第8話 舞台裏の風景

 早めにお風呂を済ませ、フワモコパジャマを着込んで、テーブルのノートパソコンの前に座る。

 チリ産スパークリングワインのお供は、あらかじめ盛り付けておいた各種のチーズたち。

 こんばんわ。VRMMOゲーム『ファンタジー・フロンティア・オンライン』のワールドデザイナー、泉原優香いずみはら ゆうかです。今日はプレイヤーたちが集まる大きな会議が予定されているとのことで、休日のプライベートな夜を犠牲にして、モニターするつもり。

 日曜の夜では、妖精さんは不参加だろうけどね。


『やっぱり、イズちゃんもモニターしに来るか』


 別窓で開いているSNSには、運営メンバーが揃ってる。

 中には、シフトの関係でオフィスからアクセスしている人もいるね。映像をオンにして、フルートを満たしたプラチナ色の泡立つワインを見せびらかしてやろうかと思ったけど、自分がすっぴんだと思い出した。……やめておこう。悪い事はできないものだ。


『プレイヤーたちが何に戸惑っているのかは、知っておきたいですから』

『今回は、前と違ってクレームが来ていない分、気楽じゃない?』

『その分、プレイヤーの声が上がって来ないという辺りが、ジレンマなんです』


 難解過ぎるとクレームが殺到し、私のか弱い胃に穴が空きかけた前回のストーリーイベント。

 妖精さんたちのパーティが見事にクリアしてくれたものだから、『難解でも一つ噛み合えば解ける』という、信頼がプレイヤーに生じてしまった。

 慎重に先を窺い過ぎて、なかなか先に進まない。

 自業自得なのだけどね。……少しはクレームも入れて欲しいのよ。

 何に悩んでいるのかが解らないと、誘導もできやしない。

 悪いことに、そのタイミングで定期イベントの『飛竜襲来』が発生してしまったから、なんだか催促イベントみたいに思われそうで、不安過ぎる。


『始まるみたいだな……』


 場所は中央広場。大手ギルドのリーダーたちが正面に立ち、ざわめくプレイヤーたちに向かい合ってる。会議の申請があったから、広場の会話ログをリーダーたちは自由にスクロールできるように設定してあるそうだけど……この人数で大丈夫かな?

 うん。時間はかかるけど、議題を投げて、意見を拾って……というスタイル。

 プロデューサーの堀内さんが、確認する。


『今、攻略はどのあたりまで進んでいたっけ?』

『周辺の探索止まりですね。港町でのイズさんの薬が効きすぎちゃったのか、慎重になりすぎちゃって』

『鉱山や、森林といった産出物の確保まではしているんだけど……』


 スタッフの歯切れが悪いなぁ。

 普通にリゾート感覚で遊んでくれると、道は拓けるんだよね。プレイヤーが真面目すぎちゃうのも考えもの……なのか、私が過信しているのか。


『そういえば、佐伯夏姫ちゃんも、お忍びでプレイしているんだろう? 彼女経由で、何か情報を流してもらうのは、どうだろう?』

『駄目ですよ。彼女もプライベートで遊んでいる、一プレイヤーなのですから』

『シンボルキャラの方は……戻すのは無理があるか』

『忘れ物をした……とかじゃあ、ギャグですよねぇ……』


 勝手放題言ってるなぁ。

 今回はスタッフ内の風当たりの強さで、胃痛になりそう。

 オンラインゲームでは、停滞はユーザー減少の元だから、仕方がないけど。


 会議は続く。

 最初は荒れ気味だったけど、大手のギルドマスターたちのあしらいが上手いね。熱っぽく、攻略を考えてくれるプレイヤーたちに感謝。

 たけど、「では、どうする?」の所で、どうしても意見が止まってしまう。

 みんな、八方塞がりになっているのか……。

 私、誘導が下手なのかなぁ。ちょっと自信を無くし気味。


『最終的に妖精さん頼りになってしまうのは、いただけないなぁ……』


 堀内さんの言葉に、同意してしまう。

 最近も冷房繊維なんてものを作り出して、布服プレイヤー全員の感謝を受けていたくらいだ。妖精さんは、開発生産の分野で、道なき道を突っ走って楽しんでいる特異なプレーヤーだ。

 開発スタッフすら意表を突かれるものを作り出している、かけがえのない人なんだからね。

 状況を考えると、夢をもう一度と、彼女たちに頼りたくなるのも解るんだけど……。


『イズちゃん、何か救済策は考えてる?』


 堀内さんに確認されて、ちょっと言葉を改める。

 これは、真面目に答えなければいけない案件。

 プレイヤーたちがここまで詰まっているなら、見過ごすわけにはいかない。

 誰よりもアクセス時間の短い妖精さんにも、負担をかけたくないし……。


『今回はクレームが来ない分、プレイヤーの動静が掴めなかったのです。このような状況であるのなら、次のキワキの町で登場させるはずだったヒロインを、先行投入します』

『どのくらいで準備できる?』

『準備はできています。プレイヤーが先に、別の町に行ってしまった場合の対応策として、用意してあったものですから』

『シナリオの詳細は、ある?』

『はい、今送りますね』


 アウトラインプロセッサーでシナリオを書いていると、こういう時に助かる。

 該当イベント部分をテキストにコピペして、堀内プロデューサーに送付する。

 その反応は、いかに……。


 プレイヤーが悩んでいるなら、運営チームも動かなくちゃね!

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