第6話 予期せぬ再会

夕暮れ時の図書館。木製の机に向かって、俺は魔法の基礎理論書を読み進めていた。周りには他にも数人の学生らしき人々が、真剣な面持ちで本を読んでいる。


(なるほど、魔法陣は属性と効果の関係性で構成されているのか)


理論書には、魔法陣の基本的な構造が詳しく書かれていた。まるでプログラミング言語の文法を学ぶような感覚だ。ふと、懐からガルスにもらったファイアボールの魔法陣を取り出してみる。


「試してみるか……」


魔法陣に意識を向けると、前よりも多くの情報がウィンドウに表示された。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

魔法:ファイアボール

属性:火

効果:炎の球体を放出し、対象に炎属性ダメージを与える

構成:炎生成(50%)、凝縮(30%)、放出(20%)

追加可能効果:

・爆発範囲の調整

・軌道制御

・持続時間の設定

消費魔力:5

―――――――――――――――――――――――――――――――――


(おお、改変できる項目が増えてる!これは面白そうだ)


興奮で思わず声が出そうになるのを抑える。他の魔法陣も研究してみたくなり、通りで見かけた魔法具店のことを思い出した。


「よし、行ってみ……って」


財布の中身を確認して、現実に引き戻される。ガルスからもらった路銀は、銀貨20枚ほど。魔法陣どころか生活費だけでも長くはもたないだろう。


「はぁ……」


大きなため息が漏れる。


(そうだよな、まずは生活基盤を整えないと)


本を元の場所に戻し、図書館を後にする。空はすっかり茜色に染まっていた。


「とりあえず今日は、ガルスが教えてくれた『銀の月亭』に泊まろう」


宿に向かう道すがら、明日からのことを考える。このまま図書館通いを続けるには、定期的な収入源が必要だ。ガルスにまた頼るのは申し訳ないし、自立しなければ。


「そうだ、冒険者ギルドってのがあるって言ってたな」


宿に着き、夕食を取りながら、明日の計画を練る。


翌朝。早めに目を覚まし、冒険者ギルドを訪れた。建物は街の中心からやや外れた場所にあり、朝早くから多くの冒険者たちで賑わっていた。


「あの、冒険者登録したいんですが」


受付で声をかけると、中年の女性職員が対応してくれた。


「はい、登録料は銀貨三枚です。基本情報と、使用できる武器や魔法の種類を教えてください」


「えっと、魔法は火属性で……」


慣れない手続きに少し手間取りながらも、なんとか登録を済ませる。


「では、これがギルドカードです。依頼は掲示板から選んでください」


光る結晶のような素材でできたカードを受け取り、掲示板の前に立つ。


(うーん、初心者向けっぽいのは……あった)


『森のゴブリン討伐と薬草採取』

 報酬:銀貨3枚

 危険度:F(初心者向け)

 内容:街近郊の森でのゴブリン3体の討伐と、赤花薬草10本の採取


「これなら、なんとかなりそうだ」


受付で依頼を受注し、早速森へと向かう。


「ファイアボール!」


3体目のゴブリンを倒し終えると、額から汗が流れる。魔力の消費にもだいぶ慣れてきた。


「さて、次は薬草か……」


依頼書に描かれた赤い花の絵を見ながら、森の中を探索する。しかし、1時間探しても見つからない。


(もう少し奥に行ってみるか……)


森の奥へと進んでいくと、突然、女性の悲鳴が聞こえた。


「誰か、助けて!」


(この声は……リリア!?)


咄嗟に声のする方向へ走り出す。木々を抜けた先の小さな空き地。そこにいたのは、壁のように立ちはだかる巨大な緑色の人型モンスターと、杖を構えるリリアの姿だった。


オーガ――ガルスから聞いた話では、ゴブリンとは比べ物にならない危険な魔物だ。


「くっ……!」


リリアの杖から放たれた氷の矢が、オーガの皮膚に弾かれる。


(このままじゃマズイ!でも、ただファイアボールじゃ太刀打ちできないかも……待てよ、さっきの改変を使えば!)


俺は急いで魔法陣を取り出した。時間との勝負。ウィンドウで素早く数値を変更し始めた。

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