第49話「最後の選択」

ヴェロニカお姉さまが王宮を去ってから、数週間が経った。

リーフレット王国は混乱の収束を迎え、国王レイヴァンの指導のもと、家臣や貴族たちは再び安定を取り戻しつつあった。

だが——

ミリアの心は、何かが欠けているような感覚を抱えたままだった。

王宮の大広間、広大な庭園、格式高い会議室——

どこにいても、まるでポツンと穴が開いたような感覚が消えない。

「……私は、本当にこの道を選んでよかったの?」

そんな疑問が、頭をよぎる。


「ミリア、ここにいたのか。」

振り向くと、そこには兄姉たちが勢揃いしていた。

「どうしたんですか?みんなで。」

「お前が最近、業務に集中できていないと、使用人や家臣たちから聞いてな。」

「……みんな、私のことを……?」

「ああ、それで何に悩んでいるんだ?」

カイエン兄さまが優しく問いかける。

ミリアは少し目を伏せ、静かに答えた。

「……ヴェロニカお姉さまのことです。」

「そっか……。」

カロリーナ姉さまがポツリと呟く。

「ヴェロニカ姉さまは、あんなことがあって、王宮の皇女としての道を選ばなかった……。」

「でも、私は……もしかしたら、もっと早く気づいていたら何か対策ができたんじゃないかって……。」

その言葉を聞いた兄姉たちは、少しの沈黙の後、それぞれの想いを口にした。

「ヴェロニカ姉さまは……たぶん、どんなに早く気づいていたとしても、自分で決めた道を選んだと思う。」

「そうね……姉さまは強かった。自分の運命を受け入れて、一人で戦っていた。」

「だけど、ミリア、お前はお前なりにやるべきことをやったんだろう?お前まで自分を責めることはない。」

「……そうでしょうか。」

ミリアの迷いは、まだ消えなかった。


「お前たち、ここで何をしている?」

突然、大広間の入り口から国王レイヴァンと王妃エリゼが現れた。

「ミリアの相談ですよ。」

「ミリア、どうした?」

「……父上、母上。」

ミリアはゆっくりと顔を上げ、二人を見つめた。

「私……ヴェロニカお姉さまのことを考えていました。」

「そうか……。」

レイヴァン国王は静かに頷いた。

「ミリアよ、お前はこれからどう生きたい?」

「……え?」

「王宮の資金難は解決した。ヴェロニカの問題も終わった。もうお前は自由なんだ。」

「……自由?」

「そうだ。ミリア、お前の人生はお前自身のものだ。お前の好きな道を選べばいい。」

「でも……」

ミリアは言葉に詰まる。

「王宮に残れば、皇女としてこの国の未来を担うことができる。」

「街に戻れば、商人として自分の店を発展させていける。」

「どちらの道を選んでも、私たちはお前の決断を尊重する。」

エリゼ王妃も優しく微笑みながら言った。

「ミリア、あなたはあなたのままでいいのよ。」


ミリアは、悩んでいた。

「……私は……。」

ふと、脳裏に浮かんだのは——

商売に奮闘した日々

ギルドで仲間たちと共に過ごした時間

王宮での交渉や駆け引き

暁の塔のメンバーとのすれ違い

そして、ヴェロニカお姉さまのこと……。

(私には、帰ってくる場所が二つある。)

(この家族がいるリーフレット王国……。)

(そして、街にある……ミリア商店。)

「……でも、私はどちらかを選ばなければいけない。」

選ばなければ、前には進めない。

王族としての責務か——商人としての道か——

どちらを選んでも、もう後戻りはできない。

(ヴェロニカお姉さまは、自分の道を選んだ。)

(私も——私の道を選ばなければ。)

ミリアは静かに顔を上げた。

「——私の選択は、決まりました。」

王宮の静寂の中で、ミリアの声が響いた。

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