて驚きの表情を一瞬だけ浮かばせた。
荒く破り捨てられた資料を横目にマリアは語り始める。
「どれもこれも真っ赤な嘘。自らの過ちを
「まるで見てきたかのような言い草だな〜?」
「実際見てたからね。あの日、首都で私は終末に立ち向かう少年を見た」
皇から笑みが消えた。
驚きの表情が隠せないといった様子だ。
皇の口からかろうじて言葉が吐き出される。
「あの祭りで生き残りがいたなんて聞いた事がないけどな〜?」
「1000人目の生贄は私だった。“魔王生誕祭”のあなたに次ぐ唯一の生き残りが私。だから私は知ってる。そして、私はあなたを探していた」
「なんだ〜? お礼でも言おうってかい?」
「違う。私が聞きたいのはここから。心して答えて。あなた、“アンサーズブック”を持っているでしょ?」
“アンサーズブック”という聞き慣れぬ言葉だのに、それを知っていそうな皇と白伊は鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔を浮かべる。対してマリアは至極真面目な顔つきだ。
虫たちの足音がよく聞こえる。しばらくして、皇は積み上げた王座ではなく床に転がっている人に座り込む。彼は数秒その位置で常人には計り知れぬ
おおよそ全てを悟った皇は笑みを取り戻して発言する。
「そう……だとしたら?」
「あなたをここから出す」
「ちょ、えぇ⁉︎ 待って聞いてないんだけど⁉︎」
「条件は2つ。私の監視下に入ること。私の命令に従うこと。条件を呑むなら手を。拒否するならここで処刑する」
「死なないのに〜?」
「殺した後の命令は受けてない。身寄りもないあなたの死体は仕方がないから私が受け取ることにする。この意味がわかる?」
マリアの独断で決めたことに、白伊は阿鼻叫喚の悲鳴をあげる。
石レンガの廃城に一際大きい笑い声が響く。そのせいで生き生きとしていた虫たちが一斉に隙間へと逃げ隠れる。腹を抱えて笑う皇は目に涙を浮かべていた。
マリアは殺してでも皇をそばに置きたいと言い、皇は笑いで息ができなくなりそうだった。
「じゃあ何か? その条件とやらを呑もうと呑むまいが俺様はここから出られるって〜? えぇ? それで俺様を10年も閉じ込めてたお国のためにせっせこ働けって? えぇ⁉︎ 冗談じゃないぜ。いいか〜? あんたにそんなふざけた命令を出した奴に言っときな〜? クソ喰らえってさ〜?」
「そ。でもどうしよう。皇悠人はさっき死んでたし。これは私の独り言だったんだけど。ねえ、キョウカ。そこの死体はもらって行っても構わない?」
「へ? あぁもう、勝手にしないさいよ! ほら鍵! もうどうにでもなれってのよ、まったく!」
皇は嘲るというより怒りを表にして言う。それをそっけなく受け取るマリアは強硬手段に出た。
投げ捨てるように鍵を放り出す白伊とそれを見事にキャッチするマリア。手に入れた鍵を使い彼女はとうとう檻を解放した。これによって白伊は始末書に追われることは言うまでもないだろう。
そうして、なんの隔たりもなく向かい合う2人は再度語り合う。
「なんならここで暴れ回ったっていいんだぜ〜?」
「あら、よく喋る死体。そんなに元気な死体なら、自分の口で言えばいいんじゃない? ほら、なんだっけ? クソ喰らえだっけ? なんだったら、少しは私の頑張りも認めろよクソジジイってのも付け足してもいいけど?」
再びマリアは皇に手を伸ばす。
牢の中に入ってわかったが、とんでもない悪臭だ。マリアは一刻も早くここから出たい気分でいっぱいになる。ただし、その時は絶対に彼も連れて行くつもりでいた。
交渉が成立しなくとも、是が非でもマリアは皇を連れ出さなければならない理由があった。
だから、皇がマリアの差し出した手を取った時は、喜びで自然と笑みが溢れてしまった。
「あんた……はっ。いいぜ〜? 乗ってやるよ。でも、あんたに俺様が扱い切れるのかね〜?」
「安心して。私、投げナイフには自信があるの」
「こいつは選択肢を間違ったかな〜? おっかね〜お嬢ちゃんの下に着いちまったモンだぜ」
これが黒崎マリアと皇悠人の出会いであり、彼女らが世界を救う物語の始まりでもある。
ただ、物語の始まりはここでは終わらない。
手を取り、牢から一歩出たところで、笑顔のマリアは皇を見て言う。
「あ、そうだ。言い忘れていたんだけど、いい?」
「へーへーなんでも言ってくださいよ、“お嬢ちゃん”?」
「ん、ありがと――私、“お嬢ちゃん”って言われるのも好きじゃないの。だから、殺すね?」
「あんた急に口調が――は?」
急に口調が柔らかくなったマリアに驚いて重要なことを聞き逃した皇の脳幹が再びナイフによって破壊された。
白伊はまたも頭を抱えながらその場で膝を崩した。
思ったよりも長居してしまっていたようで、地下に続く階段の方から日差しが入り込んでいるのが見えた。その光を背にマリアは回復しつつある皇に向かい言うのだ。
「それとあなたには世界を救ってもらうから。よろしくね、
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