第9話 初配信&初ライブ
「――登録者数七十万かぁ。まずまずってところかな」
「いや、まだ初配信もしてないのに七十万は異常だから」
リビングでスマホを眺めながら呟いた言葉に、三希がドン引きした様子で答える。
「我、前世、トップアイドゥ。人類の大半、わいどんのファン」
「なぜ片言」
「ま、初配信でも度肝を抜くつもりだから、軽く倍以上にして見せるよ」
ブルースフィアのライブは、とにかく派手だからね。
縦の動きとか、絶対お目目かっぴらいて仰天するに違いない。
確信した――私は強くなり過ぎた(キリッ)
……これも二十年以上前のネタなんだよなぁ。
ジェネギャが酷い。嘘だと言ってよ、バ〇ニィ。
「凄い自信ね。……まあ確かに凄いものを見せされたけど。一番恐ろしいのは、コレを一人で完成させたことよね。さっきから通知が止まらないのだけど」
私は何も知らないんだよな、と遠い目をする三希。
「根性焼きの如く魂に情報を焼き付けられた結果だね」
「……そんな胃もたれする過去を軽々しく言わないで」
「死ぬほど痛いぞ」
「分かったから」
「ちな生存率は三割。失敗すると魂が壊れて輪廻転生すら不可能になります」
「やめー!」
そんなふうに遊んでいると、ドタドタと階段を駆け降りる音。
飛び込む勢いで咲良が現れた。
「お母さん! コレ、これっ、何!?」
と、興奮と驚愕を露にスマホを突き付ける。
そこには案の定と言うべきか、私のPV。
「何って、兄さんの初配信告知PVよ。咲良にだけはSNSに上げるって言ってたでしょ」
「チガウモン! 私が言いたいのは、この3Dモデル! 何これ!? ほぼアニメじゃん! こんなんできるの聞いてない! わたしもわたしも!」
テシテシテシテシテシ、とテーブルを叩いて強請る咲良。
「そんなこと言われてもね。これ、全部兄さんが一人でやったんだよ」
「……え? ええ? アリアが?」
オロオロとこちらを見遣る咲良にひらひらと手を振るう。
「昔取った杵柄ってやつだよ」
「……きね?」
「昔に身に付けた技術って意味。この場合は昔というか、前世が正解だけどね」
「ぁ、そっか……」
私の前世がどんなものかを思い出した咲良は、腑に落ちた反応を見せる。
それから右に左と視線を落ち着きなく彷徨わせながら挙動不審となった。
何か言おうとして、だけど寸でのところで止めてを繰り返している。
何が言いたいのかは、三希へのソレから充分窺える。
それでもこうやって躊躇っているのは、普通に人見知りのせいだ。
オタクトークとかで盛り上がって距離を詰めても、次の日にはリセットされてるんだよなぁ。
3歩進んで2.8歩下がるの繰り返し。
同期とのコラボ配信ですら、そんな感じだ。
VRマシンとパソコンを運ぶの手伝ってくれたり、良い子なのは分かってるから改善してあげたいんだけどね。
何というか、懐かない動物を手懐けようとしてる気分。
咲良のアバター、双葉桜華は狐の獣人だから、ある意味設定通りではある。
「えと、えと……っ」
チラチラを私を見る咲良からは、察してほしいという雰囲気が伝わってきた。
多分心の中で『察せ~! 察せ~!』と念じているのではなかろうか。
察しても良いんだけど……この子のためにはならんよね。
「うん、ちゃんと言葉に出してほしいな。ちゃんと聞くから」
「ふぐう……えーと、その……わ、わたしも欲しいなって」
「何が?」
「アリアの作った、わたしの3Dモデルが欲しい、どぅえす……」
「いいよ。というか、そう言われると思ってたから二人の分は同時並行で作ってたし」
「ホント!?」
「私も?」
パーッと花が咲いたように喜色を露にする咲良。
「それは嬉しいけど、作業スピードおかしくない?」
対する三希はドン引きだった。
私が凄いっていうか、前世の技術がエグいというか。
こんくらいはワルキューレなら誰でもできるからね。
「データは渡しておくけど、まだ配信で使っちゃダメだよ。実装のタイミングは三希に任せるから」
「分かったわ」
「えっ?」
咲良はウソでしょと言いたげだ。
「そりゃあね。咲良だけ実装ってなったら変なやっかみを買うかもだよ。社長の娘だから優遇されてるとか」
「ふぐう……イジメ反ちゃい」
「そういうこと。暫くは配信外で我慢しときなさい」
「女同士のギスギスはえげつないよ。私も『調子乗んなよ』って因縁付けられた事もあるからね」
「ひえ」
「兄さんのことだからタダで済ませたわけじゃないんでしょ?」
「舐めた態度を取った連中を、気心知れた仲間と闇討ちするのは、スカッとするよね」
やられたらやり返す。基本だよね。
こういうのは我慢したって報われないのが定番なんだから。
「やっぱり。兄さんらしいわ」
「ひええ」
おっと心の距離が開きましたね。
「――さて、そろそろリハーサルに行こっかな」
すくっと私は立ち上がる。
自信があるとはいえ、こういうのはちゃんとやっとかないとね。
「あんまり過激なことはしないでよ」
「だいじょぶだいじょぶ。ちゃんとコンプライアンスに則った配信をするから」
「手伝いは?」
そう問い掛ける三希に、私は自信満々の笑みを浮かべた。
「大丈夫。楽しみに待ってて。忘れられない一日にしてあげるから」
自室に戻った私は、早速VRマシンを装着して、ベッドに横たわった。
VRマシンの電源を入れ、肩の力を抜く。
ゆっくりと意識が切り替わる感覚に身を任せながら待つこと数秒。
完全にスイッチが切り替わったことを認めてから目を開くと、そこはマイルームと呼ばれる場所だ。
無事、私の意識は仮想世界のアバターに乗り移ったわけである。
今、私がいるマイルームとは、従来のゲームで例えるところのホーム画面のこと。
最初は真っ白な空間にポツンとベッドが置かれているだけの無味乾燥な部屋だが、自由にカスタマイズができるようになっている。衣類等も同様だ。
メニューを開くように思考すると、眼前に無数のソフトが並ぶ。
ゲームはもちろん、ドラマやアニメのサブスクリプションに動画サイトなど様々なソフトが空間に浮かんでいる。
その中にある『Live on』というソフトを選択。
私が作ったソフトだ。
視界が光に染まり、一瞬の浮遊感。
次の瞬間には、私は楽屋の中にいた。
そこに設えられている鏡と向き合い、
「懐かしなぁ」
鏡の向こうには前世の私――アルフェリア・リンカーが立っていた。
天使の羽根を模した装飾をあしらった青のアーミーベレー。
ツーサイドアップにした黄金の長髪に、パッチリとした碧眼。
華奢な身体を包むのは、青と白を基調とした可憐な衣装だ。
異世界を舞台とした創作物のキャラクターが着るような、いわゆるアニメバウンドな服装である。
「や、ホンっト懐かしい」
この髪型と服装は、私がワルキューレになったばかりの頃の姿だ。
如何にも駆け出しと言わんばかりの初々しい出で立ちである。
ぶっちゃけ欠片も強そうじゃない。
まあ実際そんな強くなかったんだけど。
私が頭角を現すようになるのは、アニメで例えるなら2クールの中盤からだ。
そこから改めて私の物語が始まると言っても過言じゃないと思う。
4クール辺りで更に覚醒して最強格まで成り上がるわけだ。
つまるところ、私はまだ二回の変身を残しているのである。
最終的には帽子を取り、髪は青のデカリボンで縛ったポニテロングに。
戦装束も騎士と魔法使いと組み合わせたような凛としたものへと進化する。
自分で言うのも何だけど、雰囲気や表情含め、成長したなぁというのが良く分かる変わりようなのだ。
その姿をお披露目するのは、大分先になるだろうけどね。
身なりを確認した私は控室からステージに場を移す。
薄暗い会場は私以外、人っ子一人いない。
見渡す限りの空席だけが寂しげに広がっていた。
でも、それで良い。
観客は画面の向こうにいる人たちなのだから。
「――♪」
私は前世の調子で譜術を行使する。
すると私の身体はふわりと宙に浮かんだ。
更に無数に光球を生み出し、軽く手を振るうと光球たちは生き物のように空を駆け出した。
薄暗い空間に、美しい光芒が幾重にも重なり合う。
「よし、感覚は良好」
この姿で乗り気な自分に苦笑する。
当時の私は、ほとんど嫌々だったからなぁ。
歌は聞く専で、何なら前世はカラオケで歌ったことすら無かった始末。
仮に行ったとしても友人の歌を聴いているだけ。
それくらい歌うのが嫌というか、恥ずかしかったんだ。
だけど『ライブを疎かにする者にワルキューレの資格無し』と言われれば、やるしかないのが一兵卒の辛いところだ。
そんなこんなで始まった戦いとライブの二足の草鞋。
しかもただのライブじゃない。
歌とダンス――そして譜術を併用したクッソ難易度の高いライブだ。
最初は唯々諾々とライブをしていた私だったけど、そんな私にもファンができた。
それが純粋に嬉しくて、様々な出会いも相俟って、徐々に意識改革へと繋がった。
冷笑癖のあった私は『頑張れ』とかいう前向きな言葉を『薄っぺらい』と斜に構えていたのに、いつの間にかファンのために頑張ろうと思えたのだ。
「………………」
本当は、二人もいれば良かったんだけどなぁ。
ここにはいない仲間の姿を幻視しながら、私はリハーサルを続けた。
初配信というのは、インパクトが大切だ。
ここで勢いに乗れるか否かが、今度の活動に直結すると言っても過言ではないだろう。
だから皆、何とか爪痕を残そうと奇抜な手段を取る。
私が選んだ手段は――実力行使。
どんな自己紹介をするのか、と値踏みするリスナーの横っ面をぶん殴るために、初っ端から飛ばしていくのだ。
「そろそろだね」
リハーサルをしていると、時間が経つのは、あっという間だ。
時計に目をやり、中空にウィンドウを開く。
そこに並ぶアプリから配信サイトをタップ。
私のチャンネルを開いた。
お、八十万になってる。
私の技術と箱バフの相乗効果だ。
待機人数も六桁の後半に差し掛かっており、どれだけ注目されているかが分かる。
:もうすぐだ
:ドキドキ
:マジであの超技術なんなん?
:ここまで〝至った〟か、プリズマアーク
:今日告知からの今日デビューってことは相当自信があるってことだよな
:気合の入り方が段違いだったもんな
:同接ヤバくて草
:正直Vtuberには興味ないけど、あの技術はめちゃくちゃ気になる
:Vtuberなんかにリソース割く暇があるならVRMMOの開発に力を入れてくれ
:夢のVRマシンが登場したけど、レパートリーが少ないんじゃ~
:『双葉散華@プリズマアークCEO「社内外含め方々から引っ切り無しに連絡が届ているけど、妾は一切関わっていないわ。え? マジで知らん」』何で社長が知らないんだよww
:他ライバーもSNSでビックリしてるよな
:『妾がしたのは採用だけ。以後の段取りは全部自分やると新人が言い出した結果がアレなのよ。こわ……』とも言ってたなww
:んなわけ
:だとしたら新人ヤバすぎだろ。なにもんだよ。
:そんな技術がありながらプリズマアークに所属する意味よ
やっぱ技術の方にだけ関心のあるリスナーも多いな。
でも問題なし。
ちゃんと沼にハマらせてあげますとも。
音源は事前に用意済み。
幼少期のレッスンが、まさかこんなところで実を結ぶとは。
改めて声良し。身体良し。譜術良し。音響良し。カメラ良し。照明良し。
全部を自分一人で賄わないといけないのが辛いところだが、まあ何とかして見せよう。
異世界、ブルースフィアを代表したトップアイドルグループ――『トリニティ△』。
そのセンターは伊達じゃないと思い知らせてやろう。
目を閉じて深呼吸を一つ。
撃鉄を起こすようにカチリと意識を切り替え、配信を始める。
自己紹介? そんなものは後回し。
まずは――私のファンになれえっ!
バラードからなんだけどね。
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