第2話 "能力持ちの囚人"
「ここだ」
カイトは通常の収監場所から少し離れた場所にある牢屋に連れて来られた。
そこにはすでに十一人の囚人がいた。
「まず囚人番号二〇五一番」
牢屋がある部屋から出るための一つの扉に一番近い牢屋にいる囚人。
「サトーネ・ベルゼージュ、四十二歳、男。10年ぶりの運転で人を轢いて重症にさせてしまう。10年間引きこもりだったらしい。罪名は危険運転致死傷罪、能力は【引きこもり】」
黒く肩まであるボサボサの黒髪は、まだ生気が感じられた。目も光がある。
「よ、よろしくね…?」
サトーネはそう言ってぎこちなく笑った。
「次に囚人番号二〇五八番」
扉から離れるにつれて囚人番号が後の人になるらしい。番号がバラバラなのは多分能力持ちの囚人の途中途中に常人の囚人が収監されていったからだろう。
「アオハ・ユ・ゴルジュー、三十歳、女。百人以上の罪人を逃がす為に嘘をつき続けた。罪名は犯人隠避罪、能力は【善悪】」
薄い茶髪に焦げ茶色の目をした大人らしさが際立つ。
「よ、よろしくお願いしますっ!」
アオハは年上の人に挨拶しているように敬語を使う。
「囚人番号二〇六七番」
「ウラン・キントール・ザ・ベア、三十一歳、女。子供の頃強姦されてからその気持ち良さに負けて犯行に及んだ。気に入った男性を約6500人犯してきたという。罪名は不同意性交罪、能力は【誘惑】」
囚人服を着てもなお、彼女の周りには不思議な色気が漂っている。桃色のストレートな髪に紫色の目。ウランはカイトを見て舌舐めずりをした。
「可愛いね、私が気持ちよくしてあげよっか?」
その言葉にカイトは父親から受けた性暴力を思い出してしまい、フルフルと力無く首を横に振った。
(もう痛いことは…、嫌だ)
「……はぁ、ウラン・キントール・ザ・ベア。こいつにだけは手を出すなよ」
アルファはウランに圧をかけながら言った。
「あらら?アルファくんが優しい。その子に何かあるのかな〜?」
「それは後で説明する」
アルファはため息を付きながら次の牢屋へと移動した。
カイトもそれについていく。
「囚人番号二〇八二番」
「マナ・シファ、二十九歳、女。元々メイドだったが、メイドが面倒くさくなってその家にいる人を全員殺した。今まで誰かに仕えることが楽しみだったが、人を殺す方が楽しかったと証言している。罪名は殺人罪、能力は【支配】」
金髪のショートに灰色のキラキラとした目。
あと一年で三十代になるとは思えないほど子供のようだ。
それは内面も同じだった。
「よろしくネ〜!私、支配されるより支配するほうが好きなんだ!君もされてみる〜?」
「……間に合ってます」
カイトはそう呟いた。
両親に支配されてきたカイト。
支配される恐怖はもう味わいたくない。
「え〜?支配された事あるんだネェ〜?そっかそっか!もうご主人様がいるんダネ!」
ニコッと笑ったマナの目は、キラキラ輝いていた。
「もういない」
カイトは断言した。
マナはふぅ〜ん?と笑った。
「囚人番号二〇八三番」
「アカネ・イザベラ、二十七歳、女。爆弾を作成し、試そうとサバイバルグッズと3ヶ月分の食料を持って森の中に入った所、迷子になる。3年間森の中を
純白なショートストレートの髪と目。落ち着きがあり華があった。
「頭、良いの?」
「こいつは有名な高等学園の優等生と称えられるぐらいには知性がある」
「一緒に創作する?」
「…せっかく刑務所に来たのに頭使いたくない」
カイトはアルファに次に行こうと言った。
「囚人番号二一〇〇番」
「ジュラ・ナーガ、二十三歳、男。人の痛がる顔が好きだと言う。女のような顔で、目についた者を路地裏に連れ込み暴行。罪名は暴行罪、能力は【暴君】」
光沢のあるウルフの灰色の髪に紫色の目は、確かに女のようだ。
「よっろ〜!」
声も高かった。
凛々しい声で人々を誘惑する武器の一つなのだろう。
「囚人番号二一二三番」
「ガーナス・ヨット、二十五歳、男。相手の不幸を見ないと自傷行為をしてしまうという。生まれた時から"虐待,虐めを受けてきた"。罪名は75人あまりの人に結婚詐欺をし、詐欺罪となった。能力は【演技】」
アルファから出た虐待,虐めの言葉にカイトは思わずガーナスを見る。
光を一切通さない直毛の黒い目と髪。
カイトと同じだった。
ただ一つを除いては…。
「宜しく。てかお前、俺と同じで虐待されてたろ」
カイトのように張り付いた笑顔ではなく、純粋な笑顔。
カイトは思わず聞いてしまった。
「何でそんな純粋に笑えるんだよ…」
その問いにガーナスはフッと笑う。
「俺は今楽しく生きてるからだろうな。ここの刑務所、囚人も看守もちょ〜面白いの。毎日が楽しくて仕方ないほどにな」
(この人は、幸せという言葉を知っている。それは此処まで内面に差が出る理由としてもったいないくらいの理由だ)
カイトは少し嫉妬した。
自身もあんなふうになりたいと。純粋に笑ってみたいと。
「お前もここにいれば嫌でもあんなふうになる。気にするな」
アルファはカイトにそう言って次へ行った。
ガーナスを少し見つめてからアルファに続いた。
次の囚人は、今まで紹介された七人が収監される牢屋の向かい合わせの所にある牢屋の中で一番扉から遠い場所にいた。
「囚人番号二一四三番」
「チスイ・ドゥーネロ、二十二歳、男。血が大好きすぎて今まで50人以上の人の血を吸ってきたという。親に見捨てられてずっと動物の血を吸ってきたらしい。罪名は殺人未遂、能力は【吸血】」
囚人服の上からフード付きの上着を着て日光があまり当たらないようにされている。銀髪に赤い目をしていて、吸血パックを手に持っていた。
「…お前いい匂いする」
チスイが静かにカイトに言った。
「アルファ・ビッグバンと同じで強い奴だ。飲みたい。アルファ・ビッグバンは甘いと言うより濃厚で美味しかったけど、お前は甘い気がする」
カイトに近づくチスイだったが、
「そういうのは後にしてくれ」
アルファがすぐに引き離した。アルファはチスイに血を飲ませたことがあるらしい。
次は扉に近づくようにして牢屋を二つとばした。
「囚人番号二一六二番」
「テルー・ビジュン、十九歳、女。自分が楽しければ全てよし、人のものを壊すのが大好きだと証言している。罪名は十軒の家を放火したとされる現住建造物等放火罪、能力は【破壊】」
赤みがかった焦げ茶の髪にはっきりとしたピンクの目。髪はツインテールになっていてフワフワとしている。動くたびにジャラジャラと髪飾りが音をたてた。
「やっほ〜新入りくん!今日から宜しく!沢山物壊そうね〜!」
アルファはやめろ、と一言口にした。
「囚人番号二一九九番」
「メチュト・オバロン、十七歳、男。パンのためなら何でもして、パンを初めて食べた時から美味しすぎてパンしか食べていないらしい。罪名は強盗、能力は【依存】だ」
メチュトは銀髪のショートをハーフアップにしている。目は発光色のように黄色に光っていて、小太りしていた。それだけパンを食べ続けているのだろう。
「よろしく〜!」
そう言いながらメチュトはパンを食べる。
過度な依存症のようだ。
「そして囚人番号二二〇七」
「サラーギャ・ベラ・トゥワイス、一四歳だが、一三歳から犯行に及んでいて、その時は少年院にいたらしい。一日に三五〇回以上警察に迷惑電話。二年間ずっと暇すぎて迷惑電話を繰り返してきたという。罪名は合計二五五五〇〇回の迷惑電話をして公務執行妨害罪、能力は【続行】」
紫のような灰色のような髪と目。
「……」
一言も話さずにカイトを見つめた。
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