第11話人狼ガールフ族

竜の住む山へ向かって魔王城を発った。魔王様から、旅の資金や食料などを、気前よく出してもらった。妹さんの部下らしい巨漢のオーガが城門のところまで魔王と一緒に見送りに来て、ついてきたそうな顔をしたが、妹さんは、自分の留守をそのオーガに託して、女戦士たちと一緒に出発した。なにか乗り物を用意するかと魔王に聞かれたが、歩いて旅するのに慣れていた女戦士たちは断った。魔王の妹さんがいるのだから、豪華な馬車で移動すべきだったのかもしれないが、徒歩での旅を選んだ、妹さんも文句を言わずに、魔法使いたちと一緒に歩いた。

「奇麗ですね」

「はい?」

神官は歩きながら妹さんの顔をまじまじと見ていた。見られて妹さんも少し困った顔をしている。失礼だと分かっているが、神官は自分の好奇心を隠さなかった。

「いえ、あの、魔王陛下もそうですが、妹さんも随分奇麗な顔立ちだと思いまして、正直、他の魔族とかなり違いますね」

「ああ、彼らと比べて私たち兄妹は異質に見えるということですか」

「はい。私、神官職なもので、その、魔界の種族というものに興味がありまして、魔王という血族は、人間界の王族とは違う、何か特別な血統なのかと」

「魔王の起源が気になりますか?」

「はい。なにしろ、人間界では、魔界のことは知らないことが多いですから」

「では、魔界が、神々が汚れた醜いと蔑んだ者たちの捨て場だったということは,ご存じですか」

「ええ、神話で、人間界ではそう伝えられております」

「それを憐れんだ、神の一人が汚れた者たちと一緒に魔界に堕ち、その血が魔王の血族として残っていると言われています。はるか昔のことなので、本当かは分かりませんが、気になるのでしたら、叔母様方にお聞きになるのが、よろしいかと。古い竜は神と同じくらい長生きだそうですから」

「神話時代のことを教えてもらえると?」

「叔母さまたちの気分次第だと思いますが、魔界の歴史は私に聞くより、その方がいいでしょう。それと済みませんが」

妹さんが急に立ち止まって厳しい視線を女戦士に向けた。

「刀に指を掛けてずっと警戒しているようですが、私が、あなたたちを、襲うと?」

そう、女戦士は、城を出てから、いつでも居合で刀が抜けるように鍔に手をかけ歩いていた。しかも、一歩下がって、ばっさり斬れる間合いを歩いていたのを妹さんは気づいていた。

「あ、バレてた? いやいや、相当強そうに感じたもので、ついね」

女戦士は悪びれる様子もなく、そう言った。

「私が強い? 恥ずかしながら皆さんのお知り合いの勇者様、いえ、お義理姉さまに負けたんですよ。確かに、最初はお兄様に負けた人間のくせにと侮って、粋がったのですが、お義理姉さまには見事に打ちのめされまして。もう、人間を侮っているつもりはありませんが」

妹さんは肩をすくめて苦笑していた。魔界は実力主義の世界である。そして、強い相手は素直に尊敬するのも魔界だった。だから、魔法使いたちの前に現れたときおとなしかったのだ。

「勇者にしてやられたから、私たちも見下していない。尊敬しているから、大丈夫と思えと」

「そうなりますね」

「なら、こいつらは、あんたと関係ないって、ことでいいよな。出て来いよ、獣臭い殺気がダダ洩れだぜ」

女戦士が、周囲の茂みに向って叫ぶ。最初は妹さんを警戒して、刀に手を掛けていたが、城から離れて森に入ってからは、周りの殺気に向けて警戒していたのだ。そして、のっそりと真っ白な狼たちが牙を見せて姿を見せた。

「!」

魔法使いも慌てて杖を構える。二十匹ぐらいの群れだろうか。こっそり隠れて一斉に襲い掛かるつもりだったようだ。

「せっかく、お兄様が皆殺しを望んでいなかったので、見逃してやったのに、ノコノコ出てきたか愚かな者め・・・」

妹さんが、狼たちを見て苦笑いする。

「く、よくも、我らの族長を。仲間の仇、ここで取らせてもらう」

狼が言葉を喋ったことに魔法使いたちが驚いていると、カッと妹さんが取り囲んでいた狼たちをひと睨みした。すると、牙を見せて唸っていた狼たちが急に静かになり、気が付くと、すべて石の彫像になっていた。

「たく、お兄様に忠誠を誓えば、生きていられたものを」

妹さんは石化した狼を蹴って壊そうとした。

「やめなさい」

それを神官の鋭い声が止める。

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