第24話魔界大公の娘ミージャ
人狼は神官を呼びに魔界に向おうとしていたが、一足遅く、城を出ようとしたときには、ムッとするほど死霊の臭いを嗅ぎ、慌てて女帝のところに戻るとすでに近衛の騎士に守られながらあの軍議の行われる部屋に避難するところだった。いきなりの襲撃で、城内奥まで侵入されてしまったようだ。この城は、皇帝の威厳を表すため荘厳だが、実戦向きの城ではないようだ。だから、ガーゴイルの強襲の時のようにその部屋に立て籠もるつもりのようだ。それを見て、人狼はすぐに勇者たちを、ここに呼んでくるべきだと判断し、死霊たちの間をすり抜け、城に群がる死霊たちに背を向けて休まず走り魔界の魔王城に向かった。休まず必死に走ったので、女帝の城を出てから、まだ丸一日も経っていない。即、妹さんに報告して救援を頼んだ。妹さんは、寝ようとしていた軍師に女帝の城が死霊の群れに襲われていると伝え、救援を送るよう伝えた。彼は奴隷扱いだが、妹さんや魔王の信頼が厚く、魔王城の魔物たちに指示することもある程度認められていたが、いま魔王城には優秀な神官がいることも知っていたので、すぐ、彼女のところへ向かった。死霊については神官が専門だということは人間界では周知の事実だ。ならばと軍師は彼女に頼ることにした。
そして、妹さんは人狼とともに魔王と勇者の元に慌ててやってきたのだ。
母のことは気になるが、それよりも夜の剣の稽古を中断してくれたその報告に勇者は不謹慎だがホッとしていた。母の身は心配だが、夜の剣の稽古がうやむやになってくれたことは、正直うれしかった。これから、彼の寝室に行くたびに剣の稽古と間違われるのは避けたい。問題の先延ばしだが、少なくとも、今宵は、新婚初夜の二の舞になるのは避けられたと思う。
「死霊が、人間界で勇者のお母様のお城を襲っているというか」
女帝は、魔王にとって義理の母である。しかも、勇者のことでいろんな品を送ってもらっていた。いずれ勇者と一緒にきちんと会って話をしたいと思っていた方だ。心配の表情を浮かべていた。人狼も同じような表情で魔王に告げる。
「かなりの死霊たちが女帝陛下の城を取り囲んでおりました」
「勇者のお母様は御無事なのか?」
「はい、今のところは、まだ無事かと」
ガーゴイルに襲われた時も、あの部屋で妹さんが来るまで持ちこたえた。だから、あの部屋に籠って耐えているはずだと人狼は考えていた。
「とにかく、一刻も早く助けに向かうべきだな?」
「はい」
軍師と神官や魔法使いたちが、慌てたように魔王のところに集って来る。
「陛下、すぐに神官たちが女帝の元へ向かってくれるそうです」
「もちろん、私も行くわ」
勇者が、夫の魔王に宣言する。
魔法使いは転移の魔法を覚えていたし、神官は神と対話できるほど有能である。戦士も竜から剣を学んでいた。彼女たちが向かえば死霊の群れなど簡単に蹴散らせるだろう。元々魔王討伐のための精鋭である。それが竜に教えを乞うてレベルがケタ違いに上がっている。魔王も、今の実力の勇者たちが改めてパーティーを組んで再び挑んできたら勝てないことも分かっている。
「では、私も行こう。お義理母様には、まだきちんと結婚の挨拶をしていない」
「お兄様がついて行くのなら、当然、私も」
軍師は少し呆れていた。仮にも王を名乗る者が。そう気軽に城を空けるなよと内心で苦笑したが、こういうところが、この魔王の良いところだとも思った。
「しかし、死霊は数が多いのでしょう、神官一人で大丈夫でしょうか」
軍師が戦力的不安を口にする。勇者たちの実力を軽視しているわけではない。一騎当千なのは分かる。だが、死霊と相性のいい神官がひとりというのは軍師としては不安だった。
「戦力不足というのか」
魔王が軍師に問う。
だが、神を崇拝していない魔界では、人間界から来た神官一人に頼らざるおえない。
「いかに、大量の死霊でも、山を一瞬で消し飛ばす光ならば、どうだ?」
「消し飛ばす? 肉片残さず焼きつくすような魔法でしょうか、それなら、充分有効かと」
軍師は人間の戦には詳しいが、死霊相手に戦をしたことはないが、いかに死霊でも肉片が残らなければ、消滅だろうということは分かる。
「ただ、魔法には詠唱時間など弱点もありますから」
「詠唱などない。竜の息吹だ」
「お兄様、お母様にも出陣していただくのですか?」
妹さんは兄の意図を理解した。
「勇者に色々意地悪したから、少しくらい働いてもらってもいいだろ。それに結婚に際して、人間界では両家の顔合わせというのがあるらしいので、この際、母上にも人間界に来てもらおう」
そうして、まず勇者に人狼、軍師、戦士と神官が魔法使いの転移魔法で一緒に人間界に向い、魔王と妹は、母親の光竜を引っ張り出しに回り道をして人間界に向かうことになった。
人狼が去った女帝の城には、虫のように死霊たちが城壁をよじ登り城内に侵入しようとしていた。
ガーゴイルの時のように空から侵入される恐れはないので、城内に侵入された死霊をなんとか撃退すると城門をしっかりと閉じ、城壁の上から矢を放って射落とす普通の攻城戦のような戦いが一晩中続いていた。だが、死霊は射落とされても、死ぬことはなく、しぶとく再び、城壁を這い上ろうとしていた。そして、朝方、固く閉じられた城門に、首と胴体を繋ぎ合わせて復活した魔界大公が近づき、強引に力技で、門をこじ開けようとしていた。
「がんばって、お父様」
その動く死体と化した魔界大公を怪しげなマントを羽織った美少女が応援していた。彼女は大公の娘であり、死霊使いであり、父の無念を晴らすため、死霊を蘇らせた張本人だった。魔王の妹さんが自分の邪眼に己の魔力を注いで石化を極めたように、彼女は自分の魔力を死霊を蘇らせることに特化させた死霊使いだった。
ガーゴイルに襲われたばかりで、城の連中は死霊の襲撃に動揺はしていなかった。死霊とはいえ、二本の足で地上から攻めて来るのである。皇帝の威厳優先の城でも、地上からの攻めに対しては比較的堅牢だった。最初に奇襲のように侵入してきた死霊以外、もう城壁は越えられないようだった。
軍師ならば、死霊のガーゴイルなど空飛ぶ魔物の死霊を用意して、空から侵入させて城門を開けさせて、死霊たちを一気に城内に乱入させて詰みにするが、そういう戦術とか考えず、死霊の数による力押しの攻めだった。
ゆえに城は持ちこたえて、転移魔法で一気に城に近付いた神官たちが、神の奇跡や上位の攻撃魔法で死霊たちを駆逐し始めた。月の女神を降臨させた神官は、その神々しい光で、死霊たちを次々と浄化した。軍師が指揮する必要もなく、神官の加護を受けた勇者や戦士が、その光を剣に宿して死霊を斬りまくった。
痛みを感じない、死なない死霊でも、魔法使いの上位の苦撃魔法で、一瞬で灰になり、人狼たちを石化から救った
神の光は、次々と死霊を浄化し地上から消し去った。
大公の娘は焦った。逃げようと決めたのは、魔界大公の動く死体が、勇者により、真っ二つにされて、浄化されたときだった。
無様な敗走だった。誰も追いかけない。死霊が多くて、それを駆除するのに忙しいのもあったが、彼女の逃げようとした先に朝日に照らされて金色に光る竜の巨体を見たからである。
「なんだい、もう終わりかい。せっかく魔界から出て来たのに」
光竜は残念そうにしながら、逃げようとした大公の娘の目の前で人の姿になって立ち塞がった。
逃げられない。彼女は、ペタンと座り込んで負けを認めるようにうなだれていた。
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