第37話 謁見……あれ?

「あなたたち、まさかそのまま普段着で行くつもりじゃないでしょうね?」


 謁見当日、集合場所でシフォンに捕まった。

 ロリエーンちゃん共々、ドレスに着替えさせられる。請求書は後で来るらしい。

 冒険者の正装は、装備一式だよね?

 と思ってたら、顔に出たみたい。


「あなたは冒険者じゃなくて、錬金術師でしょ?」


 と睨まれた。私はともかく、ロリエーンちゃんはとばっちり?

 同様の不安で送り出されたのか、ディアーネさんも男装に近い正装をさせられてて、ご愁傷さまと手を合わせておいた。

 こういう時に、神官服のフレイアさんは良いなぁ。

 胸の大きすぎる出っ張りから布が垂れていて、妊婦さんみたいに見えるけど……。


 謁見の間には、初めて入った。

 大概こういうイベントは、ネットユーザーのゴールデンタイムである、午後十時頃に行われる。それは私の消灯時間後だもん。

 私を狙ったような時間に、行われる方が珍しい。

 ずらりと衛兵さんに囲まれながら膝を尽き、レッドカーペットに目線を落として頭を垂れる。

 許されて視線を上げると、王族大集合だ。

 中央に老いた感じだが、目付きの鋭い王様。

 右隣にふくよかなドレス姿の老女、たぶん王妃様。

 左隣に、精悍な偉丈夫……たぶん、次期王の王子様。

 王妃様の隣りに、やっと知った顔のカリア姫。

 知った顔と言うか、よく見る顔。モデルは夏姫ちゃんな、黒髪が惜しいけど黒ギャルっぽい見た目のNPCさんだ。

 つまりは、私と同じ顔の2Pカラー。


「うぬらが、魔族領を探索してきたという冒険者たちであるな。まずは見聞きした内容を、改めて報告してもらおう」


 豪華な椅子に腰掛けた、王族たち。でも、直接口を利いて良い立場ではないと、王に寄り添う大臣が代わりに私達に命ずる。

 報告担当はフレイアさん。

 自慢じゃあないけど、妖精キャラは身体が小さい分、声も小さい。更に、リアルで人と話す機会の少ない私は、それ以上に声が小さいと言われる。

 生命力のか細い、無菌室の生き物だからね。

 しかも、人見知りの内弁慶だと自覚してるもん。

 説得力と社会的信用のある、聖職者の彼女に任せる方が自然。

 映像を提出できると早いのだけど、この世界にMP4ファイルを再生できるソフトも、機材もない。……今度作れるか、試してみよう。


「……以上です」


 報告を聞くと、やはり皆、頭を抱えてしまう。

 大きな声では言えないけど、やはり人族を除けば、完璧なサイクルで回っているとしか思えない。

 重苦しい沈黙の中、澄んだ声が通った。


「不作法ですが、直接発言をしてよろしいでしょうか?」


 今日はシルクの長手袋をして、お姫様らしくしていたカリア姫が挙手。侍従たちがざわついたけど、王様が頷くとそれも収まる。

 可愛らしく、カリア姫が首を傾げた。


「あの……本当に完璧なサイクルとなるのでしょうか?」


 たぶんみんなは、姫の発言に驚いたと思う。

 でも私は、その声・・・に、むぅ? とロックさんよろしく、右眉を持ち上げた。

 他の人は欺けても、この私は欺けないよ!

 姫様、あなた今NPCじゃないでしょ!

 言いたい。言いたいけど、世界観を壊すから言えない。

 ゴールデン・ウィークで旅行者が多く、映画の野外ロケはできないから、この時期は都内でスタジオ仕事だよ。

 なんて言ってたけど、どこのスタジオでお仕事してるのよ、夏姫ちゃん。


「皆さまの協力もございまして、今、人族の街は対飛竜武器が揃えられていて、容易く狩り場にはされないでしょう? 今までは人族と、魔族。どちらの領地も狩り場としていた飛竜の狩り場は、半分以下になりませんか?」

「……確かに。狩り放題だった人族の街が固められれば、ゴブリン集落と、オーク集落しか狩り場がなくなるな」

「ですよね? そうなった時に、飛竜の食事量と下級魔族の繁殖量とのバランスは、取れるのでしょうか?」


 再び、沈思。

 王様も、王子様も大臣も……私達でさえ、考え込んでしまう。

 私たちも『町』と言わず、『集落』と表現したオークたちの棲み家。人族の捕食が叶わなくなった時に、あの集落で飛竜たちの食を維持できるとは……思えない。言われてみれば、その通りだ。


「だが、その場合は竜人とやらが、その分の飛竜を間引くのでは?」

「竜人と申す魔族も、飛竜たちの後ろにいる成竜レッサー・ドラゴンを恐れているのでしょう? 数を間引く目的があったにしても、それは成竜の怒りを買わない程度に抑えているのではないでしょうか?」


 兄である王子様の疑問にも、まるで台本があるように(笑)明快に答えていくカリア姫。

 そうだよ!

 一見、魔族内で完璧なサイクルができているように思えるんだけど、そこには「人族を襲いつつ」の一言が隠れていたんだ。

 そして、人族は魔族のように、一つの街を狩り場として、飛竜に差し出すようなことはしない。

 人族が徹底抗戦を決めると、魔族のシステムは崩壊するんだ。

 きっと、それが私達の掴めなかった最後のピース。

 わざわざ、夏姫ちゃんまで引っ張り出しての助け舟、ありがとう運営さん。


 フレイアさんに合図して、少し私達で打ち合わせをさせて下さいと、申告してもらう。

 もちろん、拒まれるはずがない。

 失礼にならないよう、謁見の間の隅を借りて、円陣を組もう。


「どうやら、運営の助け舟イベントみたいだな?」


 苦笑いするロックさんに、みんなで頷く。

 ただ、私だけはロックさん、ルフィーアさん、シフォン相手にちょっと顔芸。

 今日は私の事情を知らない人が多いから、直接口に出せないのよ。


(今日のお姫様は、NPCじゃなくて夏姫ちゃんだよ!)


 顔芸だけじゃ伝わらなくて、ジェスチャーゲームになる。

 シトリンは、怪しい踊りを踊った。


「だが、姫様の言葉をどこまで信じて……」

「全面的に信じるべきでしょ? これがお助けイベントなら、カリア姫の言葉は運営さんの言葉よ?」


 ロックさんには伝わらなかったけど、シフォンは察してくれたみたい。ありがとう友よ!

 ちょっとずるいけど、中身が夏姫ちゃんだと解っていると、言葉の信憑度がぐんと跳ね上がる。

 わざわざ用意してくれた、リアルタイムイベントなのだから。


「確かに、あのオーク集落にゴブリン集落を加えたくらいでは、飛竜の日々の食事には足りないか。言葉だけだと、つい竜人の言うことが正しく思えちゃうけど」

「人族とのメンタリティの違いを忘れていたぜ。俺たちは、どこかの街を狩り場として差し出すなんてできるものか。連中の言葉は、それ前提だったんだな」

「シトリンさんは、別の理由で確信しているみたいだけど……」


 きゅうさんの呟きと、ロックさんの相槌。フレイアさんのクスクス笑い。

 私の仕草の怪しさ、バレてる。


「うん、お姫様の声の感じがNPCの合成音声っぽくないから」


 とりあえず、そう言っておく。誤魔化せたかな?

 大人な美人さんは、それ以上追求しないでくれた。


「姫様の話を全面的に信じるとなると、話は変わる。邪魔なのは、人族ではなく飛竜」

「飛竜を排除……できるのかよ?」


 ルフィーアさんの結論に、ディアーネさんが顔を顰める。空から来る敵には、盾役は機能しづらいものね。


「飛竜だけじゃないよ! その後ろに成竜レッサードラゴンもいるんだから」

「正月のイベントを思い出すぜ……」


 ロリエーンちゃんの忠告に、ロックさんはニヤニヤしながら私を見る。

 他人の黒歴史を、ほじくり返さないでよ。

 あの時は二足歩行の、ドラゴンと言うよりは怪獣に近い相手だったから……。

 開き・・にしちゃったのは、思わぬ失敗だけどさ。

 今度の相手は、空を飛ぶ本格派(?)のドラゴンだから、一筋縄ではいかないよ。

 ひとつのクランでも勝てない。

 全クラン大集合で、ドラゴン・レイド再び?


「待て待て、お前ら。ドラゴンを引っ張り出す前に、飛竜を攻略できるかが先だろう? あの高山に登りつつ、相手の土俵で戦わなきゃならないんだ。飛竜に通用する対空部隊は、どれだけいるんだよ?」


 一足飛びになるみんなを、ロックさんが現実に引き戻した。

 高く険しい山に登るとなると、『神聖騎士団』自慢の重機関銃は持ち出せない。フレイアさんも頭を抱えてしまう。


「クランひとつ、無力になるか……」

「ロックさん、あなたも同じでしょ? ハンマーじゃ飛竜は叩けないわよ?」


 つい、無気になって反論するフレイアさんに、ロックさんは得意げに右眉を吊り上げる。


「ウチには、妖精さんがついているからな」

「え? 今度は何を考えたの?」


 みんなの視線が私に集中したらしいけど、その時、私は別のことを考えていて気が付かなかった。


(飛竜って、一体どれくらいの数がいるんだろう?)

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