猫乃わん太の事件簿~王国の闇、密室殺人事件~
水城みつは
第1話 賢者くん登場
異世界召喚、非現実的な現象に巻き込まれたとはいえ元の世界で死んだところを異世界で延命出来たことに関しては幸いと思うことにした。
もっとも、そんな僕が今までで一番非現実的だと思ったのは目の前で配信を開始し始めた彼であるのだが……。
「こんにちわ~ん! ぬいぐるみ系VTuber、猫乃わん太わん。今日は特別ゲストの賢者くんをお迎えして、謎な変死体発見現場に向かいたいと思います」
僕の腰の高さまでもないぐらいの犬のぬいぐるみがくるっと回って宙に浮かんだスマートフォンに向かってポーズを取っている。
◯[え、賢者様がゲスト! うわっ、生賢者様だ]
▽[ちょっと待て、なんだか不穏な事を言ってなかったか?]
△[犬も歩けば事件に当たるって言うから仕方がない]
「いや、待って、リスナーもスルーしないでよ。わん太さん、今、変死体発見現場って言ったよね?! いくら異世界だからって、そうそうは変死体なんてないんですよ、そんなのが見つかったらちゃんと報告が必要ですって!」
謎技術で空中に投影されているリスナーのコメントにツッコミを入れつつ、素知らぬ顔で歩き出したわん太さんを止める。
「あ、やっぱり、変死体ってばここでも報告が必要だった? ボクもそうじゃないかと思ったわん」
腕組みをしてコクコクと頷く姿は愛らしい……ではなく、
「いや、思ったわん、じゃなくて、ちゃんと報告してください!」
珍しくわん太さんが訪ねてきたと思ったらこれだ。
「だから、ちゃんと報告したわん」
「誰に?」
「賢者くん」
わん太さんはドヤ顔で僕を指さした。
▽[草www 確かに報告している……かも?]
◯[まあ、賢者様に報告はある意味正しい。王国の偉い人だし]
◆[他の人がわん太に報告されても困りそうな気がする]
「ああ、確かに、わん太さんに面識があるならともかく、そうでないと色々困りそうです。それに……わん太さんだとうっかり王宮に入り込んで王様に直接報告しそうで怖いです」
わん太さんはどう見ても犬のぬいぐるみである。ぬいぐるみ系VTuberを名乗っているが、そもそもVTuberはバーチャルな世界でガワを被っているものであり、現実世界で非現実的に闊歩するぬいぐるみではないはずだ。
そして、何より問題なのは周囲の人がそれをおかしいと感じていないことなのだ。恐らくは何らかの認識阻害系の効果がかかっていると思われるのだが賢者と呼ばれる僕ですら、その事実に気づくまでかなりかかった。とはいえ、わん太さん本人は全く持って悪気があるわけではなく、気の良い只のわんこである。
「やだなぁ、流石にボクだって見ず知らずの王様のところには行かないわん。あ、だけど、王宮の食堂に行ったら新作のプリンを貰ったわん。あれ、賢者くんが教えたんでしょ?」
「ええ、やっと安全な卵の量産にまでこぎつけたので、これからは徐々に卵料理も増やす予定……ってなんで王宮に入れてるんです?!」
やっぱり神出鬼没なわん太さんだ。そう言えば、今回もふらっと僕のところに現れたが、どうやって居場所を見つけたのだろう?
◎[えっ、もしかして卵を安く食べられるようになる?]
▽[異世界あるあるネタかぁ。ところで、話を戻して変死体ってのはどこにあるんだ?]
∪[だんだん山道に入っていってる気がするんだけど……]
王都の外れに呼び出されたが、確かに更に山の方へと向かっている。
少し離れたところには大迷宮と呼ばれるダンジョンがあるため冒険者も多いが、こっちには特に何もなかったと記憶している。
なお、大迷宮は百階層のボス部屋が開かずの間となっており完全攻略はできていない。
「わん太さん、その、死体がある現場って何処らへんです?」
鼻歌交じりにいつの間にか拾ったのであろう小枝を振り回しているわん太さんに声を掛けた。
「もうすぐわん。死体を発見して頑張って出てきたら山の麓だったんだわん。あ、あったあった、あそこのがけ崩れみたいになっているところわん」
崩れ落ちた山肌にポッカリと開いた洞窟らしき横穴が見えてきた。
◯[これは……、ん? あれって祠の残骸?]
◆[見る限り最近になって洞窟が露出した感じか]
▽[わん太、お主、もしや祠を壊したのか!]
「こ、壊してないわん!? ボ、ボクは祠なんて見てないんだわん」
わん太さんが途端に挙動不審となる。
「うーん、この壊れた祠は特に何か祀られてたってわけではなさそうですね。むしろ人避けと隠蔽の跡が見られます。それより、こちらの砕けた岩ですが、恐らくはこの洞窟を故意に塞いで封印してあったようですね……」
むしろ、祠以上に高度な隠蔽と認識阻害の残滓が残っている。
よほどこの中に見られたくないものがあったと思われる。
「……ところでわん太さん、たしか頑張って出てきたと言いましたよね? つまり、わん太さんは洞窟からこの頑丈な岩を破壊して出てきたと考えられるのですが?」
「ギ、ギクッ。いや、ちょっとばかりシャベルでコツコツしたら崩れて出れたんだわん。きっと脆くなってたに違いないわん……」
◎[わん太、
◆[しかし、そんなに簡単に壊せるものなのか?]
∴[それはともかく、変死体は洞窟の中ってことでよいのか]
「おっと、そうでした。わん太さん、その変死体とやらは洞窟の奥ですか?」
「んー、奥と言えば奥なんだけど……こっちわん」
暗い洞窟をライトの魔法で照らしてわん太さんの後に続く。
「こ、これは?! わん太さん、もしかしてここから出てきたんですか?」
洞窟の奥には底が見えないほどの巨大な穴がポッカリと空いていた。
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