ダンジョン配信がJKのトレンドになった世界/この妹、実は世界最強のミミックです!!

菅田江にるえ

表編:ダンジョン配信がJKのトレンドになった世界


「え、えと……こちら、天照あまてらす坂女学園スクールダンジョン配信同好会です!」


「固い、固いよ! イサラちゃん、もっと笑顔!」

「え、えへへ……こちら、」


 地味な茶色いショートヘアの少女が、引きつった笑みを浮かべる。


「カメラ一回止めよっか、ちょっと休憩にしよ」


 あかね色のポニーテールをした少女が、腕輪型デバイスを操作し、ドローン技術の発展形である球体浮遊カメラを停止させた。


「すみません、上手くできなくて……」


「姉さんには向いてません。会長の人選ミスなのです」

 と、やや辛辣しんらつな灰色のショートヘアの少女。


「イサラ、人前も苦手だもんね~」

 紫髪をひと房のおさげにした少女も、のほほんとした口調で同意する。


「ありがとう、ポエムちゃん、ウズメ……」

「だから~、私のことはエムって呼んでね~?」


 小学校からの旧友――川畠かわばたポエムは、自分の名前にコンプレックスがあるが、

 イサラは名前も髪の色も個性があっていいな、と思っていた。


「チカ会長、やはり姉さんには荷が重いのです。うちがやるのです」


 挙手してくれたのは妹の――甘野あまのウズメ。

 妹と言っても、こちらは逆に付き合いが短い。


 ダンジョンで倒れていた彼女を『偶然』助けたところ、『偶然』生き別れの妹だと発覚し、現在は同居している。


「会長に意見するわけじゃないですけど、私も役者不足だと思います……」


 イサラが、ここぞ、と妹に相乗りする。

 気弱な彼女だが、ずぶとい部分は妙にしたたかなのだ。


「うーん、イサラちゃんみたいな子は、ニッチな層に需要があるんだけどなあ」


 若干セクハラじみているのは我らが会長――高尾たかおチカ。

 活発系の美人さんなのに発言がもったいない、と周囲は常々思っている。


「せめて、四人でやりましょうよお……」


「ええー、『スクールダンジョン配信』はレッドオーシャンだから、それだと普通すぎるんだけど……ま、本人が嫌がってるなら仕方ないか」


 ちぇー、と唇を尖らせて、チカは浮遊カメラを再起動する。


「それじゃみんな、入口前に集まってー!」

 レンズの前に、女子高生四人組が横並びになった。


「はい、こちら天照女子学園ダンジョン同好会、通称『ぬかぼこ隊』でーす!」


「パーティ名が何度聞いても、ダサいのです……ゲボ吐きそうなのです」

「会長のセンス、独特だよね~?」

「わ、私は『かまぼこ』みたいで、可愛くていいと思いますよ!」


「えー、身内が好き勝手なんか言ってやがりますが、本日ぬかぼこ隊はこちら、学校裏山のダンジョン『ウドの洞穴』に来ていまーす!」


 紹介するのはどう見ても自然発生した洞窟……なのだが、正式にダンジョン公社にも登録された立派な(?)ダンジョンだ。


 難易度:わかば(わかば→なえぎ→セイボク→ヤクスギ→ユグドラシル)

 推奨レベル:5~10


 どこからどう見ても、完全に初心者向けである。


「はあ、こんなところで映えるのですかね……」

「有名どころのダンジョンは都心に集中してて、遠征に行くお金部費がないんだから、しょーがないでしょ!」


「私は強いモンスターと戦うの怖いから、ここでいいかな……」

「わたしも左に同じ~、もとい右に同じ~」


「じゃ、多数決は三対一ということで……みんな、気合入れていくよ!」

「気合入れる必要あるのです……?」


「そこ、雑魚ばかりだと思ってると怪我するよ! 

 推奨レベル以上の強力なユニークモンスターField On Enemyだって、低確率だけど『ポップ』するんだからね!」


「うう、それを言われると返す言葉もないのです……」


 まさにウズメはつい先日、このダンジョンで、ユニークモンスターに襲われていたのを保護されたのだ。


「エムちゃん、ポップってなに? ポップコーン?」

「簡単に言うと~、湧くこと?」


「お、温泉なの……? でも、ポップコーンは映画館で食べる……? 温泉でポップコーン?」

 イサラが頭上に無数の『?』を浮かべている。


「そうだねえ、掻い摘んで言うと、モンスターが出現すること、かな」

 すかさず、チカがフォローを入れた。


「ご、ごめんなさい、私ダンジョンっていうか、ゲームの知識すらなくて……」

「ああ、それに関しては本当に気にしなくていいよ。むしろイサラのおかげで初心者向け配信になってるんだから」


「あ、ありがとうございます……?」


「イサラ~、今度リメイクされた『サラマンダークエスト3』貸そうか~?」

「こらそこ、イサラちゃんに余計な知識を教えないの! イサラちゃんはけがれを知らない生娘ウブだからいいんじゃない!」


「発言が限りなくセクハラなのです……」

「ゲームのこと、穢れって呼ぶのやめてくださいね~」

 ふたりがやれやれ、と揃って肩をすくめた。


「よーし! 気を取り直して! みんな〈ジョブデバ〉は忘れてないよね?」


 チカが先ほど操作した腕輪をとんとん、と指さす。

 腕輪型マルチタスクジョブデバイス──通称ジョブデバ。


 その名の通り【ジョブ】に纏わる機能を始めとした様々な機能が内蔵され、ダンジョン公社への登録証でもある。

 ついでに時計機能も付いてる。


「〈ジョブデバ〉、おっけ~で~す」

「〈ジョブデバ〉、うちも抜かりないのです」

「つい言いたくなっちゃうよね、〈ジョブデバ〉」


 四人が各々のカラーリングの腕輪を、声に出して確認する。

 ちなみに、お値段は大体スマホ(その時の一世代前)くらい。


「ダンジョンに入ったらまず必ず『すっぴん』から固有職に『ジョブチェンジ』すること! ダメージを肩代わりする安全装置いのちづなでもあるからね!」


「エムちゃん、すっぴんってなに……? お化粧してないってこと?」

「ジョブを纏ってない状態を、すっぴんって呼ぶんだよ~」

「作品によっては、すっぴんも【ジョブ】の一種として扱われるのです」

「ウズメ、わるいけど補足しないで……頭がパンクしちゃう……!」


 ぷしゅーっと、イサラが煙を出してしまった。

 ウズメが彼女を抱きかかえ、そんなこんなで、ようやくダンジョン一歩手前である。


 ダンジョン突入を検知し、〈ジョブデバ〉の制限されていた本来の機能が解禁アンロックされる。


「いくよ、くるよー、最初の見せ場!」

「はあ、あれをやるんですか……」

「なーに言ってんの! やらいでか!」

 チカが率先して腕輪を構え、三人も(渋々)それに倣う。


「「「「せーの――ぬかぼこチェンジ!」えいっ!」~!」なのです……」


 びみょ~に揃っていない掛け声と共に、〈ジョブデバ〉の発する光に包まれ、制服姿の四人が変身する。


「――聞いて驚け!」

 待ってました、と言わんばかりにチカのテンションが有頂天になった。


「矛すら防ぐ鉄壁の盾、誰が読んだかパラドクスナイト――【パラディン】!」


「紫の、トリカブトには、毒がある~、美しきくノ一――【ニンジャ】!」


「……あの」

 黙り込むウズメに、チカが目をぱちくりさせて合図を送った。

 なんだかんだポエムもノリノリである。


「はあ……今日もみんなに癒しをお届け(棒読み)――【ホワイトメイジ】」


「がはっ、ウズメたその『棒読みヒーラー』堪らん! 需要がある!」

 チカが決めポーズのまま、鼻血を垂らしている。


「ええと……さっそく怪我人が出たので、もう帰っていいです……?」

「待ってー! これは鼻血じゃなくて――世界樹のしずくだから!」


「お疲れさまなのです。それでは、また次回の配信でお会いするのです」


(前編・了、つづ


「勝手に締めようとしないでー! まだイサラちゃんの『名乗り』が残ってるからさー!」

 ウズメの耳が、ぴくりと反応した。


「うちとしたことが、危うく姉さんの見せ場を逃すところだったのです」

「あう、流れで許されるかと思ったのに……」


 誰からともなく、「なーのーれっ!」コールが始まった。


「うう、ナノハラ(※名乗りハラスメント)やめてよお……」


「イサラちゃん、名乗らないと今日の収録終わんないよ? ほら、名乗ってみたら意外と気持ちいいから!」


「会長、それは普通にセクハラですよお……」

 ちらっと視線を送り、ウズメに助けを求めるが。


「姉さん、うちもやったのですから」

「ブラック同好会気質こわいよおー!」


 マジで話が進まないと観念したイサラは、赤いマントの裾をひるがえし、剣を掲げ――。


「な、なんでもそこそこ、そつなくこなす――【レッドメイジ】!」


「わ~お、オールのひらがなの名乗り、ふにゃふにゃ過ぎて逆にすご~い」

「もお! エムちゃん怒るよ!」


「姉さん、グッジョブなのです……うちの生涯に悔いはないのです」

 今度はウズメが、鼻血を垂らしていた。


「いいねー、需要あるわー。それじゃ集合絵も撮るから、寄って寄って」


「いまさらですが、こんなグダグダでいいのです?」


「編集でテンポよくカットするから、無問題モーマンタイよ! 

 カットした分も未公開シーン集として、メン限にするし!」


「会長、抜かりないのです……」


 てなわけで、パシャリ、と一枚。


 四人中ふたりが鼻にティッシュを詰めている異常な写真スクショあったが、これも編集マジックでなんとかするとのこと。

 配信と言っても、ライブ配信ではないのだ。


 ◆


「よーし、やることやったし、出発するよ!」


 さてもさても、いよいよダンジョンの奥へ進んでいく。

 入口こそ自然洞窟にしか見えなかったが、四人並んでも余裕のある通路の壁が、だんだん無機物じみていく。


「モンスターと『エンカ』しないうちにおさらいするわね。

 あたしがタンク役……イサラちゃん、タンクの意味は覚えてる?」


「エンカ……? ええと、タンクは敵を引きつける盾役……でしたよね?」

「そそっ、ちなみにエンカはエンカウント――敵と出くわすことね」


 チカが浮遊カメラ視聴者に向かって、人差し指を立てた。


 タンク役の彼女を先頭に、アタッカー役のイサラとポエムが中間、ヒーラーのウズメが最後尾と簡単な陣形を組んで進む。


「来るよ――正義の御旗フラッグ・ベアラー!」


 広間に出たところで、金の縁取りがされた白い甲冑に身を包んだチカが、装飾華美な西洋盾を構え、【ジョブスキル】を発動。


 盾中央の紋章が派手に輝き、注目タゲを集める。

 オオカミ型モンスター――ヘルハウンド(レベル3~4)の群れが、そこに勢いよく突っ込み、次々と跳ね返されていく。


 シルエットがオオカミっぽいだけで、ヘルハウンドは全身に体毛が無く、ダンジョンと同じく無機物じみている。


 頭部には、ひとつの孔がぽっかり空いており、なんとなくひとつ目のように見える。

 本当に目に当たる部位なのかは分からない。


「いっくよ~――双子の鏡像アルター・エゴ

 ずずずと立ち上がったポエムの影が色づき、鮮やかな紫の忍装束が二人分になる。


「からの~――新説・虚無爪ジェミナイズ・リンクス!」


 ポエムの動きに合わせて、分身がターゲティングした相手にオートで忍刀を振るい、二体のヘルハウンドが同時に斬撃を浴びる。

 裂傷からは血も流れず、ヒットポイントの限界を超えた体が、虹色の粒子になって消えていく。


「わ、私の番だ……ええと、剣……は怖いから、魔法スペルで……呪文? 詠唱? するんだっけ……?」


「イサラちゃん危ない!」

 わたわたしているうちに一体が起き上がり、前に出たイサラに標的を変えた。


「姉さん! 『神秘の煌めきよ、世界を断て――魔障壁ディ・シャッター』」


 庇うように立ち塞がったウズメの眼前、壁一枚分の厚みの空間に煌めきが満ち、鋭い爪と牙を防ぐ。

 が、ヘルハウンドが光の障壁を、爪で強引にこじ開けようとする。

「くっ、長くは持たないです……」


「ウズメに手を出さないでーッ! やあーッ!」


 スキルでもなんでもない剣の一閃が、直撃の瞬間、

 1680万色の火花を放つ――〈クリティカルヒット!〉し、残ったヘルハウンドに致命傷を負わせた。


「はあ……勝てたあ……ごめんね、ウズメ」

「いえ、姉さん、いいチームプレイでした。ですよね、会長?」


「撮れ高ばっちりだよ! これぞ仲良し姉妹の絆パワー、需要あるわー!」

 チカがふたりに、ぐっと親指を立て、カメラに向かって解説する。


「【レッドメイジ】は剣技も魔法も両方使える万能ジョブだよ。

 代わりにスキルツリーの頭打ちも早いけど、あたしらはどうせ低級ダンジョンしか潜らないから問題なし!」


「使いこなせば映えそうなんだけどね~」

「ごめんなさい、詠唱も覚えてきたんですけど、本番でど忘れしちゃって……」


「まあまあ、きゃわゆい後輩に怪我がなくてなによりだよ!」

「『かわいい』のニュアンスが、若干キショいのです……」


 なお、【ジョブ】を纏っているあいだは軽めの衝撃と共にダメージエフェクトが出るだけで、実際に怪我をすることはない。


 ダメージがヒットポイントを超過した場合も、緊急退出装置Compulsory Escape Deviceで入口に戻され、その回の探索で稼いだ分の経験値こそ失うが、死ぬことはない。


 ダンジョン配信が、エクストリームスポーツとして女子高生にまで普及した要因である。


「じゃ、撤収! 引き揚げよっか!」


「えっ、これで終わりですか……? ボス部屋とかあるんじゃ?」

「『フロアマスター』のこと~?」


「あれウズメちゃんを助けた時に倒しちゃったから、しばらく再出現リポップしないよ」

 簡単に経験値稼げちゃうから、とチカが付け加える。


「誰が調整してるんだろ~?」

「さあ、そこに関してはあたしも聞きかじりだから、憶測だよ」


 この世界の各所に、突如として出現したダンジョンには、未だに謎が多い。

 そんな未知のダンジョン技術の、一端を解析して作られたのが〈ジョブデバ〉――腕輪型ジョブデバイスなのであった。


「そうそう、『ドロップアイテム』の回収は忘れないようにね!」

「ドロップ……モンスターを倒すと落とす、宝石みたいなやつでしたっけ?」


「そそ、その認識で合ってるよ! ユニークモンスターならドロップも固有アイテムなんだけどね」


 低級ダンジョンなので、通常アイテムですらドロップ率は低く、価値もすずめの涙。

 しかし、ダンジョンに行った証明として、ひとつは持ち帰るのがお約束である。


「一個ありましたー!」

 イサラが小粒なグリーンの宝石――魔力結晶を掲げている。


「ふう、焦ったー。『マラソン』にならなくてよかったよー」

「マラソン……?」


「アイテムが出るまで倒すことね~、意味をかけて落とすまで『走る』とも言うよ~」

 説明してくれたポエムにお礼を言い、結晶をチカに手渡そうとする。


「アイテムが出るまで倒すこと~、意味をかけて『出るまで走る』とも言うよ~」

 説明してくれたポエムにお礼を言い、結晶をチカに手渡そうとする。


「さんきゅ、じゃあ証拠写真だけ撮ったら、イサラが〈クリティカルヒット!〉の記念に持って帰っていいよ」

「いいんですか?」


「うん、どうせ綺麗な小石程度の価値しかないし!」

「はっきり言うのです……」


 ドロップアイテムはダンジョン公社に送ると、報酬として追加経験値が〈ジョブデバ〉に振り込まれたり、固有ドロップアイテムなら武器や防具を作ってもらえたりする。


 が、これっぽっちだけ郵送しても送料分の赤字。

 なんなら、ちょっとした迷惑行為である。


「でも、本当に綺麗だな……」


 魔力――便宜上、未知のエネルギーを魔力と呼んでいる、を放つ結晶は小粒ながらも、自らグリーンに発光している。


 非常時の懐中電灯にもならない、心許ない光だが、それでもイサラは綺麗だと思ったのだった。


(表編・了、つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る