第4話 アゲアゲ魔王

「魔王様、こんな時間までどこに行ってたんだ?」

「あぁん? 別にどこだっていいだろ。それより勇者だ。勇者を探すぞ」

その横暴な態度を見て、白髪で白髭の男は悟った。

「酒場にでも行ったのか?」

「俺が酒に酔うわけないだろ! 俺は魔王だぞ。人間界で出されている酒など効くわけがない」


それより勇者だ。勇者を探しに行くぞ。


酔ってはいなかったが、魔王の気分はアゲアゲ状態だった。

つい先程まで、人間どもと飲み遊んでいて思ったより楽しかったのだ。


「今からか?」

「当たり前だ。ここへ来た目的を忘れたのか?」

「そうそう、行きたい場所があると言って逸れたのはお前だがな」

「うるさい、黙れ! さっさと探しに行く準備をしろ」

「魔王ルシエル様、私は先代の偉大なる恩方に頼まれたから来ただけだ!

そもそも、こんな時間に勇者をどうやって探す?」

「気持ち悪い敬語は早く直せ」


あと、俺は魔王だ。アスモデウス、さっさと俺の言うことを聞け。


魔王ルシエルは短い前髪をあげ、深淵を覗かせる瞳でアスモデウスを睨みつけた。

その瞳の眼差しは先代の大魔王を髣髴とさせ、魔王としての威厳が現れた。

「これから勇者を誘き寄せる。そのためにもアスモデウス、お前は・・・」

ルシエルは自分のやりたいことを話した。

「承知しました」




だれか助けてぇえええええええええええええええええええぇえええ。

女性の甲高い悲鳴が街路に響き渡った。


「アスモデウス、そっちはどうだ?」

「はい。人がいなかったので、悲鳴は私が再現して。リザードマンの配置は完了しました」

周りの建物より高い屋根の天井で二人はヒソヒソと話し合った。

「お前、そんな体して女みテェな声出せるんだな」

魔王ルシエルは、アスモデウスの筋骨隆々な体を眺めて疑問に思った。

「私はどんな声でも出すことができます。なんなら・・・魔王様のおかさまの声なんか・・・」

「それだけは止めろ。それより、リザードマンの状況は?」

「まだ変わりありません」

「こっちもだ」

「本当に勇者は来るのでしょうか?」

「来るに決まっているだろう。勇者はな、強くて優しくて勇敢なやつだぞ。飛んで来るに決まってる!」

「それはどこからの情報ですか?」

「あぁぁん、うルセェな。大体そうだろ」

そう言った魔王を見てまたアスモデウスは呆れた。

二人は別々の配置したリザードマンを見ていた。


その時、アスモデウスが見ているリザードマンの方に向かう二人組の姿があった。

「魔王様、こっちに誰か来ました」

「どんなやつだ?」

「二人組で、一人は上半身が裸の男で。もう一人は白いシャツ一枚だけ羽織った全裸の男です」

「お前、ふざけているのか?」

「見てみたら分かります」

アスモデウスは見るように促すが、魔王は断った。

「見なくていい」

「もしかしたら勇者かもしれませんですよ?」

「勇者なわけあるか。朝から服を脱いで魔物に挑みに行くバカがいるかぁ! 

 勇者はなもっと、豪勢な装備を着てそういうこれが勇者だな、っていう雰囲気があるんだよ。きっと・・・」


おい、見ろ。あれが勇者だ。いやそうに違いない。


魔王は上機嫌にアスモデウスに語りかけた。

彼の視界には、豪勢な装備をきたいかにもな雰囲気を漂わせた人影がリザードマンの方へ歩いていたからだ。


「おい、追いかけるぞ」

「あっちの二人組はいいんですか?」

「あ? 裸の奴らが勇者なわけがないだろ。それよりあっちだ。あっちに勇者がいるぞ」

魔王は強引にアスモデウスを引っ張った。

早く、早くと興味津々に勇者であろう人物に吸い取られるように。

仕方なくアスモデウスは屋根に身を隠しながら進む、魔王について行った。

「はい」

アスモデウスの心眼には裸の二人組が並大抵なものではないことを見抜いていた。

しかし、こうなった魔王を止める手段はありそうになかった。



『待ってろ、勇者。俺様がお前を倒してやる。ハッ、ハッ、ハっ』







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