第6話 どうしよう

 今日もまた図書室……ではなく下校途中の帰り道。


 今日の霧中きりなかさんは図書委員としての仕事があったのだ。さすがに仕事中に話しかけるわけにはいかなかったので、こうやって一緒に下校させてもらった。


「図書委員の仕事も大変なんだね」俺は言う。「貸出の管理って、最近はパソコンでやってるんだね。俺はパソコンが苦手だからなぁ……」


 機械類はとても苦手だ。


「……うちの図書室はそんなに人、多くないから……」それでも想像よりは多かった。「それにパソコンも、最近は……使いやすいソフトを作ってくれる人がいるから。意外と、簡単」

「先人の知恵に敬意を払えるんだね。なかなかそこまで頭が回る人は少ないよ」


 大抵は自分の力を自慢したくなる。だがその力を使いこなすには、確実に先人の知恵があったハズなのだ。ちゃんとそこを忘れない彼女はとても偉い。


「そういえばさ。俺も読書を始めてみようかなって思うんだけど、オススメの本とかある?」

「お、オススメ……?」なんだか難しい質問だったようだ。「どうだろう……あなたの趣味趣向がわからないから……」

「なるほど……」一概にオススメというものはないようだ。「自分の考えを押し付けずに、俺のことを気遣ってくれたんだね。ありがとう」


 ともあれ俺の趣味趣向か……


「ミステリーが読んでみたい。あっと驚くようなトリックがあるやつ」

「……だったら……〇〇かな」タイトルは聞いたことがあった。「ミステリ研究会のメンバーが、とある島に行くんだけど……種明かしで、とても驚ける作品だと思う。最近実写化もしたから……そっちを見ても楽しめると思う」


 実写化されていたのか。そっちも時間があれば見てみよう。


「ありがとう。でも……もしかしたら最後まで読みきれないかも。そうなったらごめん」


 俺は読書に慣れていない。途中で投げ出してしまうかもしれない。


「それでも大丈夫。たとえ最初の一行で読むのをやめても、それが読書だから……」霧中きりなかさんは続けた。読書の話になると少し饒舌だった。「途中でやめてもいいの。どんな感想でもいいの。他の人に合わせる必要はないし、理解できなくたって構わないの。少しでも楽しい、面白いと思える瞬間があればいいの。飛ばし読みでも構わないの」

「なるほど……」全部しっかりと読まなければならないと思っていた。「ホント優しいね。俺が最後まで読めなくても罪悪感がないようにしてくれた」


 途中で読めなくなったらどうしよう、という恐怖があって読書を始められなかったのだ。彼女はそれを察してくれたのかもしれない。


「あ、あくまでも私の考えだから……他の人に通用するとは、限らないから」

「他の人の考えを配慮して、俺のために教えてくれてる。優しい」

「……」


 照れた顔が本当にかわいい。何度でも照れさせたいと思う。


 ……


 ……


「そういえばさ。霧中きりなかさんは『すぐに私の褒めるところがなくなる』って言ってたよね」

「う、うん……」

「なくなるどころか増え続けてるんだけど、どうしたらいい?」褒めるところだらけになってきた。「このままじゃ1日という時間の中で、霧中きりなかさんの素晴らしさを表現しきれなくなってしまうんだけど……どうしよう」


 1日が48時間あっても足りないかもしれない。褒めたいところが多すぎる。


「そ、そんな事を言われても……」

「そうだね。さすがに1日を引き伸ばすことはできないからね」それは天使でも無理だ。「とりあえず今は時間を有効活用するしかないね。まずは1日中褒め続けてみようと思うんだけど、いつかチャレンジしてもいい?」


 24時間くらいなら軽く褒め続けられる自信がある。


 ……


 ……


 ふと冷静になって、思った。


 俺ってもしかして、メチャクチャ異常なこと言ってる?

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