昨日の敵は今日の友

第8話 テスト

 ゴールデンウィークが終わり、中間テストがやってきた。

 大して勉強をしてこなかった俺は、一夜漬けで全ての教科に挑むこととなった。赤点を取らないことを願う。


 そうして、訪れた答案返却の日。まずは現代文のテストが返される。それから、全問題の解説をした後、授業は終わりとなった。


「空野くん、どうだった?」


 休み時間となり、隣に座る古賀こが玲奈れいなが問いかけてきた。


「55点。平均よりちょっと上って感じ。古賀は?」

「じゃじゃーん」


 可愛らしい効果音を発しながら、古賀が誇らしそうに答案を見せつけてきた。


「おぉ! 凄いな! 90点なんて」

「ふふん。勉強の成果が出たよ〜〜」

「毎日、あれだけ勉強してるもんな」


 そんなことを話していると、教室が妙にざわついていることに気づいた。


「どうしたんだろうな?」

「なんだろうね?」

「玲奈。ちょっと」

「あっ、美羽ちゃん」


 古賀を呼んだのは、古賀の親友の中野なかの美羽みうだ。

 黒髪のロングヘアにメガネをした、いかにも真面目そうな女子。古賀とは小学生の頃からの仲らしい。

 ちなみに、見た目の通り、勉強の成績も古賀以上に良い。


 彼女は古賀に何かを耳打ちした。それを聞いた古賀は「えっ!?」と驚いている。


「どうした?」

「ちょっと聞いて」


 古賀がちょんちょんと手招きした。

 俺は古賀に耳を傾ける。古賀の声を間近で聞こうと思うと、少しドキドキする。


「天宮さん。現代文100点らしいよ」

「あいつが!? まじか!」


 驚いて、天宮あまみや郁美いくみの方を見る。


 驚く俺達とは裏腹に、当の本人は無表情だった。喜びをポーカーフェイスで隠してる訳では無く、ただ単純に、100点に興味がないというようだ。


「空野くん。最近、玲奈とより、天宮さんと話してたわよね?」

「ちょっ、ちょっと美羽ちゃんっ!」

「え? まぁ、そうだけど?」

「彼女。頭良いの?」

「いや、そんなことは多分……あぁ、何となく分かったかも」


 話しながら、彼女が現代文で100点を取ったことに、俺は1人で納得していた。

 なにせ、あれだけ小説を書くのが好きなのだ。現代文は、彼女にとってホームグラウンドのようなもの。余裕に違いない。


「あいつ、多分、文系科目得意なんだよ」

「そうなのね。後で勉強教えてもらおうかしら」


 中野が真剣な面持ちで天宮を見ている。

 彼女も古賀と同じで、天宮に対して恐怖心というものがないらしい。そういった似ている部分があるから、古賀と親友でいられるのかもしれない。


「あっ。そういえば、ゴールデンウィーク中に、天宮さんと空野くん。一緒に勉強してたよね」

「え? 勉強なん……あっ、ソウダナ」


 危うくボロが出る所だった。


「ってことは、現代文、天宮さんに教えてもらってたんだ」

「そ、そうだな。おかげで、去年より良い点取れたぜ」

「あれ? でも、去年も空野くんって現代文は平均点ぐらいじゃなかったっけ?」

「い、いや〜〜、今回の漢字、天宮に教えて貰ったところが出て助かったなぁ〜〜」

「そうなんだ。よかったね!」


 あぶねーー。バレる所だった。それにしても、古賀はよく俺の去年の点数を覚えてたな。今度からはもう少し考えてから嘘を言うようにしよう。


 そうこうしていると、チャイムが鳴った。

 俺達はすぐに次の授業に備えるのだった。


 こうして、全10教科のテストが返却された。


 俺は何とか全教科赤点を回避することが出来た。

 古賀は全教科80点超えの高得点だった。その結果に彼女自身とても喜んでいた。

 中野は全教科90点超えの高得点だったらしい。上には上がいるなと、感心してしまう。


 俺も少しは、彼女たちを見習って勉強すべきかも知れない。


 ただ、今回のテストで何より驚かされたのは、天宮の点数だ。何と、文系科目は全て80点以上を取っているのだ。彼女が授業以外で勉強する姿は見たことがない。それなのに、これだけ高得点が取れるのだから、勉学の才能があるのかもしれない。

 ただ、文系科目の優秀さとは真逆に、理系科目は全て赤点を取っていた。あまりにも両極端な点数だ。

 だが、それもそのはずで、彼女は理系科目の授業を全て、寝ているか、そもそも授業に出ずに過ごしているのだ。

 その辺りの自由さは天宮らしい気がする。


 一通りテストが返されたその日の放課後。


 俺は古賀に別れを告げてから部室へと向かった。


「おっ! セイちゃんお疲れ〜〜!」


 当然、部室には夢咲ゆめさき千晴ちはるがいた。相変わらず、ホームルームが終わってから部室に来るまでの速度が早すぎる。


「お疲れ。やけに上機嫌だな」

「当然だよぉ〜〜。テストが終わって、ウチたちは晴れて自由の身だよ? 早くアニメを見よう!」

「その前に、お前、点数はどうだった?」

「うっ……」


 みぞおちを殴られたかのように、夢咲が苦しそうな声を上げた。顔色も悪く、青ざめている。


「また、赤点取ったのか?」

「……う、うん」

「そうか」


 正直、予想はしていた。


 なにせ、夢咲はほぼ全ての授業で寝ている。彼女曰く、授業を受けるつもりはあるらしい。だが、VTuberとしての活動で睡眠時間が削られてしまい、結果、授業中に寝てしまうのだという。

 赤点を取った場合、各教科ごとに課題が設けられる。寝る間も惜しい夢咲にとっては、面倒なことだろう。


「で、赤点取ったのは何教科だ?」

「1教科」

「なんだ。1教科だけなら、1時間ぐらいで終わりじゃないか」

「……以外全部の教科」

「おぉ……」


 予想以上の赤点の量に驚かされる。

 こいつ、よくこの高校に合格できたな。


 すると、夢咲は涙目で俺に訴え始めた。


「助けて、ソラえもん!」

「俺は猫型ロボットじゃねぇ」

「それじゃあ、セイタ……助けて……」

「情に訴えかけてもだめだ」

「そこは『当たり前だ!!!』だよぉ」

「お前に悲惨な過去はないだろ」

「ぐっ……。こ、こうなったら!」


 夢咲は素早くマウスを操作し始めた。何をするのかと様子をうかがっていると、なんと彼女は、アニメ視聴用の動画配信サービスのアカウントをログアウトさせたのだ。


「お、お前何やってるんだ!」

「ふ、ふんっだ! アニメを見たければ、大人しくウチを助けることだにぇ」

「くっそ。面倒くせぇ」

「わっはは! ほら、ほら〜〜。ウチを助けにゃくて良いのかにゃ?」


 課題の紙を扇子のようになびかせて、ニヤついている。

 どの面下げて上から目線な発言をしているだ、この馬鹿は。


 ただ、まさか、アカウントを人質に取られるとは。

 このアカウントは元々夢咲の物だ。そのため、俺はアカウントのIDもパスワードも知らない。このままでは、このパソコンでアニメを観ることができない。


 残念ながら、俺に残された選択肢は1つしかないようだ。


「……はぁ。分かったよ。少しは手伝ってやる」

「やったぁ! じゃあ、解説よろしくにぇ」

「お前、すぐ調子に乗るな」


 おでこにデコピンを食らわせる。


 夢咲は痛そうにおでこを押さえてはいるものの、口元はニヤついている。反省の色がまるで見えない。高校生にもなって、相変わらずの嫌な性格だ。


「で、まずはどれを手伝えば良いんだ?」

「えっとにぇ、古典と英語お願い」

「よりによってその2つか」

「えぇ〜〜、ダメなの? セイちゃん使えにぇ〜〜」

「手伝ってやらなくても良いんだぞ?」

「嘘です! ごめんなさい! 手伝ってもらえて嬉しいです!」

「現金な奴め」


 ひとまず、課題の問題用紙を貰って、一通り目を通す。

 問題数はそれぞれ25問ずつ。期限内までに、80点以上を取らなくてはいけないらしい。問題の難易度はそれほど高くない印象だが、確実に80点以上を取るには、時間がかかる気がする。


 俺自身、理系科目ならともかく、文系科目はそこまで得意ではない。そのため、夢咲に教えられるほどの知識がない。


 他の誰かに教えてもらうのが良い気がする。


「夢咲。俺以外の人に手伝ってもらうのはどうだ?」

「助けてくれるのにゃら、誰でも良いよぉ」


 了解は貰った。スマホの連絡先から、適任者を探す。


 ぱっと頭に浮かんだのは古賀だ。

 彼女ならこの程度の難易度なら余裕で解けてしまうはずだ。それに「夢咲を助ける」という名目で、古賀と会うことができる。そうすれば、俺の優しさが彼女に伝わり、勉強しながら雑談もできる。まさに、一石二鳥だ。

 ただ、彼女は今、塾行ってしまって、学校にはいない。


 中野も古賀と同じ塾に行っているため、恐らく、学校にはいないだろう。


 そうなると、次にこの2つの教科が得意そうなのは……天宮か? いや。俺が天宮に頼みごとなんてできるのか? ただ、文系科目なら、現状、天宮以上の適任者はいないはずだ。


 試してみるしかない。


 一か八か、天宮にメッセージを送る。


『天宮。俺の友達に文系科目の勉強を教えてくれないか?』


 すぐに返信は来た。


『空野のくせに生意気ね。嫌よ』


 「空野のくせに」とは、相変わらず何様のつもりだろうか。ただ、ここで怒ってはいけない。天宮の機嫌を損ねないようにしなければ。


『そこをなんとか』

『私、忙しいの』

『バイトなのか?』

『バイトは今日は休み。でも、貴重な放課後をあんたのために浪費したくないの』

『このままだと部活動ができなくなるんだ』

『あんたの部活動がどうなろうと、私には関係ないわ』


 ごもっともな意見だった。ただ、ここで引き下がる訳にもいかない。

 すると、ここでふと頭の中で名案が浮かんだ。


『頼む。教えてくれたら、お前の赤点の課題を手伝うから』


 先程まですぐに来たはずの返信が来なくなった。それから数分待って返信は来た。


『どこで教えれば良いのかしら?』

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