第34話 魔族の理(ことわり)
「なぜ、人族がこんな場所にいる?」
竜人の……恐らくリーダーであろう男が、よく通る低いバリトンで尋ねる。
威圧も、怒りも感じない。
純粋な興味?
こちらのリーダーは、たぶん私だ。
仕方ない、答えよう。
「魔族というものに出会ったことがないので、どういう存在なのかを確かめに来ました。飛竜の迎撃に手を出してしまったのは、たぶん……正義感か、義侠心です」
「その人数で、飛竜を二頭屠ったか。前回、人族の街を襲った時、飛竜は三頭も数を減らしたという情報があったが……真のようだな」
竜人の年齢的なものは知らないけど、ナイスミドルな感じの細マッチョ。ちなみに裸ではなく、赤いチュニックと、ゆったりした黒いパンツを穿いている。
腰に長剣を刺しているけど、鎧がいらないっていうことは、皮膚が強いのかも。
炎の色の長い髪を、後ろで括っている。
人族の街での攻防戦の情報を、どこで手に入れたのかは気になる。
少しはぐらかせて、情報を得たい所。
「飛竜の数を把握しているんですか? えーと……どちら様?」
「第二騎士団長を務めるジマドールだ」
「人族の錬金術師、妖精のシトリンです」
「なる程、人族の武器の開発は急激に進んでいるようだ」
おっと!
魔導ライフルを持ったままだった。
しっかり見られちゃったね。
その様子では、戦闘そのものを見ていなかったのかな? 見た目は変だが、武器っぽい。そう思っても、使い方までわからないのか、首を捻っている。
戦闘意思はないと、持ち物欄にしまっておこう。
「飛竜の数は、常に把握している。増え過ぎれば、間引かねばならぬからな」
「それが、竜人の役割ですか?」
「
「増え過ぎては、まずい?」
「個体数が増えれば、必要とする食料も増える。ゴブリンや、オークの繁殖数を超えてしまうと、種が滅んでしまう。当然だろう」
意外に、話に乗ってくれる人だ。
納得できてしまうけど、ちょっと聞き流せない言葉が混じってる。
「その言い方だと、オークやゴブリンは食べられても良いと思っていますか?」
「オークやゴブリンの繁殖力は高い。間引かぬことには、縄張り争いが起きる。魔族間の争いの種は除去するに限る」
至極簡単に言ってくれる。
そんなに簡単に、割り切れるものなの?
オーク集落のほのぼのとした光景を見て、義侠心を擽られてしまった私達としては……。
「なぜ、そんな目をする? 人族にとって魔族は敵ではないのか?」
「……私達は、それを確かめに来たのです」
ジマドールは、私の反応を明らかに面白がっている。
人族としては、正しくない考えなのかも知れないけど、あんな虐殺を見せられては、心が動くと思うんだけど?
「オークやゴブリンは、年に四度の繁殖期が有る。放っておけば、縄張りのキャパシティなど、すぐに超えてしまう。飛竜の腹を満たす餌場として、我らとしても都合が良い」
「同じ魔族なのに?」
「では、何を食わせる? 飛竜が、食用として生き物を狩るのは、本能だ。餌場を限定した方が、対処もしやすくなる。食われたくなければ、人族のように自衛すれば良い。狩られる者に甘んじたくなければ」
そうなんだけど!
言う通りなんだけど、そんなに割り切ってしまえるものなの?
言い返したいのだけど、正論過ぎてしまって言い返せない。
頭から、煙が出そうだよ……。そんなに、頭は良くないんだから。
シフォンが、助け舟を出してくれる。
「それで、よくオークやゴブリンが従っているわね。竜人は彼らに、何をして差し上げてるのかしら?」
「狩られ過ぎぬよう、機を見計らって、こうして止めに入る。今回は……想定以上に残っているようだ」
「飛竜たちは、貴方がたと戦わないのかしら?」
「互いに消耗するだけだと、解っているのだろう。そうなってしまっては、最後には互いの守護をする
兄弟喧嘩、駄目ッ……絶対!
私だって、夏姫ちゃんに殴られた頬は、本当に痛かったし、悲しかったんだから。
それに、成竜同士が本気で争ったり、この島も無事で済まない。はた迷惑過ぎる。
「もうひとつだけ、お伺いさせていただけます? ……貴方がた竜人にとって、私たち人族はどういう存在なのかしら?」
うわっ。シフォンってば、ズバリと訊いてしまうんだ。
機嫌を損ねるかと思ったけれど、竜人の赤い瞳はまだ、興味の光を保ったままだ。
「相容れぬ存在。だが、互いの領分を守っている限りは、警戒こそしても干渉すべき相手ではない」
「大陸の方では、魔族からの侵略戦争も度々起こっているようですけど?」
「他所の土地のことは知らぬ。飛竜のような存在がおらぬ為、増えすぎているのだろう。繁殖力が強ければ、土地を得るか、淘汰されるのが自然の流れではないか?」
「仰る通りですわね。……ありがとうございます」
って、下がっちゃわないでよ、シフォン。
何を尋ねるべきかと悩んでいる間に、配下らしい竜人たちが集まって来る。
その数は、十二人。
髪や肌、衣装の色は個々で統一感が有る。
何かのアイデンティティ?
雷竜とか炎竜とかで、色にポリシーが有るのかな?
なんて、呑気に観察している場合じゃないか。
数でも負けてるし、個々の力でも敵いそうにない。
その上こちらは、飛竜戦で満身創痍の状態。
きゅうさんの薬も尽きて、長く戦える力なんて残っていないよ……。
「身構なくても良い、妖精よ。敵対する気が無い者に、力を振るおうとは思わぬ」
「信じて、良いのでしょうか?」
「オークたちや、念話で墓守の爺からも助命嘆願が来ている。それに、爺の試練を超えるほどの相手とは、事を交えたいとは思わぬ。魔族の
試練も超えておくものだね。
強さの目安になるとは……。満身創痍なのは黙っていよう。
それに、救援の恩義を感じてくれるなんて、オークって意外と良いヤツ?
「然るに、妖精よ。お前の目に、我らを含む魔族はどう映った?」
逆に訊かれて、驚く。
ドラゴンも知性の存在だっけ。滅多に話す機会のない人族に、好奇心を惹かれたのかも知れない。
そう訊かれても、正直な所……。
「魔族には魔族の理があって、それに準じて物事を考えているという事は理解しました。他の事は、急過ぎて……まだ考えがまとまっていません」
「では、人族の理の違いは、どこに有ると感じた?」
「魔族さんは、種族を分けて一緒には暮らせない。人族は、ご覧の通り……」
私は、仲間たちを振り返る。
妖精、人間、ドワーフ……ついでに燕さん。
中の人は同じ人間にしても、種族に関係なく一緒に暮らしている。
一番大きな違いだと思う。
「そこに、魔族も含まれると思うか?」
「解りません。……人族も考えは、人それぞれですから。『魔族討つべし!』と考える人もいれば、私のように、会って確かめたいと思う人もいます」
「正直だな。……だが、もう目的は果たしたろう。人族の領域へ帰るが良い。無益に魔族領を刺激して欲しくはない」
話は終わったと、背を向ける。
竜人たちは、次々と被膜の翼を広げて、夕空へ飛び去っていった。
「まいったな、こりゃあ……」
ロックさんの呟きが、私達の困惑を表している。
竜人の騎士団に見逃され、オークの集落からは感謝で手を振られながら、私達は歩み始める。
思っても見なかったもやもやを抱えて、人族の領域へ戻るために。
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