第1章:衝撃の発見

朝日が昇り始めた朝日古墳の頂で、山田真理子は深呼吸をした。37歳の彼女は、細身の体に知的な雰囲気を纏い、常にかけているメガネの奥の瞳には好奇心と決意が宿っていた。考古遺伝学者として、両親から受け継いだ考古学への情熱と、アメリカで学んだ最先端のDNA分析技術を融合させ、日本の起源に関する真実を科学的に解明することが彼女の使命だった。


朝靄に包まれた愛知の田園風景が、眼下に広がっている。「ここに眠っているのは、本当にあなたなの?」真理子は心の中でつぶやいた。


「山田先生、準備が整いました。」


声の主は、真理子の研究助手である鈴木明日香だった。29歳の彼女は、明るい表情と活発な雰囲気を持つ新進気鋭の若手研究者で、真理子の研究に惹かれて助手となった。しかし、その裏には誰も知らない秘密が隠されていた。


「ありがとう、明日香さん。それじゃあ、始めましょう。」


最新鋭のグランドペネトレーティングレーダー(GPR)が古墳の表面をなぞり始めた。画面に映し出される地中の様子を、真理子は食い入るように見つめる。


「ここです!」突如、真理子が叫んだ。「今まで見つからなかった空洞がある。これは間違いなく埋葬施設よ。」


発掘チームが慎重に作業を進める中、真理子の胸の鼓動は高まるばかりだった。数時間後、ついに埋葬施設の入り口が姿を現した。


「慎重に。絶対に損傷を与えないように。」真理子は神経質に指示を出す。


埋葬施設の中に入ると、そこには驚くほど保存状態の良い人骨が横たわっていた。


「成人女性...」真理子はつぶやいた。「まさか、本当に...」


興奮を抑えながら、真理子は慎重にDNAサンプルを採取した。「これで、2000年の時を超えて、あなたの声が聞けるかもしれない。」


研究室に戻った真理子は、直ちにDNA分析を開始した。現代の技術をもってすれば、わずかな量のDNAからでも、驚くほど多くの情報を引き出せる。真理子は眠る間も惜しんで作業を続けた。


数日後、最初の分析結果が出始めた。


真理子は震える手でデータを見つめた。この遺伝子配列は、彼女がこれまで見たどのサンプルとも異なっていた。これが意味するものを考えると、胸が高鳴った。


「これは...!」


真理子は思わず声を上げた。画面に映し出された遺伝子配列は、彼女の予想をはるかに超えるものだった。


「先生、どうしました?」明日香が駆け寄ってきた。


真理子は震える声で答えた。「この遺伝子配列...現代の日本人にはほとんど見られない特殊なハプログループよ。しかも、韓半島南部や中国東北部の古代集団との関連性を示唆している。」


「それって...」


「ええ、これが本当なら、日本の古代史を根底から覆すことになるわ。」真理子の目は興奮で輝いていた。「私たちは、邪馬台国の謎を解く鍵を手に入れたのかもしれない。」


その瞬間、真理子の携帯電話が鳴った。ディスプレイには「中田教授」の名前が表示されている。中田秀樹教授は、58歳の国立歴史民俗博物館の考古学部門長。白髪交じりの髪に常にスーツ姿の彼は、保守的で慎重な性格の持ち主だった。新しい研究方法に懐疑的な彼が、なぜこのタイミングで...?


真理子は深呼吸をして電話に出た。


「はい、山田です。」


「山田君、今すぐに東京に戻ってきたまえ。君の発見について、緊急の会議を開く必要がある。」中田教授の声には、普段にない緊張感が漂っていた。


真理子は明日香に目配せし、頷いた。「はい、わかりました。すぐに向かいます。」


電話を切った真理子は、深い息を吐いた。この発見が単なる学術的な興味を超えて、日本の歴史観そのものを揺るがす可能性があることを、彼女は直感的に感じていた。


もう一度分析結果の画面を見つめた真理子。そこには2000年の時を超えて、古代日本の謎を解き明かす鍵が映し出されていた。


「さあ、真実の扉を開く時が来たわ。」真理子は静かにつぶやいた。


真理子は、この発見が邪馬台国の謎を解く鍵となるだけでなく、日本人のルーツに関する新たな視点をもたらすかもしれないと考えた。しかし、その真実が世に出ることを望まない人々がいることも、彼女はまだ知らなかった。

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