第14話「ギルド試験への決意」

あの闇の商店の事件が解決してからしばらく、ミリアはサクヤ商店で自分が考案した商品をギルドやお得意様へ納品する日々を送っていた。仕事は順調だったが、どこか心にぽっかりと空いた隙間があった。

(このまま、ただ商売だけを続けていていいのかな……?)

ふと思い出したのは、ギルド長からの言葉だった。

「ミリア、ギルド試験を受けてみないか?」

だが、ミリアはまだその答えを出せずにいた。そこで、相談相手として頼れる存在、ガレンに声をかけることにした。

「ガレンさん、今お時間いただけますか?」

「少しならいいぞ。どうした、ミリアさん?」


ミリアはギルド試験についての悩みを正直に打ち明けた。

「実は、あの事件の後にギルド長から試験を受けてみないかと提案されたんです。でも……正直、まだ決めかねていて。」

ガレンは少し考えてから静かに問いかけた。

「……で、ミリアさん自身はどうしたいんだ?」

ミリアは言葉に詰まった。自分でもはっきりと気持ちが分からなかった。

(仕事は順調。でも、冒険者としてはクエストを1つ受けただけ……。このまま“功績”だけでランクが上がっても、本当に自分の実力と言えるの?)

「やっぱり、迷っているんです。」

そんなミリアに、ガレンは優しく助言をした。

「なら、うちの従業員の中にギルド試験を受けたことがある奴がいる。直接話を聞いてみたらどうだ?」

「そうしてみます。」


ミリアはガレンに紹介された従業員の元へ向かった。その男は元冒険者で、かつて仲間と共に数々のクエストをこなしてきた経験者だった。

「すみません、少しお時間よろしいですか?」

「おお、ミリアさんか。どうしたんだ?」

「ギルド試験を受けるべきか悩んでいて……冒険者だった頃のお話を聞かせていただけませんか?」

男は少し黙った後、静かに語り始めた。

「俺は昔、パーティーを組んで冒険してた。ダンジョン攻略も何度もこなしてな。でも、ある日、ダンジョンの奥で物資不足のままボス戦に突入してしまった。パーティーリーダーが大怪我を負い、結果的にパーティーは解散……。リーダーも、もうこの世にはいない。」

ミリアは胸が締め付けられるような思いで耳を傾けた。

「でもな、あの経験があったからこそ、俺は今こうして商人として生きている。冒険も商売も、大切なのは“経験”だ。ミリアさんが悩むのは当然さ。でも……」

男は優しく微笑んだ。

「挑戦しなきゃ、見えない景色もある。」

ミリアは深く頷いた。


元冒険者の話を胸に、ミリアはギルドへ向かった。受付で尋ねる。

「あの、ギルド試験について伺いたいのですが。」

受付の職員はミリアの名前を確認し、丁寧に対応した。

「ミリア・サクヤ様ですね。功績を考慮して、ギルド試験を受ける資格は十分にあります。」

その時、ミリアの耳に冒険者たちの噂話が聞こえてきた。

「なあ、知ってるか?この前、難関試験を突破した奴がいるんだって!」

「マジかよ!商人としても冒険者としてもトップクラスじゃないか!」

(試験……。どんな内容なんだろう?)

受付に戻ると、職員が説明を続けた。

「試験は商人としての知識だけでなく、交渉力、トラブル対応力、そして危機管理能力も問われます。」

(ただの筆記試験じゃない……?)

ミリアは内心、戸惑いを感じた。自分は商人としての知識には自信がある。しかし、実践的な対応力にはまだ経験が浅い。

その時、ミリアは偶然、ギルド長が大商人との商談を行っている場面を目撃した。

「ギルドの推薦があれば、取引はさらに有利になります。君の実力なら問題ないはずだ。」

(……実力ある商人は、ギルドでも王国でも信頼され、大きな商談のチャンスを掴める。)


ミリアは拳を握りしめた。

(逃げていてはダメだ。私も、サクヤ商店をもっと大きくするために、成長しなくちゃ。)

ふっと深呼吸をして、ギルドの受付へと向かう。

「ギルドの試験、受けさせてください。」

受付の職員は微笑みながら頷いた。

「かしこまりました。試験は2~3週間後に開催されます。その時に再度、受付にお越しください。」

「分かりました。またその時に来ます。」

ギルドを後にするミリアの足取りは、これまでとは違って力強かった。

(私はもう迷わない。この試験が、私の新たな一歩になる。)

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