第11話 初配信&初ライブ ③

 

 

 大変に気分が良い!

 全ての曲を歌い、踊り終えた私は喜色満面を咲かせた。


「――私の初配信&初ライブを見に来てくれてありがとう。改めまして、プリズマアーク所属の異世界TS系Vtuber。アルフェリア・リンカーだよ、よろしくね」


 パチンと指を鳴らす。

 中空に出現したウィンドウには、私の公式プロフィールが記載されていた。


 :TS、だと……!

 :元男があんなクソカワダンスを?

 :ウソダドンドコドーン!

 :設定やろ

 :明らかな逸材になんつークセの強い個性を



「おお、驚いてる驚いてる。公式やSNSを経由しなかった完全初見の人たちかな? ご覧の通り私は元男だから脳破壊されたリスナーたちはスマンね」


 盛り上がるコメント欄に、クスクスと笑いながら返答する。



「元々はふっつーの日本人の男だったんだけどねー。ある日酔っ払いのトラック運転手から悪質タックルをくらって気が付いたら異世界にTS転生してたんだ。世の中思った以上にファンタジーよ。――そして飲酒運転は撲滅しろ」


 :急に真顔になるじゃん

 :まあ飲酒運転はクソ


「何で成人になった途端、リスクある飲み物に手を出そうとするの? 普通にお酒以外にも美味しい飲み物いっぱいあるじゃん。コーヒー牛乳を信じろ!」


 私の魂の叫びに、しかし同意する声は少なかった。


 :上司との付き合いでぇ

 :先輩に迫られてぇ

 :断るに断れなくてぇ

 :俺も昔はそう思ってた

 :人間関係の潤滑油「


「闇ふっかぁ……」


 普通に引きました。

 他にも《たまたま一発目で美味しいの引いた》とか《自分に合った酒を飲んでみろ、飛ぶぞ》なんてコメントもあった。ガチャかよ。

 中には『コーヒー牛乳とか草』なんていう不敬な輩も。

 何が可笑しい!(目隠し&亀の甲羅を背負いながら)


「全く、これだから酒呑みは。え? 《自分は飲酒運転をしない一緒にするな》って? その箍を外すのがお酒のチカラでしょうがオラァアン」


 どうせ皆、自分は大丈夫って面してるんだ。

 私は絶対お酒なんて飲まないからな!

 あ、でもカクテルとか美味しそうな色してるよね――はっ! 危ない危ない。


 たわしはしょうきにもどった! シャカシャカシャカ。


「あ、ちなみにこれは私の意見であって皆にお酒を飲むなと言ってるわけじゃないからね? せめてルールと適量くらいは守ってほしいわけでして」


 よし、予防線も張ったし、お酒の話はもう良いかな。

 や、本音を言うと酒そのものが滅びてほしいんだけどね。

 それでブチ殺がされた身なんだから。


「他に何か良いコメントは……《元男の割りに女の子してね??》。そりゃあ十数年も経つからね。元々日本人らしく右に倣えの精神だったし、女の子なのに『俺』なんてアニメキャラみたいな個性は流石にね」


 やたら浮くし、寧ろ恥ずかしいくらいだ。

 一人称に関しては即行で矯正したなぁ。


「TSとか羨ましいなんてコメントがチラホラあるけど、なってみるとホント大変だよ。下世話な話になるから注意だけど、アレの日とか地獄よ。他にもさ、外出するにはメイクは必須だし、諸々の対策も必要だし。男たちは裸一貫で気軽に外出できる喜びをもっと噛みしめろ???」


 ウンザリとした私の呟きに女性リスナーたちが《ほんそれ》と同意する。ねー。


 :分かるってばよ

 :男子ー、もっと気ぃ遣いなよー

 :おっと途端に香ばしくなってきたな

 :恋愛対象はどんな感じ?


「恋愛対象? うーん、とりあえず男は論外かな。元々性転換物は結構読んでたけど、TS目のアンチ精神的BL科に属していたからね。だから私は――メス堕ちなんて絶対にしない。きりっ」


 :これは即堕ち二コマのパターン

 :丁寧な前振りありがとうございます

 :なるほど。これが分からせ待ち……閃いた!

 :通報した

 :ヴァカめ。俺がお巡りさんだから無問題だ

 :終わったわ日本


 草。


「かと言って百合もねえ。萌え四コマで女の子たちがキャッキャウフフしてるのは好きだけど、そこにガチ感を持ってくるのは違くない? ってタイプなんだ」


 私の独白に《分かる》という声と《それが良いんだろうがよお!》という声が真っ二つに分かれていた。ここんところは好みよねえ。


「まあそんな感じだから、今のところ恋愛をするつもりはないかなぁ。もし私を堕とせる者がいるとすれば――それは催眠種付けおじさんくらいだよ」


 :草

 :おい

 :催眠種付けおじさんは笑うわ

 :何でそうなる


「いやいや、みんな催眠種付けおじさんを舐めちゃダメだよ。催眠種付けおじさんが負けてるところ見たことある? 催眠種付けおじさんの前にはどんな凛々しい戦乙女や女神だろうと即堕ち不可避だからね? 私はエロ同人をいっぱい見たから詳しいんだ」


 :一番熱弁してない???

 :もう催眠種付けおじさんって言いたいだけだろ

 :確かにアレが負けてる姿は見たことないけどさあ!

 :催眠種付けおじさんへの熱い信頼は何なんだ


 だってどんな最強キャラもあっさり催眠に掛かってんじゃん。

 私は最強議論スレに自信を持って催眠種付けおじさんを推薦するよ。

 次の話題次の話題っと。


「《ライバーになった切っ掛けは?》。定番だね。私がライバーになった切っ掛けは、前世の生きた証をこの世界に残そうと思ったから、かな」


 ウソだけどウソじゃない。

 そういう気持ちがあるのは間違いないから。


 :ん? 前世の?

 :前世の生きた証ってなると、男だった頃の話じゃね?


「あー、ごめん。ちょっと説明足らずだったね。厳密にはアルフェリア・リンカーが私の前世なんだ。で、日本人男性としての記憶は前々世。ややこしいけど、私は異世界にTS転生してから、また日本に転生したんだ。つまり二度転生したってわけ」


 私は公式プロフィールをウィンドウを再び出して追記を行う。



――――――――――――――――――――――

 アルフェリア・リンカー。

 ブルースフィアという近未来の異世界で人類の天敵と死闘を繰り広げたワルキューレ。

 実は前世の記憶があり、前世は日本人の男性である。


 アルフェリアとしての生を終えた後、再び日本に転生。

 前世の生きた証を残すべくVtuberとなった。

 ――――――――――――――――――――――


 これでヨシ!


 :んーと、つまり地球で死んで異世界に転生して、んで異世界でも死んで地球に転生したってこと?

 :そいで地球に転生した配信主は前世の自分――要するにアルフェリアたんを模したVtuberになったって……コト!?

 :わかりづらーーい!

 :何でそんな複雑な設定にしたんや


 だって事実だもん。

 最初はここまでぶっちゃけるつもりは無かった。


 でもアルフェリア・リンカーとしても死を迎え、日本に再転生したことを隠し続けた場合、Vtuberになった理由に整合性を見付けられなかったのだ。

 もちろん、他にも色々な事情があるけど。


 だったらもう全部をぶっちゃけようZE☆ ってなった。

 どうせ誰も真に受けんからね。


 これがVtuberの強みだよなぁ。

 どんなあり得ない設定でも、Vtuberならそれで通るんだから。

 話を続けよう。


「配信業は前々世から興味があったから受けることにしたんだ。配信内容は、しばらくは作業配信がメインになるかな。もちろん息抜きに別の配信もやったりするけど」


 :作業配信?

 :なぜに

 :歌配信じゃないんか


 その声明に意外そうな反応。

 まあ初配信でライブやったんだから当たり前か。


「私のライブもそうだけど、私の身体を見てどう思った?」


 :すごかった(小並感

 :伝説を見たよなぁ

 :クオリティがヤバかったよな

 :それ以上に技術がヤバい。どうなってんだプリスマアーク


「ありがとう。社長もSNSで言ってたけど、実はこれ、ぜーんぶ私のお手製。プリスマアークは一切関わってないんだよ」


 :は?

 :いやいや、そんなまさか


「そんなまさかなんだよね。何せ――」


 と、私はブルースフィアがどういう世界か、そしてワルキューレがどういう存在を説明した。


「そういうわけで私にはブルースフィアの――つまりSF世界の知識が備わっているんだ。いわゆる知識チート&技術チートってヤツ。だからこういうブレイクスルーも簡単にできたってワケ」


 それを証明するように、私はふわりと宙を浮きながら華麗なターンを決めた。

 髪や衣服の靡く様子や、違和感なく空を飛んでいる様子。

 アニメの如く多彩に変化する表情。

 更には一挙手一投足の洗練された動作をこれでもかと見せ付ける。


 現代の技術では不可能だろう? と大胆不敵に。


「でも逆に言えば、コレを創れるのは私だけってことだから、正直やることが山積みなんだ」


 他のライバーのアップデートもしてあげたいし、

 前世の私を模したゲームも作りたい。

 みんながこの会場の観客席に来られるようにもしないと。


 他には外国の人たちとも自然な会話ができるよう、言語を変換して出力するソフトや、それに対応した配信サイトもあった方がいいよね。


 ――と、指を折りながらやりたいことを伝えていく。


「とまあこんなふうに予定がギッチギチなの。その上、配信までやってたらいつまでもタスクが終わらないでしょ。なので考えました。配信しながらタスクをこなせばいいと。そう、ガチの作業配信です」


 :ええ……

 :発想が斜め上すぎる

 :これは社畜の匂いがプンプンするぜえ!

 :ウソ松。どうせバックに作業班がおるんやろ


「ちなみに見せられるところは配信にも載せていきます。特にゲームや配信サイトなんかは、みんなの意見が聞きたいからね。こういう機能が欲しいとか」


 :早速ウソ松呼ばわりニキを黙らせに来た!?

 :そこはかとなく蛮族のカホリがします

 :実力で分からせに行くスタイル……嫌いじゃないわ

 

 その後も色々と初配信らしい質問に応え、区切りがついたところで柏手を打つ。


「話を大分戻すけど、さっきのライブはどうだった? 楽しんでくれた?」


 すると待ってましたとばかりにコメントが加速する。

 ジーっとコメント欄を眺めると、どれも賞賛ばかりだ。

 特に譜術を使った演出が大好評のようだ。

 飛翔しての三次元的なダンスなんて、アニメでも見ないだろうしね。


 ふふん、伊達に異世界でトップアイドルグループのセンターを務めてはいませんとも。


「うん、ありがとうありがとう。良い想い出になってくれたなら何よりだよ。それが一番の励みになるからね」



 :初めて聞いた曲ばっかだったけど、オリ曲?


「そうとも言えるし、そうとも言えないって感じ。これはブルースフィアで作れた曲。だからね。私たちワルキューレは歌って踊って戦う戦乙女。ダンスも全部向こう仕込みなんだ」


 すくっと立ち上がり、再びひらひらと踊って見せる。

 今回は譜術も併用した、より煌びやかな舞いだ。


 見せ方は完璧だとも。

 うむ、喜んでもらってるようで何より。

 やっぱ自分を見てくれてる人の期待には応えたくなるよね。


 普通なら『あー、いてててて』やら『おちゅむだいじょうぶ???』と言われるような返答もVtuberなら通用するんだから面白い。

 なお設定上の話ではなく、全部ノンフィクションにございます。


 やっぱ私の人生、Vtuberと噛み合いが良すぎないか?


「ご覧の通り。歌とダンスにはちっとばかり自信があるからね。こういう配信もちゃんとやるつもりだから安心して」


 パチンとウインク。

 喜ぶコメント欄。

 良き良きと思いながら時刻を確認すると、そろそろ一時間が経とうとしていた。

 リスナーの満足度も満たした事だし、閉めに入ろうか。


「さて、時間も時間だし、そろそろ――《本当にTSっ娘だと言うのなら、何卒サービスショットをおおおおおお!!》必死で草」


 と思ったらあるコメントが目に留まった。

 なぜ拾ったという半笑いの返答が溢れる。

 あまりに欲望に正直だったから、つい。


「私も元男だから気持ちは分かるよ。女の子の身体には夢が詰まってるもんねえ。でも、同性ならともかく、異性からの下ネタを不快に思う女の子は多いから、私のとこだけにしとくんだよ」


 間違っても余所ではやらないように、と釘を刺す。


「表面上は大丈夫と油断すると痛い目を見るから、ちゃんと内面を気遣える男になりなぁ。女の子の扱いに関しては、ちょいちょい私がリークしたげるからさ」


 ガバガバなラインで地雷を踏みに行くのが男という生き物だ。

 そして地雷を踏むと、あっという間に『あいつはああいう男だったよ』、『ええ、マジ引くんですけど~』と情報を拡散するのが女という生き物だ。


 予想以上に口が軽くてビックリしたわ。


「話を戻すけど、サービスショットねえ。あんまりやり過ぎるとBANされちゃうからなぁ。どこまでがセーフなんだろ。脇? うなじ?」


 と、脇を見せたり、髪を掻き下げてうなじを晒したりする。

 さすがに私にも相応の羞恥心はあるけど、まあこんくらいなら大丈夫かな。

 そんなことを思いながら、スカートの丈を摘まみ、ゆっくりと持ち上げていく。

 ライブの時に迫るほど加速するコメント欄。


「好きだね~。TSっ娘だけど、それでもええのかしら。女として生きていく踏ん切りは付いてるけど、元男よ?」


 寧ろ! という声が多数な件。

 ほんと欲望に忠実なことで。

 元々ミニスカートだったものが更に短くなり、細身ながらもしっかりとした曲線美を描いた太ももの面積が徐々に増えていく。


 脳裏に『おおおおお!』と前のめりになる男たちの絵面が思い浮かんだ。

 うむ、前々世の私なら確実に下から覗き込んでたね。


 どうか愚かと笑うこと勿れ。


 例えそれが何の意味もない行為だと分かっていても、男はスケベに対して一縷の希望を捨て去ることが出来ないのだ。かっこ決め顔かっこ閉じる。


 故に、これはかつての同胞たちにサービスだ。

 たむけとも言う。

 スススと更に捲れ上がる丈。

 秘密の花園まであと一歩と差し迫ったところで――。


 ズゴオオオオオオン!! と背後で爆音がした。


「ほわぁ!?」


 ビックリして振り返った私が見たのは、モクモクと立ち上がる煙。

 え? こんな演出、段取りに無かったんだけど?


 私が呆然と突っ立っていると、煙の中に薄っすらと人影が浮彫になる。

 人影は徐々に鮮明となり、やがて肩で煙を切るようにして見知った女性が現れた。


「え……みつ――んんっ! ……しゃ、社長?」


 そこにいたのは妖艶なケモ耳お姉さん。

 三希改め、双葉散華。プリスマアークのVtuber兼CEOサマである。


 しかも私が作ったアバターじゃん。

 というか、あれ? なんか……その……。


 :なんだあ!?

 :爆発だあ!

 :芸術だあ!

 :散華様じゃん!

 :ホンマや、散華様やん!

 :相変わらずお美し……いや、美しすぎね!??

 :この前見た3Dモデルと全然ちゃうやんけ!

 :アルフェリアと同じレベルのアバターじゃんね

 :何がとは言わんが、でっっ!

 :何がとは言わんが、エッ!!

 :語るに落ちとるんよなぁ

 :……すんごい怒ってない?

 :怒ってますわね

 :それが見て取れるのホンマヤバい技術しとるでえ


 そう、何故かシャチョさんはお怒りだった。

 目の下を黒くして冷徹に私を見下ろしている。

 

 感情に呼応した演出。

 このアバターの製作者は実に良い仕事してますねえ(現実逃避)


「あの、社長? どうかなさいまし」

「――アルフェリア」

「あい」


 底冷えするような声音に直立不動になる。

 影が差した表情からでもハッキリと見える黄金の瞳は、軽くホラーだ。

 誰だ、こんなアバターを作ったヤツは!?


「妾、言ったわよね? 過激な内容は控えるようにと」

「え、いや、でも! その、もちろん見せるつもりはなかったよ? 見えそうで見えない、そんなギリギリを狙うつもりだったからさ!」

「でもえっちな要求には変わりないわよね?」

「あい」


 でもそんなこと言ったら、あーたの衣装も大概……。

 あ、何でもないです。


「アルフェリアの事だもの。リスナーとの距離が近付いて男の子同士の距離感になったら、過剰な要求にも応え兼ねないわ。それこそ高額スパチャなんてされたら」


 何そのTS物のエロ本の導入みたいな展開。


「や、さすがにそんなこと――」

「『まあ下着くらいなら別に構わないか。高額スパチャの連打とか申し訳ないし。でも、ほんとちょっとだけだからね』とか言いそうじゃない?」


 私は目を逸らした。

 すると社長はニッコリと微笑んで、


「アルフェリア、正座」

「あの、社長……? 今配信中――」

「正座」

「…………あい」


 スッと大人しく正座する私の頭上で社長が腕を組む。

 ふにゅりと豊かな双丘が形を変えた。


 そうして始まったお説教タイム。

 淑女がどうたら、私は無防備が過ぎるとか、そんな感じのお説教が長々と続き、私の初配信は世界トレンド一位を成し遂げ、二つの意味で伝説となった。


 思ってたのと違う!!




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