第2話

金髪、青眼の日本人離れした顔立ち。芸能人のようなその容姿に、一瞬目を奪われたオレは、慌てて視線を逸らした。


待て待て待て。理性を保て、オレ。

こんな時代だ。美しい人を美しいと感じることが、場合によっては「罪」になる。そう自分に言い聞かせて、息を吐く。


「ねぇ、そこのキミ」

「……へ?」


突然、流暢な日本語で声をかけられた。驚いて顔を向けると、金髪の少女がオレをじっと見ている。その瞳は深い青色で、どこか挑戦的な光を帯びていた。


「ハラジュクに行きたいんだけど、この電車乗ってたらこのままで着くの?」

「ハラジュク?」


原宿のことだよな……?

オレは戸惑いながら答えた。正直、東京の地理にはあまり詳しくない。地方出身のオレが都会の電車に慣れるには、まだ時間がかかりそうだ。


「うーん、今乗ってるのは成田空港から新宿方面に向かってる電車だから……渋谷で乗り換えれば、多分行けると思いますけど……」

「え!ナニソレ!」

「ナニソレって……」


オレは頭の中で路線図を思い浮かべた。確かに渋谷で乗り換えれば原宿には行ける。でも、慣れない人にはややこしいかもしれない。


「まぁ、間違えなければすぐ着きますよ」

「間違えなければねぇ〜」


彼女は小さく唸りながら考え込む。そして、何か思いついたように顔を上げた。


「あ、そうだ!」

「……?」

「ねぇ、キミ、暇?あたしをハラジュクまで案内してくれない?」


「へ……?オ、オレが?」


突然の提案に、オレは言葉を失った。電車の中で見知らぬ外国人にこんな頼みをされるなんて、夢にも思わなかった。


「だって、こっちに来たばっかりで全然わからないんだもん。だから、お願い!」


彼女は期待に満ちた目でオレを見つめている。その瞳があまりにも綺麗で、どこか無邪気だった。正直、少し気後れしてしまう。なにこのコミュ強。怖すぎる。


「ええ……」


オレは周りを見渡した。電車の中の乗客たちはみなスマホを見つめ、他人に関心を向ける気配はない。ため息をつきながら思案する。


旅の疲れはあるけど、あと1時間半くらい電車に揺られる余力はまだある。


それに、迷子になりそうな外国人を放っておくのも気が引けた。……別に彼女が可愛いから手伝うわけじゃない。たぶん。


「……方向が一緒だから、構わないですけど」


オレの返事に、彼女はぱっと顔を明るくし、嬉しそうに笑った。


「ほんと!?じゃあ、決まりだね!」


その笑顔に、オレは少しだけ気持ちが温かくなるのを感じた。でも、それをすぐに振り払う。


「……まぁ、ついでですから」

「助かるぅ〜!ありがと!」


彼女は嬉しそうに笑い、座席から立ち上がった。電車が次の駅に停車するのを待ちながら、オレの方をちらりと見て言った。


「あたし、ミツキ。ミツキ・ブライトリーよ」


ミツキは手を差し出してきた。握手……なのか?日本ではあまり馴染みのない慣習に戸惑いながらも、オレはその小さな手を取って軽く握り返した。


「あ、どうも……えーと。オレの名前は」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る