第31話『暴かれた真相(前編)』

 ダイナの初めての友達、ミナが遊びに来た日の翌朝。

 朝から森の家を尋ねてきたのは、マナの姉にして魔技研まぎけんの所長を務めるミィオだった。

 何でも彼女はソフィエル姫からの遣いとしてやってきたらしく、マナに急ぎ王宮まで来て欲しいとの事だ。

 そうしてマナは未だ眠っている子供たちの世話をデュオスへと任せると、ミィオと共に王宮へと急行するのであった。


「待たせたな、しては?」

「朝早くからごめんなさいね……実は──。」


 もはや密会場所と化した魔技研まぎけんの所長室にて、ソフィエルと合流したマナは挨拶もそこそこに状況の確認へと入る。

 どうやらここしばらくは大人しくしていたラギル王子が、また怪しい動きを見せ始めているとの事だった。

 そのため、ソフィエルはマナに再びラギルの調査を依頼したいようだ。


「ふむ……となるととの接触もあり得るか。」

「ええ、可能性は十分に……その毒薬のさえ手に入れば、随分と変わるのだけれど……。」


 相変わらずラギルから父リュケウス王へのは続いているものの、用心深い彼の徹底した証拠隠滅によって、ソフィエルは未だその尻尾を掴めないでいる。

 そうなるとやはり薬の現物を抑えるのが手っ取り早く、そのためにはラギル本人もしくは提供元であるエクデスを叩く必要があった。


「(現物を手に入れるにはやはり、しか無いか……。)」

「……入って良いかしらー?アタシの方から少し報告したい事があるのだけれど。」

「ええ、どうぞ。」


 現物を手に入れるための手段についてマナが考えていると、部屋の主であるミィオが外から扉を叩く音が響く。

 2人が密談をしている間に、彼女はまたの調査を進めていたようだ。


「で、どうじゃった?何か見つかったか!?」

「もう、アンタは人を使いっ走りさせておいて、お疲れ様の1つも無いわけ?まぁいいけど……単刀直入に言うわ。……よ。」


 戻ってくるなり食い気味に尋ねてくるマナに少し小言を漏らしながらも、ミィオは机の上に書類の束のような物を置く。

 それはいわゆる設計図と、それに関する研究過程を記したレポートだった。

 実はミィオはマナからの話を聞いて、あの時ラギルとエクデスが話していた何らかの開発計画に関する裏取り調査を行っていたのだ。


魔技研うちの研究員を秘密裏に何人か囲い込んで、裏でこそこそコレを作らせていたみたい。」

「ほう?して、コレは……。」

「……まさか、ですの?」


 深い溜め息を零しながら、設計図をばしばしと手の甲で叩くミィオに、マナとソフィエルはじっとその図面を凝視する。

 どうやらそれは大砲のような形を模した、何らかの兵器の類であるらしかった。

 つまりラギルはエクデスへの資金的支援の見返りとして、こうした兵器類の設計図を手に入れていたのだ。

 もちろんそれは、来たるべき他国との戦争のための物である。


「アタシも軽く目を通したんだけど……正直言ってありえないわ、こんな物。」

「だってあまりに──技術が進みすぎているんだもの。」


 魔技研まぎけんの所長であるミィオがはっきりとそう断言するほどのその兵器は、現代の戦争において用いられる兵器類とは一線を画すような破壊力と優位性を備えており、もし仮にこんな物が量産でもされれば他の国はあっという間に滅ぼされてしまいかねない程の、となりうる物であった。

 マナはその図面に目を落とすと、まじまじと読み始める。

 そしてすぐに、そこにとある既視感を覚えた。


「この兵器の……ここに使われている四角いのような物はもしや、この間お主から貰ったについていたのと同じ……?」

「え?……まぁ本当。確かによく似ている気がするわね。」

「何よ、つまりとでも言いたいわけ?」


 先日ソフィエルから前報酬として受け取った遺物アーティファクトにも、似たような謎の石が装着されていた事をマナは覚えていた。

 古代の遺跡などから稀に発見される遺物アーティファクトの中には、現代の魔法技術をも凌ぐような解析不能の技術が使われている事も珍しくなく、その殆どが再現不可能だとされている。

 そんな遺物アーティファクトと共通する特徴を持つこの兵器もまた、もしかすると遺物アーティファクトと同じ技術で作られている可能性があるのだ。


「技術が継承されている、という意味ではそうかもしれんな……しかし、その幻魔族の殆どは確かにあの時、殺されてしまった筈なのじゃが……。」

「でも、アンタのとこのもそうだし、その例のエクデスって幻魔族らしい男もいるし、案外別のとこでは生きてたんじゃない?」


 あの時エルフ達の使った毒によって滅んだはずの幻魔族が、種として存続できる程の数生き延びていたと考えるならば、今までダイナ以外にその目撃情報が全く無かったのは少し不自然だ。

 かといって大虐殺が行われた当時にエクデスの先祖となる幻魔族達が、遠く離れた他所の地に住んでいたのだと仮定した場合、同族とはいえ直接的には被害を受けていない筈の彼が、他種族全てを相手取るような大規模な復讐に走るのは、普通に考えれば動機として弱いように思われる。


「被害を受けたのならそもそも生きてはいない……受けていないのなら復讐する動機が無い……ふーむ。」

「(彼奴エクデス1人による凶行ならばともかくとして、話によれば少数精鋭とはいえ国を滅ぼせる程度の人数は居たはずじゃ……その全員が全員、彼奴と同じような復讐心を滾らせていたとも考えにくい、か……。)」


 考えれば考えるほどに不可解な点ばかりが出てきてしまって、幻魔族に関する謎は深まっていくばかりだ。

 もしこの謎を解く手がかりがあるとしたら、それはやはりあの円盤の遺物アーティファクトなのだが──。


「……所長さん、この設計図の兵器は今、どのくらいの完成度なんですの?」

「聞き取りをした限りでは7割ほど……内部構造の完全な再現に手間取っているようです。」

「でしたら、この四角い石の部分は既に?」

「ええ、擬似的な物ですがいくつかサンプルとして作られているみたいです。」

「──そうか。」


 図面をじっと見つめ続けていたソフィエルは、ふと気になったようにミィオへと問いかける。

 するとその会話を聞いていたマナが、何かを思いついたようにハッと顔を上げた。


「これはもしや……幻魔族らの用いるのパーツなのではないか?」

「共通規格?確かにアタシ達も良く使う構造のパーツはそのまま使いまわしたりするけど……楽だし。」

「……何アンタ?まさか円盤についてた石をこの兵器に使おうってんじゃ──。」

「たわけ!じゃ!」


 遺物アーティファクトの円盤にも見られた四角い石のようなパーツ。

 マナが持ち帰った物は既に破損してしまっており、もはやうんともすんとも言わなくなってしまったが、もしそれを新たに作られた擬似的なパーツと差し替えることができたら。

 不鮮明だった記録に隠された秘密を、もっと詳しく知ることが出来るのでは無いか、と彼女は考えたのだ。


「ワシは一度あの円盤を取りに帰る!お主はその間にこの四角い石のパーツを持ってまいれ!」

「わ、わかったわよ……でも──。」


 思いついたなら試さない手は無いと逸るマナはやや早口でミィオへとそう命令すると、何かを言いかけた彼女の言葉も聞かず、さっさと指を鳴らしその場を後にした。


「行っちゃったわ……アンタは王宮ここに直接飛べないから、街からまた歩く事になるんだけど。」


 ◆


 あれからしばらくして、円盤を持って魔技研まぎけんへとマナが戻って来る。

 そしてその隣には、何やら膝に手をついて激しく呼吸を乱しているデュオスの姿があった。

 どうやらマナはデュオスを連れて街まで戻ってきたは良いものの、また王宮まで歩かなければならない事に気がついて、恥ずかしさと時短を天秤にかけた結果、弟子に自分をおぶらせて全力で走らせるという手段を選んだようだ。


「何へばってるんじゃ、ほれ、さっさと行くぞ。」

「っはぁ……っはぁ……ま、待ってくださいよぉ師匠ぉ……。」


 他人に走らせて自分は汗一つかいていないマナは、へばるデュオスの尻を軽く叩くとさっさと建物内へと入っていってしまう。

 もちろん王宮ここが危険な場所と承知したうえでマナがデュオスを連れてきたのには、自分の代わりに走らせるためだけでは無かった。


「戻ったぞ。例の物は?」

「あら、案外早かったのね……って、ああ……。アンタのお望みの物はここにあるわ。」


 ノックも無しに所長室へと入っていくマナの後に続いて、まだ少し息が上がっているデュオスが入室する。

 そんな彼の様子を見れば何かを察したような顔をしながらも、ミィオはその掌の上に乗せられた3つの四角い石をマナへと見せた。


「ごめんなさいね、王宮へ直接行き来できるようにする許可は私の力ではどうにもできなくて……。(この方、誰かしら……。)」

「……。(誰だろうこの人……お姫様っぽい格好だけど……。)」

「仕方あるまい。あまり派手に動けばこちらの企てを悟られかねんからな。……さて、問題はここからじゃが。」

「……、……ん!」


 苦笑しながらデュオスへと会釈するソフィエルに、彼も会釈で返しながらすっとマナの隣へと立つ。

 マナは懐から例の円盤を取り出すと、はめ込まれた石の部分に指をひっかけカリカリと爪で外そうと試みるがやはりそう簡単に外れるわけも無く──短く唸りながら当然のようにデュオスへと押し付けた。


「えぇ……ここを外すんですよね?」

「壊すなよ。」

「わ、わかってますよぉ……。……あ、取れた。」


 圧をかけられながらもデュオスが石の部分を少し触ると、先程まで全く取れる気配の無かった石がいとも簡単にぽろりと取れる。

 それを見たマナは特に驚くでも無く、むしろ何か確証を得たように不敵に笑った。


「良し、では順番に試してみるか……まずはこれじゃ。」


 そう言ってマナはミィオの手から石を1つ取り、デュオスに持たせた円盤へとはめ込む。

 するとはめ込まれた石が一瞬青い光を放ったが、それだけだった。

 どうやら魔技研まぎけん職員達の腕を持ってしても、この謎の石を完全に再現する事は簡単なことでは無いらしい。

 結局そのまま続く2つ目の石も同じような結果で、マナの口からは小さなため息が漏れ出た。


「……最後。」

「何よその不満げな目は。仕方ないでしょう?そもそも技術体系が全然違うんだから、ある程度再現できただけでも感謝して欲しいくらいよ!」


 自らの預かり知らぬ所で作られた物とはいえ、所長として職員たちの腕を信頼しているミィオは不満げなマナに憤りながらも、最後の石を手渡す。

 もしこれで円盤を起動できなければ完全に手詰まりだ。

 そしてマナが最後の石を円盤へとはめ込む、が──。


「光ってはいますね……何も映し出されませんけど。」

「うむ……。」

「くっ、魔技研うちの技術力を持ってしてもダメなんて……!」

「……あら?」


 光こそすれど一向に何も映し出してくれない円盤に誰もが諦めかけた、その時。

 皆と一緒に円盤を覗き込んでいたソフィエルが何かに気がついたようで、そっと手を伸ばすと円盤の外周部分を回し始めたのだ。


「ごめんなさい?ここの部分、なんだか模様がズレてるみたいで気になってしまって──あら。」

「む……!?」


 外周部分が回され、やがてカチリという何かが噛み合ったような音がした瞬間、それまでだた光っているだけだった石の部分から、あの時のように空中へ向けて何かが投影され始めた為、マナは机の上へと円盤をそっと置く。

 その映像は前回に見た物と同じ物のようだったが、石を換えたおかげかより鮮明で乱れも少ないようだ。

 しかし肝心の音声部分は未だノイズが酷く、とても聞き取れる状態ではない。

 すると何かを思いついたのか、マナはデュオスを手招きして円盤へと触れるように指をさした。


「……?また石を取り外せば良いんです──?」

「──ッ!そのまま触っておれ!(やはり、は幻魔族か……。)」

「は、はい……!」


 何気なくデュオスが円盤へと手を触れた途端、それまでひどいノイズ混じりだった音声が急に聞き取り可能なレベルにまで鮮明となり、その映像の女性の物であろう声がはっきりと流れ始めた。

 だがその聞き馴染みのない言語に、マナはすぐに眉をひそめる事になる。

 折角手がかりになりそうな物が見つかったというのに、何を言っているのか全くわからないからだ。


「く……予想はしていたがやはりか、これでは──。」

「え?聞こえますよ……?」

「……なぬ?!」

「え?」

「あら?」

「……もしや──。」


 悔しそうな表情を浮かべるマナに、デュオスは不思議そうな顔をしてそう答える。

 もちろんその場にいる彼以外の者には聞き取れてなどおらず、各々困惑したような反応を示す中いち早く何かの可能性に気がついたマナは、すっと円盤に手で触れた。

 途端──。


「──そうか!どういう仕組みかはしらぬがこの円盤に触れると、この幻魔族の女の言っている事がワシらの言語にされたように聞こえるぞ!」

「何ですって!?アタシも──!」

「わ、わたくしも……!」


 つい先程まで何を言ってるのか全くわからなかった未知の言語が、今度は一転してスムーズに理解できるようになった事で、マナはその円盤の隠し機能とも言うべき効果を理解する。

 そんな彼女の言葉に驚いたミィオとソフィエルは、師弟と同じように円盤へと手を伸ばすが、やはり同じように映像の中の女性の言葉を理解できたらしく、目を見合わせて再び驚いた。


「……やはり記録はここまでか……ならば、今度は頭からもう一度行くぞ。」


 最初のソフィエルの円盤を回した動きを見て、再生終了後もう一度映像を見るには円盤外周を規定の位置まで必要がある事を理解したマナは、同じように外周を回して音が鳴るまで巻き戻す。

 そして今度は4人全員で円盤へ触れ、映像中の女性の言葉が理解できる状態で再び記録の再生を始めるのであった。

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