第24話 新学期の教室
なじみは教室に着く。
痴漢騒ぎで10分くらいロスしたが、特に遅刻というほどではない。
マスクを外したなじみが「おはようございます。」と教室に入る。
何人かが「おはようございます。」と返してくる。なじみにはそれが心地よい。
自分の席についたなじみは、あたりを見回してみる。
なじみの横は空席だが、机が新しくなっている気がする。。
クラスメイトたちは、いくつかのグループが雑誌を見ている。
夏休みの話をしているグループがいくつかあるが、雑誌を囲んでいるメンバーが目立つ。
女子たちは、ナージャの載った雑誌「エイティーン」と、正統派ギャルの美沙が載った「サンキャン」を見ている。
「ナージャってやっぱり可愛いよね。この笑顔もすごく自然。いいモデルね。」
「この美沙ってギャルもカワイイね。私は美沙ちゃんのほうがいいな。同い年よね。」
一方、男子たちは、ノイセレことNoisy Serenity が載ったコミックスターを見ている。
アイドルオタの織田が、「この子たちは売れる!」と叫んでいる。
なじみは満足げに軽く笑って、自分の文庫本を読み始めた。
遅れて来た甘楽に対し、自他ともに認めるアイドルオタの織田がコミックスターを見せにくる。
「おい淀橋、この子たち売れるぞ!」
「お、新しい押しを見つけたのか。よかったな。」甘楽は笑いながら答える。
「おお。11月にデビュー楽曲リリースだそうだ。楽しみだな。」」
担任が来て、今日は始業式があるが、その前に朝のホームルームが始まる。
「まずは、転校生を紹介する。今日から二人、このクラスで勉強することになった。仲良くしてやってくれ。」
皆がざわつく。なじみの隣、それから甘楽の隣は空席だが、新しい机に変わっているようだ。二つある。
「じゃあ、二人とも入っておいで。」
担任が廊下にいる二人に声をかける。
入ってきたのは、制服を着た美少女二人だった。
一人は170cmくらいの長身、ロングヘアで巨乳の賢そうな美女だ。
もう一人は、150cmもないくらいの小柄で、色白のかわいらしい感じで庇護欲をそそる美少女だ。
その二人を見た瞬間、織田が立ち上がって叫ぶ。
「ノイセレのサーシャとアーニャ!」
そう。その二人は、誰あろう爽香と杏奈だ。二人とも事務所の指示どおり、転校してきた。
「あら、知っていてくれたの。嬉しいわね。」
爽香がにっこり笑っていう。
担任がちょっと咳払いし、改まって告げる。
「この二人が、今日から一緒に勉強する。二人とも、ホワイトボードに名前を書いて、自己紹介してくれ。」
小島爽香。山田杏奈とそれぞれ名前を書く。
「小島爽香です。」「山田杏奈です。」
「「よろしくお願いします。」」
クラス中から大きな拍手がわく。
爽香が続ける。
「えっと、ご存じのかたもいましたが、私たち二人は、もう一人の子と3人で、Noisy Serenity というユニットを組んで、芸能界デビューしたところです。」「
「ボクのことはアーニャ、この子はサーシャって呼んでください。よろしく!」
杏奈はNoisy Serenity とホワイトボードに大きく書く。
そこで爽香が言う。
「ここで、皆さんにお願いがあります。せっかくこの学校に来たんだから、皆さんと一緒に凄して、一緒に卒業したいと思っています。」
「みんなそう思ってるよ!」織田が叫ぶ。
「ありがとうございます。それでお願いです。まだ取るに足らない存在ですが、一応私たちは芸能人のはしくれです。
でも、私たちは、この学校では個人の小島爽香、山田杏奈で過ごしたいと思っています。
だから、私たちのプライバシーを守ってほしいんです。 私たちがこの学校にいることを、広めてほしくないんです。」爽香が言う。
「それが伝わると、ファンの人たちが出待ちをしたりして、大変なことになる可能性があるんだ。
ボクたちがここにいるって広がって、人がやってきて学校に迷惑をかけるようになったら、ボクたちは転校しなきゃならない。それは避けたいんだ。」
杏奈も付け加える。
「言わない! 言わせない!」織田が言う。
「あと、承諾なしでの盗撮とか、軽い気持ちで写真をSNSに上げるのも絶対やめてくださいね。」
爽香が付け加える。
「ちなみに、SNSに喜んで漏らした人のせいで転校する羽目になった例があるんだよね。」杏奈も言う。
「あ、仲通りの片井つくねちゃんのことだ! 刑事事件にまでなったよね。」
織田が言う。
爽香が続ける。
「今は、SNSの投稿はぜーんぶ誰がしたかわかるのね。なので、漏らした人、広めた人たちが特定されました。何十人も退学や停学になったり、損害賠償になったりしたケースがあるから、気を付けてくださいね。」
杏奈が付け加える。
「人数が多くなったのは、裏サイトに投稿した人や、匂わせまでまとめてひっかかったからだよ。
ボクたちの存在、秘密にしておいてね。 そのほうがボクたちもみんなと楽しくすごせるから嬉しいよ。」
「二人を傷つけることは絶対にしないから!みんな、大丈夫だよな。この二人と一緒に楽しい学校生活を送るため、秘密を守ろうぜ!」
織田が立ち上がってみんなに言う。
「「ありがとう。」」」
二人は頭を下げる。
一区切りついたところで担任が言う。
「じゃあ、空いている席に座ってくれ。 小島はそこの野島のとなりに、山田は淀橋の隣に座ってくれ。
では、ホームルームを始める。今日の伝達事項は…」
「小島爽香です。よろしく。」「野島なじみです。よろしくお願いします。」
「山田杏奈だよ。仲良くしてね。」「淀橋甘楽だ。」
と、白々しいやりとりが行われる。
ホームルームが終わると、すぐに講堂に移動して始業式だ。
二人は、クラスメートに囲まれ、あたりさわりの無いことだけ答えながら歩いていく。
始業式で、校長が言った。
「九月から転校してこられた方たちがいます。皆さん、プライバシーはしっかり守ってください。各ホームルームでも話があったと思いますが、不用意に個人情報を漏らしたりしないでください。
学校側としても、むやみに生徒たちを処分したり、警察沙汰にはしたありませんから。」
学内がざわめく。
「そういうことは無いと信じていますが、もしそれに近いことがあれば、皆さん仲間どうしでちゃんと指摘してあげてください。」
クラスに戻ったところで、化粧の濃い女子、樺山成美が言う。「校長、大げさよね。」
織田が答える。
「いいや、事実だよ。仲通りの片井つくねちゃんの学校での写真を同級生が投稿して、しかも悪口が書かれたんだよ。
そのあと、個人情報の漏洩と名誉棄損で訴えられて、退学とかにもなったんだ。」
樺山が驚く
「え…でも警察沙汰はないよね。未成年は少年法で守られるもの。」
クラス委員の優等生であるイケメン、大滝浩平が言う。
「いや、少年法って、捕まらないって意味じゃないから。
家庭裁判所には行くし、場合によっては鑑別所経由で少年院だよ。まあ、名誉棄損でそこまでは無いと思うけど。
それよりも怖いのは民事だね。」
樺山は意味が分からない顔をしている。
「民事って?」
大滝が答える。
「刑事と民事。刑事は、警察が出てきて、最終的に罰金とか懲役になって、前科がつく。これは、社会秩序に対する処罰だね。
一方民事は、個人と個人、または企業との間の問題だよ。 もし何かして、この二人、あるいは事務所に損害が出た場合には、その損害を賠償するって話になる。」
「せいぜい転校でしょ?」
そこへ織田が口を出す。
「いや、つくねちゃんの時は大変だったよ。学校への寄付金、警備の費用、肖像権の侵害、その他もろもろで、請求額は1億を越えたらしいよ。」
「1億円!」皆が声を上げる。
「結局つくねちゃんはグループを変えたりして、不遇になった。 ノイセレにしても、宣伝費掛けてるし、なんかあった損害大きいだろうね。大丈夫!僕は2人の味方だよ。」
織田が言い切る。
「ボクたちにどれくらいの価値があるかはわからないけど、変なことをしなければ、、問題ないよ。」
「ありがとうございます。織田さんでしたっけ。よろしくお願いしますね!」
爽香が笑顔で礼を言う。
もう、織田は舞い上がったっている。
「そういえば、ナージャは一緒じゃないんですか? 私、ナージャのファンなんです。」
樺山が聞いてくる。
爽香と杏奈は顔を見合わせる
まあ、予想していた質問なので、爽香がよどみなく答える。
「ナージャは先にデビューしたから、ちょっと違う立場で、違うところにいるんです。
でも3人は仲良しですよ。
ナージャも同い年だし、いつか一緒のクラスで勉強することになるかも。」
「そ、そうなるといいわね。」樺島が答える。
「でも、ナージャだけじゃなくて、ボクたちもよろしくね!」
杏奈が付け加える。
担任が来て、軽い連絡事項を伝えて、お開きになった。
「転校記念に、有志でカラオケでも行きませんか?」
クラス委員の大滝が提案する。
「お誘いありがとう。でも、ごめんなさい。私たち、これから毎日放課後と週末、だいたいレッスンなの。」
爽香が申し訳なさそうな顔をする。
スマホをいじっていた杏奈が言う。
「そろそろ迎えが来るよ。」
「では皆さん、失礼します。」
爽香もそう言いい、二人は教室を出て、門の近くに止まっていたタクシーに乗り込む。
「この先のコンビニでもう一人乗ります。」
爽香が指示する。
コンビニでなじみが乗り込んできた。
「お疲れ様~」
話に花を咲かせたいところだが、タクシーの運転手には聞かせられない話が多い。
タクシーの中では黙るよう、智香に言い含められている。
三には静かに事務所へレッスンに向かうのだった。
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こんにちは、お急ぎですか。
〇〇〇〇が戦えと言ってる。
作者です。
学校側にはしっかり智香が根回ししています。
別に片井つくねちゃんにモデルはいません。高井とかつき何とかとかじゃありません。
お楽しみいただければ幸いです。
ハート、★、感想いただければ幸いです。
特に★が増えると作者は喜びますので、まだの方はお気軽にお願いします。
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