第81話 イベント配信『暴虐! バスターボール』⑧


 その後も試合は、引っ切り無しに爆音を轟かせつつも順調(?)に進んだ。


『続いてのバッターは久々井玲選手。普段は乙女ゲーばかりをプレイして『私に落とせない男はいない』とメガネを光らせていた彼女ですが、果たして』


 私のアナウンスがスタジアムに響く中、メガネの位置をくいっと直し、バットを構える玲先輩。

 てっきり生粋のインドア派だと思ったけど、中々堂に入った構えだ。


 理知的な瞳が真っ直ぐとピッチャーの桜華を捉える。


「な、な、な……何でわたしがぁ」


 完全に腰が引けた様子で白球を握る桜華。

 そりゃあ、さっきまでピッチャーを務めていた誘奈先輩が星になったからね。

 で、誰が投げるかでジャンケンして敗北者になった結果である。


 我らがプリズマアークの社長たる散華に『もっと案件寄こせBBAーーーーっ!』と叫んだ一投がピッチャー返しとなり強襲。

 ひっくり返ったところを、透かさず彼女の同期たるエリス先輩とシャリオ先輩が追撃を掛け、遭えなく撃破となった。


 沸き上がるスタジアム。

 調子に乗れば調子に乗るだけ痛い目を見るのが様式美と化しているから、〝まほみこいど〟の三人は人気なんだと思う。


 ほんと笑いの神に愛されてる。


 多分そのうち残り二人も後を追うことになるだろう。

 恒例となってるのに、毎度毎度『自分だけは違う』と思い込めるのが凄いよね。


 撃破されてると一回休みのため、今はベンチから『ピッチャービビってる! ヘイヘイヘイ!』と野次を飛ばしている。ブレない女である。


「こ、こうなったら……えいっ!」


 ギュッと目を閉じながら桜華の一投。

 ひょろひょろひょろひょろひょろ……ぽす。


「ボール!」


『桜華選手の第一球はボール。正直よくミッドまで届いたなって思いです。腕だけで投げなーい! 全身を使いなさーい!』


「そんなこと言ったってぇ……っ」


 私が実況しながらアドバイスをすると、そんな泣き言が返ってくる。


『足を上げる! 腰を捻る! 指先に意識を集中させ、捻った腰を戻しながら腕を振り抜く! リピートアフターミー!』


「い、家に戻る! エアコンを付ける! パソコンの電源を付け、布団を被りながら寝っ転ぶ!」


『貴様ぁ……?』


 何だぁ、テメェ……。


「ふぐぅ。ちょ、ちょっとしたジョークなのにっ」


 メソメソしながら投球モーションに移る桜華。

 何やかんや言いつつ、ゆっくりとだけど私の言った通りに投げようとしている。


『実況、とても私情が入ってましたね』


 カグヤ先輩のジト目。

 だって心配なんだもん。


『ピッチャー第二球、投げた』


 今度の球は真っ直ぐとキャッチャーミットに突き刺さる。


「ストラーイク!」


 キャッチャーから返球された球を受け取り、ホッと安堵する桜華。

 その後、ボールが二つ、ストライクが一つとフルカウントになり、最後の一投が放たれる。

 キラン、と玲先輩のメガネが光った。

 まるでその球を待っていたと言わんばかりに。


「データは揃ったわ。インコース、ストレートの確率――100%!!!」


 ブンッ!

 スカッ。


「ストライク! バッターアウト」


「理屈じゃ、ない……!」


 ガクリと片膝をつく玲先輩。

 如何にも文学系みたいな見た目だけど、結構ノリ良いよね。


『読みは合ってたんですけどね』


『思いっ切りボールの上を振ってたわね』


 読んだところでバットに当てられないなら何の意味もないもんね。

 というか、たった一打席で揃うデータってなに。

 球種がストレートしかないことと、ノーコンってことくらいだと思うんだけど。


「や、やった……やった……!」


 呆気に取られていた桜華だけど、徐々に自身が三振を取ったことを理解。

 蕾が開花するような喜色を咲かせた。


「良くやったわ、桜華! その調子で残り二人も打ち取りなさい! 討ち取っても構わないわ! 討伐する方の『討』よ!」


 これにはキャプテンの誘奈先輩もニッコリ。

 続いて大物感たっぷりに打席に立った紅葉先輩との同期対決も、しっかり三球三振に抑えた。

 全部クソボール球だったのに何故ああもフルスイングができるのか。

 首を傾げながらベンチに戻る姿に、こっちが首を傾げたいと思ったのは私だけじゃないはず。


「紅葉ってほんと歌以外はポンコツだよね」


 ベンチに戻った紅葉先輩に桔梗先輩が言った。

 ちょちょっとカメラの視点を動かせば遠くの会話も聞こえるのがVR空間の良いとこだよね。


「私はポンコツなんかじゃないわ。使っているバットがボールをすり抜けたのよ」


「そもそもバットが当たる範囲に来なかったんだよなぁ」


「全く、こんなバグを放置したままなんて、開発者の神経を疑うわ」


「それアンタの親に言ったげたいわ」


 という二人の愉快なやり取りはさておき。

 プロ野球……スカウト……三冠王……さわさわ賞……メジャーリーグ……などとアホな妄想を羽ばたかせていた桜華だったけど、次の打者にあっさりとホームランを打たれ、無事目が覚めた模様。あとさわさわじゃなくて沢村賞ね。


 まあ素人が一点に抑えただけでも充分だろう。

 みんな素人というのは、さておき。


 ビクビクしながら戻った桜華に、誘奈先輩は『良くやったわ』と軽く肩を叩いた。

 多分、構図的には、こわ~い先輩に怒鳴られると思ったら、お褒めの言葉を貰った後輩のソレだ。


 もしくは雨の日に猫に傘を差し出す不良の図。

 はたまた微笑み〇弾のサビ。


 思ってたのと真逆の反応にあんぐりとなる桜華だったけど、次第に目にキラキラとしたものが宿り始めた。


『あの子、大丈夫かしら』


 カグヤ先輩が言う。

 明らかなチョロインムーブだもんね。

 しかもDV彼氏に引っ掛かりそうな反応だしさ。


『まあ大丈夫だと思いますよ。会話とかのない時間が一日――うーん、いや、半日も空けば、それだけで関係値がリセットされる子なんで』


『それはそうでどうなの?』


 人見知りによく見られる傾向だよね。


『私と社長も頭を悩ませています』


 彼女の母親でもある社長を見ると、悩ましげな溜め息を付いていた。

 3歩進んで2.7歩下がるのがあの子のクオリティーだからなぁ。

 3歩下がらない分マシと見るべきかしら。


 先のやり取りのせいで雫先輩とも微妙な空気だし。

 もう少し互いの距離を縮められるような何かがあれば良いんだけど。





――――――――――


 あり得ないほどに更新が遅れてしまい申し訳ありません。

 特に長期間更新がなかったにも関わらずギフトを下さった方々には感謝の他ありません。

 明日の11時に次話を投稿して、今回のお話、そして第二章は完結となります

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