爛漫ろまんす!

平野ポタージュ

あたしは伝説の食材

第1話「祖母との約束」

それは、何千年も前の呪いと伝説──



古代中国に「美豚びとん」と呼ばれる伝説の食材が存在していた。

それを食した人間は不死身となり、永久に美しい姿でいられると……一種の呪いとして語り継がれていた



「ええか、神美かみ───お前は絶対に"でぶぅ"になったらあかんぜよ。」


幼き頃に聞かされた祖母の昔話は、神美かみの食欲を唆るだけでしかなかったのだ。

夕暮れ時の縁側で必ず、神美かみの祖母・リン子は伝説と呪いの食材について語った。

その話を聞く度に神美かみの口から出た言葉は


「おなかすいたあ」


「おめぇはどうしてそう食い意地がはっとるんじゃき。野菜を食え!そしてササミを食べろ」


「いやだいやだ!!油ギトギトの唐揚げが食べたいよ!」


「そんなもん食っとったら豚になって養豚場に連れて行かれるべ。」


「豚さん好きだからいいもん!」


「阿呆、殺されるぞ」


「ばあちゃん口悪いよー涙」


この頃の神美かみは、既にまん丸ぷっくりモチモチ体型であった。頬を膨らます……既に膨らんでいる、少しむくれた表情を浮かべている愛おしい孫を、優しくリン子は抱き締めた。


「ばあちゃんな、神美かみには幸せになって欲しいんだ…。世界で一番…な」


神美かみもね、ばあちゃんに世界一幸せになってほしいよ!」


「そうか…───だったら痩せろ」


「がーん!!」


神美かみ────絶対生きろよ…」


「ばあちゃんも生きてね」



その時のあたしは、おばあちゃんがどんな思いで、忠告をしていてくれたかなんて分からなくて───



「まさか…リン子さんが亡くなるなんて」


を護ろうとして…らしいわよ」


「情が湧いたとか?」


「あの人も馬鹿よねぇ…」



葬儀場でヒソヒソと話す親戚の人達は、哀れみながら手を合わせる。


「ばあ…ちゃん?」


棺の中のおばあちゃんはまるで眠っているようだった。


《ええか神美かみ、生きろ───絶対生き抜け》


最後に聴いた祖母の声が耳から離れない。


「ばあちゃん、あたしは生きるよ…──だから、目を開けて?…ばあ、ちゃん…」


「大丈夫よ…神美かみ


お母さんが優しくあたしを抱き寄せる。

だけど、何故か違和感があった。


「大丈夫…───"17歳になったら"、また……逢えるわ」


震える神美かみの母は声を押し殺しながら泣いていた────のではなく、笑っていた。

しかし幼き神美かみは、それに気付く事さえも出来ないまま、そのまま母の腕の中で眠ってしまった。

一瞬感じた違和感でさえ忘れて……

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