ぼく、お金

まさか からだ

第1話 お金の目覚め

 夜の街が静まり返り、誰もいない暗い部屋の中。ひとつの古い財布の中で、一枚の千円札が目を覚ました。


 「えっ……? なんだか、動けないのに体があるみたい……。これって……ぼく?」


 その千円札は、自分が何者なのかもわからず、驚いていました。まわりを見ると、たくさんの小銭やレシートがぎゅうぎゅう詰めになっています。でも、みんな黙ったまま。誰も何も話しません。


 「ぼく、なんでここにいるんだろう? なんでこんな形なんだろう?」


 暗い中で考え始めると、次から次へと疑問が浮かんできます。ぼくは何のために生まれたのだろう? どうして人間たちはぼくを大事にするの? でも、時々ひどく扱うのはどうして?


 この千円札には、たくさんの記憶がありました。

 子どものお小遣いになって、「ありがとう!」と笑顔で言われたこと。

 誰かが大切なプレゼントを買うために使ったこと。

 でも反対に、机の上に放り投げられて、何日も忘れられてしまったこともありました。


 「ぼくって、人の手を渡り歩くだけの紙なのかな? それだけで、いいのかな?」


 考えれば考えるほど、千円札の心はぐるぐると迷い始めました。ぼくはどうしてここにいるんだろう? ぼくには何ができるんだろう?




 そんなとき、ガバッと財布が開きました。冷たい空気が千円札に触れます。次の瞬間、大きくてゴツゴツした手が千円札をつまみあげました。


 「この人の手……一生懸命働いてきたんだな。ぼく、次はこの人の役に立つんだろうか?」


 少し不安。でも、少しワクワクする気持ちもありました。どんな冒険が待っているんだろう? この手がぼくをどこに連れていくんだろう?


 こうして千円札は、人間社会を旅する新しい冒険に出発しました。

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