アーマー・オブ・ザ・デッド 〜目が覚めたら世界がゾンビまみれだった話〜
結城からく
第1話
最初に感じたのは猛烈な冷気だった。
俺は震える身体で飛び起きる。
「さ、寒い」
冷気を発する蓋付きの箱から抜け出す。
その箱を見た瞬間、記憶が急速に蘇ってきた。
(そうだ、俺は……)
不治の病を患った俺は、当時の最新技術であるコールドスリープを使用した。
眠る間に医療技術が発達し、病を治せる時代を待つことにしたのである。
俺はコールドスリープ装置の履歴を確認する。
ディスプレイに表示された情報によると、眠っている間に俺の病は治療されたらしい。
肉体的には何の問題もないそうだ。
当初の目論見通り、未来の医療技術なら対応可能だったわけである。
ただ、気になるのが表示された時間だ。
西暦2034年。
俺がコールスリープ装置に入ってから十年が経過している。
それは別にいい。
医療技術の発展にはそれくらいの年月がかかってもおかしくない。
むしろ想定よりも短いくらいである。
問題は、病の治療はとっくの昔に終わっている点だ。
履歴をチェックしたところ、具体的には四年前の時点で完治したらしい。
つまり六年間は無駄に氷漬けにされている。
明らかに不要な措置であった。
(一体どういうことだ?)
俺は部屋に落ちていた古い服を着ると、恐る恐る部屋の外に出る。
廊下は物が散乱して荒れ果てていた。
窓もほとんど割れて壁も剥がれた痕跡がある。
地震が起こってもこんな風にはならないだろう。
それだけ酷い有様だった。
(何かヤバい事故やら災害のせいで俺は放置された……って所か)
なんとなく嫌な予感を覚えつつ、荒れた施設内を散策する。
しばらく歩いていると、廊下の先に白衣姿の人間を見つけた。
遠くて容姿は見えないが体格からして男だ。
俺は呼びかけながら近づいていく。
「あのー、すみませーん」
白衣の男がゆっくりと振り返る。
その顔はドロドロに腐敗し、袖から覗く手も同じ状態だった。
虚ろな目が俺を見た。
男は唸り声を発しながら接近してくる。
俺は後ずさりながら苦笑する。
緊張と恐怖で足腰が震えていた。
「マジかよ」
気が付いた時には俺は走って逃げ出していた。
後ろから呻き声が迫る。
振り向いて確認する余裕はない。
転ばないように走ることで精一杯だった。
ゾンビ。
あれはゾンビだ。
ホラー映画で飽きるほど見た姿である。
まさか現実になるなんて。
性質の悪いドッキリではないんだろうな。
そうあってほしいが、きっとこれはリアルなのだ。
「やっべえ! やべえって! こっち来んなぁッ!」
俺は喚きながら近くの部屋に逃げ込む。
すぐさま棚を倒して扉を塞いだ。
ゾンビによる乱暴なノック音に焦りつつ、部屋の中を見回す。
そこには埃を被ったパワードスーツがあった。
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