第3話 なじみの週末



ラブホテルを出て甘楽と別れたあと、どうしたのかまったく覚えていない。


気が付いたら、なじみは自宅の前にいた。

どうやって帰って来たのかわからない。


夢と現実のはざまで揺れながらも、帰巣本能で、帰り着いたのだろう。


時間は、普段の塾の帰りより少し早い。母はまだ帰っていないので、なじみは鍵を開けて自宅のアパートに入る。



2Kの小さなアパートだ。なじみは、部屋に入ると、そのまま自分のベッドでぼっとしていた。


二部屋のうち、一部屋はなじみのベッドと机と箪笥などが置いてある。

もう一つの部屋は茶の間であり母が布団を敷いて寝る場所でもある。



なじみはぼんやりと考える。

いつも通りに塾に行く、変わり映えのしない日のはずだったのに、全く予想しない展開になってしまった。


自分が初体験を今日済ませたなどと、あまりに予想しないことが起こったため、今日の出来事は夢ではないかとさえ思う。


ただ、ほんの少しの鈍い痛み、そしてスマホには「淀橋甘楽」の連絡先。

これらは、自分にあったことが事実であることを示している。


すごい…なぜに?


色々な思いが頭の中を去来する。


頭の中がごちゃごちゃして、どうしていいかもわからない。

ただベッドに座って時を過ごすうちに、ドアの開く音がした。母が帰って来たのだ。


(あ、いけない!)

なじみは気づく。 本来なら風呂をわかし、入って上がっている時間だった。

それだけなじみはぼうっとしていたことになる。


「ごめん。疲れてぼっとしてたらお風呂いれてなかった。今からするね。」

なじみは慌てて言う。


「疲れてたのね。もうシャワーでいいから、早く浴びてらっしゃい。」

帰宅した母が言う。


なじみの母は、昼間は会社の事務員として働き、そのあと近所の居酒屋でも働いている。

母子家庭の稼ぎ手として頑張る母に、なじみは常に感謝している。


「ごめん。先にシャワー浴びるね。」

なじみは着替えを持って風呂場に行く。


洗面所で手を洗っていた母が、すれ違いざまに言う。

「あら、違う香りね。」


なじみは内心焦る。ラブホテルのソープの香りだろう。甘楽に警告されたのに、無意識に使ってしまったようだ。


「うーん。塾のハンドソープの香りかなあ。」なじみは何とかごまかして、シャワーを浴びる。


シャワーのお湯を浴びながら、(ああ、ここにも甘楽君の舌が…)などと思っていると、母の声がした。


「なじみ、いつまで浴びてるのよ!これならお風呂沸かしたほうがよかったじゃない!」


シャワーを浴びながら、また固まっていたのだった。

なじみは慌ててシャワーから出る。


「ごめんなさい。本当にぼっとしてる。」

なじみは謝る。


「もう。水道代もガス代も高いんだから、もう少し気をつけてね。」」


たしかにわが家の家計ではその通りだ。

「ごめんなさい。本当に疲れてる。もう寝るわ。」


なじみは、歯を磨いてそのままベッドに倒れこむ。

あっと言う間に睡魔の虜になった。


精神的にも肉体的にも疲れ切っていたのだろう。

なじみはもはや思い出を反芻することもなく、そのまま泥のように眠った。



毎週土曜日は、なじみが家事をする。朝食を食べると、母はスーパーにパートに出る。

なじみは、食器を片付けた後、洗濯をする。


ふと洗濯籠を見ると、昨日の汚れたショーツがあった。

(ああ、自分で洗濯できてよかった)なじみは思う。


洗濯機が回っているときに掃除機を掛け、その後ベランダを掃き、洗濯物を干す。

それから玄関、トイレも掃除する。


一連の仕事を終えると、やっと自分の時間だ。


ベッドに転がって、好きな文庫本を開く。

これは、古本屋で買ってきた一冊百円のものだ。


なじみの小遣いは少ない。 だから本当はアルバイトをして、お小遣いにしたいし家計も少しは支えたい。


ただ、母が許してくれないのだ。


「そんな暇があったら勉強して、特待生のままでいい大学に行きなさい。」


はじみは、普通の女子高生だ。


本来ならバイトもしたいし、できれば部活にも入りたい。


人並におしゃれもしたいし、恋愛だってしてみたい。


でも、こんな生活じゃ、勉強以外何もできない。させてもらえない。


今の学校は私立だが、授業料は免除されているし、内部推薦で大学にも行ける。

ただ、そのまま授業料免除を維持するなら、高校3年、大学4年の間、この生活を続けることになる。

高校受験のときも、特待生を目指して勉強していたから、似たようなものだった。


なら、8年くらいこんなルーティンを繰り返すのか? 正直ぞっとする。

母には感謝しているけど、これが自分の幸せにつながるとは思えない。


そうやって、、もやもやした感情を持て余している時に、偶然ハンバーガーショップで甘楽に出会ったのだ。


そうしたら、全く思いもつかない展開になってしまった。


(これから、自分をどう変えようか)

なじみは、今まで考えなかったことを考え始める。



新しい自分への第一歩だ。


その機会を与えてくれた甘楽に、なじみは感謝するのだった。


そして、甘楽のことを考えると、体なのか心なのか、どこかがうずくような感じがするのだった。


考え事をしながらうとうとしてしまい、気づけば夕方になってしまった。


なじみは慌てて洗濯物を取り込み、夕食の準備をする。

ただ、土曜の夜もなじみの母は働いている。土曜の晩は居酒屋もかきいれ時なのだ。


一人分なので、朝ごはんの残りに、豆腐と納豆くらいがなじみの夕食だ。ちなみに、昼は食べていない。


小食ななじみには、これで十分なのだ。母は居酒屋のまかないを食べてくる。


一人分の夕食の準備が終わった頃、甘楽からメッセージが入った。

それとは別にSMSも来る。


SMSはパスワードのようだ。


母が帰って来る前に見ないと。

そう思うなじみは、スマホにパスワードを入れ、映像を再生する。


「Nami's first experience:自分を変えたい」


こんなタイトルだ。


静かな音楽が流れ出す。


そしてタイトルが映され、着衣のなじみの姿に変わる。

映像はソフトフォーカスで、BGMも流れている。

声は変えてあるようだ。


だけど、なじみには当然自分だとわかる。


(こんな顔をしていたのね。)自分でも新鮮だ。


インタビューから始まり、それからシーンが変わり、全裸の姿を映しだし、そして胸を愛撫されたり、いろいろなポーズをとったりする。


ただ、あくまで一瞬のことだ。


いつの間にか、なじみと甘楽は重なっている。

そして進入するときに甘楽が一言。


シーンが切り?変わる。いつの間にか腰が合わさったところが映り、「入ったよ」という声がする。これが卒業ということなのか。


そして最初はゆるやかに、その後激しく動いてフィニッシュ。なじみは自分でも信じられないほど大声を上げていた。


シーツの上に鮮血の染みがちょっとだけ映る。

また感想のインタビューがあり、 最後に写真のカットバックを入れたエンドロールが流れる。


ただ、エンドロールの登場人物は二人だけだ。「ナミ」そしてSweet & Easy と出ている。

「甘楽」と見る人が見ればわかるだろう。


ほんの7分の作品だ。

綺麗にまとまったムービーであることは間違いない。いやらしさはあまり感じない。


むしろロマンチックで芸術的な仕上がりになっている。


甘楽が映像の勉強をしているというのは、嘘でなないようだ。


(これなら、今でもプロとして通じるんじゃないかしら。)なじみは思う。

それくらいの出来映えだ。


なじみは大満足だ。 そして、体験させてくれた上に、こんな綺麗な記念映像を残してくれた甘楽に、また感謝する。


(初体験を記録に残してよかった!甘楽君、ありがとう!)

なじみはそっと思うのだった。

体のどこかが、ちょっとうずいている気がした。


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こんにちは、お急ぎですか。

別に急いでいませんよ~ 


作者です。

第三話をお届けします。


なじみと甘楽はこれからどうなる?

続きは…待つ間に★や??でもつけてくださあいね(笑)


お楽しみいただければ幸いです。

ハート、★、感想いただければ幸いです。

特に★があると作者は喜びますのでoお気軽にお願いします。





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