第10話 欲求不満に魔剣をどうぞ
夏姫ちゃん似のお姫様は、カリア姫というらしい。
とりあえず、この街の中心である神殿に宿を取り、滞在するそうな。……っていうか。
「ロックさん、やっぱりこの島にも、他の町があるんだね」
「しかも、ここが最大の街じゃないみたいだな」
こんな形でそれが解るなんて、ちょっと攻略班!
間違いなく、運営さんのテコ入れだろう。
「すみません、ここで失礼します」
「だよね、話し合いが必要だもん」
フレイアさんが踵を返して、ギルドハウスに急ぐ。
攻略部隊を率いる人には、緊急事態だものね。
我らが『雷炎の傭兵団』は……エクレールさんも、ルフィーアさんも今日はログインしてないや。私が書くと緊張感がなくなるから、ロックさんに状況説明のメールを入れてもらおう。
運営さんの煽りは効果覿面らしく、ギルド、個人問わずに、各プレイヤーの動きが慌ただしくなってきた。これなら私への攻略依頼は、予想通りに解除されるでしょ。
「まあ……俺達支援組は、慌てることもないけどな」
「ロックさんの所には、武器強化の依頼が増えるんじゃない? この間の飛竜っぽいのとか、結構強かったから」
「ウチの武器は、空飛んでる相手には辛いけどな。……属性が解れば、属性強化や魔法陣追加の依頼は増えるか……」
「……物足りなそうだね?」
「誰かの癖がうつったのかな……。同じようなものばかり作るのは、退屈だ」
「魔剣でも打つ? 久し振りに」
「んなもの……誰に持たすんだよ」
「ロックさんの欲求不満対策だもん。エクレールさんに預けて、誰かに渡してもらえば?」
「お前、密かに根に持ってるだろ? 攻略依頼について」
「知りませーん。ハンマーは後で届けさせるよ」
それだけ言って分かれる。
どっちかといえば、忙しくなるのは私の方だもん。この間の飛竜をどうにかするにも、対空武器が弱すぎる。それは、どちらかと言うと私の仕事。
銃の強化の前に、プレイヤー数が多くて、高レベルな人の多い弓と矢のパワーアップをするべきかも。
お店に戻って、地下で働くお手伝い妖精のトロワに【ゴブリン退治のハンマー】の製作依頼をして、できたらロックさんの所へ届けてもらおう。火を除く、各属性の初級魔法陣でいいや。エクレールさんが気を悪くするといけないから、彼女用に炎属性は上級魔法陣を乗せてもらおう。そろそろ、パワーアップしても良い頃のはず。
問題は、ロックさんが打てるかどうか……駄目なら、笑ってやる。
「急にスクロールの依頼が増えたんですけど、何かあったんですか?」
ようやくログインしてきたリコちゃんが、目を回している。
リコちゃん製スクロールは、結構人気だったりする。最年少女子プレイヤー(可愛い)手書きのスクロールという、付加価値が付いてるからなぁ。
リコちゃんアクスタとかのグッズ販売には、まだ手を染める気は無いよ。
状況を説明したら、なんだか気合が入ってる。あまり、危ないことはして欲しくないのに……。
こんな事を言ってるから、過保護と言われるのかな?
「まあ、頑張って」と激励して、自室に戻った。
ふわっと飛んで、ぽてんとベッドに落ちる。
色々考えなきゃいけないねぇ……。
とはいえ、すぐにポンッとアイデアが出るはずもなく。
その日は、ぼんやりしながらゲームを終えた。
私がいない間の方が、プレイヤーが集まりやすい分、ゲームは動く。
ゲーマーたちのゴールデンタイムとも言える、昨夜10時。夏姫ちゃんのそっくりさん、カリア姫はプレイヤーたちに語りかけたのだそうな。
「冒険者たちよ、ルーディヴ城下へ集え」
初めて島の南部の地図が示され、北部が魔族の、中央山地が飛竜たちの領土となっていると言う。
飛竜たちの狩り場になっているのは、魔族の町も同様らしい。
グリュウの街から更に南東に移動した場所に、ルーディヴ城があると。人族はそこを起点に、魔族や、飛竜たちとの攻防戦を続けているそうな。
その戦力として、プレイヤーにも協力をお願いしたいと言う。
可憐な美少女姫にそう訴えられて、男子の多いプレイヤーは、すっかりその気になっているようだ。
私は、もちろん又聞きです。
大量に魔剣を打って、ほとんど自前の魔力を失い、げっそりしたロックさんが教えてくれた。
エクレールさん用の上位魔剣は、失敗することなく鍛え切ったそうな。
からかえなくて残念だけど、さすがロックさんというところか。
上位魔剣を受け取ったエクレールさんは、喜び半分。あと半分は、残りの魔剣たちを誰に渡すかという悩みに埋められている。
「それで、『雷炎』としては、どうするんですか?」
「もちろん、ルーディヴ城へ向かいます。運営さんの期待に応えませんと」
私の問いに、悪戯っぽくエクレールさん。
メタ発言だけど、まさにそれが真実でしょう。MMORPGを作り上げていくのは、プレイヤーだけじゃない。運営さんのサポートが上手くなければ、シラケてしまう。
臆病になりすぎているプレイヤーたちの尻を叩こうと、運営さんが動いたのなら、それに応えるのがプレイヤーというもの。……特に私関連で、運営さんにはお世話になっていますから。
「そのパーティー選択でも頭が痛いのに、更に魔剣まで託されるとは思いませんでしたが……」
「戦力アップは必須だろう?」
「ありがたく受け取らせていただきますが……他のギルドからの風当たりを考えると」
「え? まだ、魔剣を打てないの?」
思わず、声を上げてしまう。
私とロックさんが、初めて魔剣を打ったのはずいぶん前の事だよ? それに魔剣製作のレシピは、結構なお値段で情報を流したはずなのに。
「細工師技能は足りているのですが、鍛冶……というか製鉄の技能が足りないようで。魔法陣を乗せられる品質の剣が打てないようです」
「シトリンとロックさんの組み合わせを、しっかりキープした、エクレールさんの慧眼に恐れ入るわ」
芝居がかった仕草で肩を竦めるシフォンに、誰も納得だろう。
私も、ロックさんがいてくれるからこそ、構想を形にできているのだから。
とはいえ……だったらさ。
「他のギルドでも、魔剣に見合うプレイヤーが居るなら、提供しちゃえば?」
「お前なぁ!」
目を剥いて怒られたけど、それが一番丸く収まるよね?
2秒ほどフリーズしていたけれど、それが解けたエクレールさんは、珍しく爆笑した。
「確かにそうです。……相手ギルドが快く受けてくれるなら、そうしましょう」
これで一件落着だね。
攻略班は、頑張ってモーディヴの城を目指して欲しい。私も頑張って、弓矢や銃を改良するから。
さあ帰ろうとした私を、ルフィーアさんが呼び止めた。
「シトリンたちには、もう一つお願い」
「杖も作ります?」
「それは充分。杖は他でも作れるし、あとはプレイヤー技能次第」
「他に……何を?」
「これは、姫様からのお願い。優秀な技術者を、先に船で城に迎えたいって」
あの船に乗って、先にモーディヴに向かえって?
お姫様たちと一緒に?
びっくりしているのは私だけ、ペンネさんも、リコちゃんももう知ってたみたいだね。
はぁ……コーアンの町で、ヨナフイの薬草を買っておいて良かったよ。
船旅かぁ……。
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