第22話 コラボ配信『紅葉先輩と十番勝負!』
――というわけでコラボ当日。
私はマイルームの片隅にあるポータルに、事前に教えてもらったホームコードを打ち込んだ。
暫し待つと、承認の返事。
移動しますか? という問いに『イエス』のボタンをタップする。
エレベーターが動き出したときのような一瞬の浮遊感の後、私は紅葉先輩のマイルームにいた。
「よく来たのじゃ!」
視点を下げると、金髪ロリの獣耳美少女が胸を張っていた。
パタパタ揺れ動く尻尾が可愛い。
「こうして対面するのは初めてですね。アルフェリア・リンカーです。これからよろしくお願いします、先輩」
「うむ、くるしゅうない! 我は楠紅葉じゃ。桜華が世話になっておるようじゃの」
「いえ、あの子とはお互い様ですから」
互いに頭を下げる。
今頃くしゃみでもしてそう。
「うーむ……にしても、ほんとアバターの完成度が段違いじゃの。羨ましい」
ジーと上から下まで私の身体を観察してから、羨望の眼差しを向けてくる。
うーん、反応し辛い。
「ありがとうございます。頑張りましたから」
「個人的には、これが自作というのが一番の驚きなんじゃが。歌って踊ってプログラミングもできるとは、設定の盛りすぎじゃろう」
あと戦いもできます。
むしろソレこそが本業です。
「それよりも、十番勝負と聞きましたが、何の勝負をするんですか?」
「んむ? それは始まってからのお楽しみじゃ!」
おっとー、そういう展開かー。
私、ライバーが設定の段階でもたついてると『試遊くらいしとけよ~』って思っちゃうタイプだから、ぶっつけ本番はあんましたくないんだけどなぁ。
「のう、アルフェリア」
「? 何ですか?」
「お主は――……いや、何でもない。それより、早速始めようぞ!」
「え? もうですか?」
まだ告知した時間より三十分も早いけど。
「うむっ。配信は勢いが大事じゃからな! ほら、リスナーたちも既に集まっておる」
そういや紅葉先輩は大体前倒ししてるんだっけ。
だからもうこんなに人が集まってるのか。
「では行くぞ! 3、2、1――」
うわ、ほんとに勢いのまま始めちゃった。
「皆の者、良きに計らえ! 楠紅葉じゃ!」
「アルフェリアです。先日の十番勝負でガチプロ来たの許さんからな~。今日は紅葉先輩の配信にお邪魔してまーす」
ひらひらと二人で手を振るう。
:いつも通り時間を守らない幼女
:まだ三十分時間あるが?
:ま、まあ遅刻やないだけマシやから
:どっちかっつーと遅刻の方がありがたいんだよなぁ。こっちも余裕が生まれるから
「え~い、うるさいうるさい! 我にも理由があるんじゃ! そんなことより、今日はアルフェリアとのコラボ配信じゃ!」
「えー、さっきも言った十番勝負での罰ゲームで、なぜか紅葉先輩とも十番勝負をすることになったんだよね。……コラボを罰ゲーム扱いってどうよ?」
と、リスナーに苦笑を向ける。
:アルフェリの方が気を遣っとるやんけ
:そらアルフェリも感情の置き場所迷うわ
:相変わらず勢いが強すぎるんだよなぁ
うん、リスナーのみんなも大体察してくれてて感謝だ。
先輩とのコラボを罰ゲームとかふざけてんのか、とか言われたら堪ったものじゃないからね。
「細かいことは気にするでないっ。それよりルールを説明するぞ」
紅葉先輩はパンと柏手を打ち、注目を集める。
「と言ってもそんな説明するほどの内容でもないがの。要するに我とアルフェリアが十のお題目で勝負して、勝利数の多い方が勝ちという勝負じゃ!」
「なるほど。一つ一つの敗北にペナルティはない感じですか」
「うむ。それはお主の方でやったからの。同じ趣だと芸がないじゃろう」
:それはそう
:でも、それだと緊張感なくね?
「ふふん、安心せい。そこのところは考えておる。負けた側の罰ゲームの内容を、アルフェリアのものよりも更に厳しいものにすれば互いに緊張感も生まれるじゃろう」
私とリスナーの十番勝負の罰ゲームが質より量なら、私と紅葉先輩の十番勝負は量より質というわけだ
「えと……私の罰ゲームは『歌ってみたの投稿』と『ASMR二時間配信』と『桜華をデロデロに甘やかして最後に耳を甘噛み』の四つだったんですけど、これ以上のものを一つに集約させるんですか?」
それこそ私の脳内はもうスケベ配信以外出てこないのですが。
うーん……他には耐久配信とか?
「うむ! もしも我が勝った場合のお主の罰ゲームは、『我をメイクアップさせること』じゃ!」
ちょおおっ!?
何かとんでもない罰ゲームが掲示されたんですけど!?
もしかしなくても、それが目的?
:うおおおお!
:マジか!?
:さくたんに続いて我もアバターの更新入るんか
:これは我を応援せねば
:でもコレ罰ゲームの内容にしてええんか?
:さすがに事前に打ち合わせしとるやろ
:よくアルフェリを見ろ。宇宙猫になってんぞ
:草。こーれ初耳です
「あ、あの、紅葉先輩……? さすがにそれは」
すっごく申し訳ないんだけど、『前例を作るのは』とか『働きすぎとお説教された』とか、他にも色々事情があって、素直に了承することは難しいんだよね。
だけど、
「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ~! 桜華ばっかりズルいのじゃ~! 我もメイクアップがしたいのじゃああ~!」
紅葉先輩は寝転がって駄々っ子のように暴れ回った。
先輩の姿か、これが……?
というか、こんな人だったっけ?
確かに見た目的には合ってるけど、どちらかというと純粋ロリより合法ロリ的な印象だったけど。こう、泰然としてるというか、芯があるというか。
チラリとコメント欄を見遣ると、リスナーも私と似たような反応だった。
やっぱり紅葉先輩のこういう姿は、珍しいようだ。
んー…………。
「……仕方ないですね。分かりました。良いでしょう」
「ホントか!?」
勢いよく身を起こす紅葉先輩。
「ええ。要は勝てば良いんですから。でも、代わりにこちらも相応の罰ゲームをしてもらいますよ? 具体的に言うと、クソゲーランキング一位から十――はさすがにだから五位までをクリアしてもらいます」
「クソゲー? 良く分からんが、良かろう!」
元々ゲーム配信の頻度が少ない辺り察してたけど、やっぱりゲームはあんましないタイプみたいだ。
:ひ、ひえ
:なんてことを
:クソゲーランキング五位までって……
:あ、悪魔だ……!
:人の心とかないんか?
「では、早速やって行くとしよう! 十番勝負を飾る最初のゲームは――コレじゃあ!」
紅葉先輩はウィンドウを開き、ヘルメットとピコハンをアクティベートさせた。
「叩いて被ってジャンケンポイ!」
あ、勝った。
「「叩いて被ってジャンケンポイ!」」
私、チョキ。
紅葉先輩、パー。
――ピコン☆
「ほわあ!?」
反射的にピコハンを握った私の手が閃き、ワタワタとヘルメットを被ろうとする紅葉先輩の頭を叩いた。
「バ、バカな……全然勝てんが!?」
「そりゃ私はワルキューレという生体兵器ですので。この手の勝負には絶対に負けませんよ」
私の前世を舐めないで頂こう。
思考と反射を使った勝負で、一般ピープルに負ける道理がない。
「ま、まだじゃ。勝負とは時の運。ここから我の大逆転が始まるのじゃ! 行くぞ!」
「「叩いて被ってジャンケンポイ!」」
私、グー。
紅葉先輩、チョキ。
――ピコン☆
「何故じゃあああ!?」
:瞬殺で草
:ガチで早いじゃん
:動きに一切の無駄がねえ
:つ、つよすぎる……
:魔道軍将さん!?
「これで十連勝。十本先取だったので、この勝負は私の勝ちですね」
私は十番勝負の結果表に〇を書いた。
まずは一勝~。
「ぐ、ぐぬぬ……! まさか一本も取れぬとは……!」
「ほほほ。強すぎて申し訳ない」
正味、運ゲーじゃない限り負けるビジョンがないかなぁ。
「ま、まだじゃ。まだ初戦を落としただけ。まだ前哨戦すら終わっておらぬ!」
「受けましょう。次の勝負は何ですか?」
「ふふん、我はリサーチを怠らぬできる女。お主の弱点は把握済みよ!」
そう言って紅葉先輩が次に掲示したゲームは、
「ぷよ〇よじゃ!」
「む」
これには私も表情を引き締める。
脳裏に過ぎるのは、あの鬼畜連鎖だ。
「この前の十番勝負でお主がボロボロだったのは記憶に新しいからの。遠慮なく突かせてもらうぞ!」
――というわけで始まった十番勝負、二戦目は。
『ダイヤキ〇ート!』
「よし! よーし! 勝ったぁ!」
「ああ! 何故じゃああ!?」
何とか私が勝ち星を拾う結果となった。
「バカな……我が負けるなど、こんなデータは存在しない……!」
「いや、あんま人のこと言えないですけど、紅葉先輩も全然だったじゃないですか」
うん、勝敗の理由はこれに尽きる。
私も落ち物パズルゲーは苦手なんだけど、紅葉先輩はそれ以上だった。
「…………そういや我、ゲーム全般苦手じゃった!」
「気付くの遅っ」
:うーん、近年稀に見る泥仕合
:3連鎖で『おおっ!』ってなるの草なんよ
:まあ落ち物ゲーはセオリーを理解するとこから始めんとな
:Vらしいと言えばVらしい勝負だった
:紅葉が老人すぎる
:ノロノロと丁寧に連鎖を組もうと考えてるうちに着地してた、が多すぎるんよ
:あれならアルフェリみたいに素早く端っこに山積みさせてから運頼みの連鎖を組む方がまだ勝率は高いわな
「これで二戦目も私の勝ちですね」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……。まだじゃ、まだ終われんよ!」
その後も三戦目、四戦目、五戦目と続いたわけだけど――
「――ここで僕が投了! ということはなく、普通に勝利~」
「あ゛あ゛゙あ゛あ゛゙あ゛あ゛゙あ゛あ゛゙あ゛あ゛゙あ゛あ゛゙!!」
どこかで聞いた悲鳴が上がった。
またしても私の勝利。これで王手だ。
ちなみに三戦目はマ〇カ。四戦目はスマ〇ラ。五戦目はポケ〇ンだった。
全部普通に勝った。
マ〇カは前々世だとレート一万超えだったし、スマ〇ラもまあそこそこ。ポケ〇ンも厳選自体は行うタイプだったからね。
申し訳ないけど、一方的に旅パを壊滅させてもらった。
二十年経ってもレー島の守り神、ガブ・リアスは健在だ。
艱難辛苦を共に駆け抜けたパーティが一撃で狩り取られる光景に紅葉先輩は完全に脳破壊をされた模様。
一体誰がこんな酷いことを!
そもそもゲーム全般が苦手なのに、どうしてゲームで私に挑んだのか。
これでも私、前々世はそこそこにゲーマーだったのよ?
あくまでライト勢だから自慢できるレベルじゃないけどね。
それでも歴は長いから、ゲームIQ自体はそこそこある方だと思う。
だから正直無謀と思ったんだけど、紅葉先輩の反応を見る限り、それしか用意してなかったんだろうなぁ。
「これで完全に紅葉先輩の勝ちは無くなったわけですが、どうします?」
このあと全勝しても引き分けだからね。
「ぬ、ぬぅ……まさかここまで惨敗を喫すとは……」
「ですね。私も配信的にどうーなん? と戸惑っています」
だからと手加減するのもねえ。
私の場合、罰ゲームが罰ゲームだからガチで負けるわけには行かないからなぁ。
「仕方あるまい。本当は最後の最後に取っておきたかったが、ここで虎の子を切るとしよう。六戦目は――」
一瞬、紅葉先輩はどこか迷うような素振りを見せ、しかし、
「六戦目は、歌対決じゃ!」
ハッキリと言い切った。
「なるほど。歌ですか」
:おお
:これはガチなの来たな
:紅葉は歌うま勢だからな。妥当な勝負ではある
:ただ相手はアルフェリやぞ
:アルフェリも大概なんよなぁ
:初ライブの毎日見てる
:俺も
:ワイも
「ふふ、ありがとね~。歌みたもちゃんと投稿するから楽しみにしてて」
そうリスナーへのリアクションも忘れない。
コラボとはいえ、こういうのは大事だからね。
「ふん、自信があるようじゃな」
「お互いに。それで採点はどうします?」
「カラオケじゃ。これなら公平であろう」
と、紅葉先輩はカラオケのアプリを起動させた。
課金をすればマイムールでもカラオケを楽しめるのだ。
「歌うものは……お互い、歌ったことがないものにしようと思う」
「良いですね。私、幾つか歌ってみたいものがあるんです」
「我もじゃ」
私たち二人は身を寄せ合うようにしてタブレットを覗き込んだ。
「我はコレじゃ」
「では、私はコレにしましょう」
紅葉先輩が選んだのは、今人気の恋愛ソング。
私が選んだのは今季のアニソンだ。
「では、先行は後輩である私が勤めましょう」
「うむ、全力で歌うが良い」
そう言って紅葉先輩はシャカシャカとタンバリンを鳴らした。
賑やかなBGMが流れ出し、私はマイクを握り締める。
そして元気よく、歌詞や曲のフレーズを心を通わせながら歌い始めた。
結果は――
「んー、92点か~」
まあボチボチかな。
歌いたいように歌ったら、そりゃあ満点は無理だよねという話。
でも楽しかったからオーケーです。
:うおおおおお!
:すっげぇ上手かった!
:さすがだなぁ
:マジで聴いてるこっちも楽しくなるわ
「そう言ってもらえるなら重畳かな」
リスナーたちにそう返答しながら席に戻り、マイクを紅葉先輩に渡す。
「どうぞ、次は紅葉先輩ですよ」
「うむ! やはりお主はかなり上手いのう」
「元々本業でしたので」
「じゃが、この勝負、我の勝ちじゃ!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、紅葉先輩がリクエストした曲が流れ始める。
しっとりとした伴奏から始まる、素直になれない女の子の気持ちを綴った恋愛ソングだ。
「~♪」
紅葉先輩の歌声が響く。
おお、さすがだなぁ。すっごい上手いや。
音程も完璧だし、ビブラートも効いている。
何というか、まさに職人芸って感じだ。
でも――
「ふぅ、点数はどうじゃ!」
歌い終えた紅葉先輩がどこか緊張した面持ちで画面を見つめる。
結果は――100点。
「よし! 我の勝ちじゃああ!」
:おお、アルフェリに勝った!
:うむ。先輩としての意地を見せたな
:紅葉はどんな歌も安定して上手いよなぁ
:紅葉はプリズマアークきっての歌うま勢やからな
「おめでとうございます」
パチパチパチと拍手しながら祝辞を述べる。
が、なぜか紅葉先輩は不満げだ。
「どうかしました?」
「お主、全然悔しそうじゃないの。もっと悔しがるんじゃないかと思ったんじゃが」
「まあ楽しく歌うことを優先しましたので」
胡乱な眼差しを向ける紅葉先輩にそう返す。
「楽しく……」
そう呟いた紅葉先輩はどこか神妙な面持ちだった。
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