第6話 予定
ー家に着くと時刻は3時10分になろうとしていた。ー
いやー、やっぱ中学生は早く帰ってこられるからいいね。
ニートみたいな生活してる私が言うのも何だけど、コツコツ絵は描いてますから。
子供の贅沢を保証する収入と貯金はありますから。
のりおの幸せと笑顔は確保してあげられてますから。
「じゃあご飯作るけど、なんか食べたいもんあるかい。」
「そうだな。…何でもいいぜ。」
「はいよー。」
のりおは手洗いうがいもそこそこに、鞄からテキストを取り出してテーブルに広げだした。
そんなのりおにご飯のリクエストが無いか聞くのは、休日やこんな日の恒例行事と化してきてるんだけど、今日は特に無いんだね。
世間一般では「何食べたい?」に対する「何でもいい」はご法度らしいが、私はそんなの全く気にしない。
実のところなんでそんなに目くじら立てられるのかさえ理解できないんだよね。
聞かれてる人がどういう意図で「何でもいい」って言うのかは色々理由があると思うんだけど、あからさまに冷たく言われるとかなら傷付くしイヤにしても、そこまで怒ることはないんじゃないかなって思っちゃう。
冷蔵庫にあるもの把握してるのは作る人なんだし、ワガママ言っちゃっても良くないからさ。それに料理してる人なら分かると思うんだけど、何作るかの予定ってのはある程度無意識のうちに構築されてるわけで、万が一それに反する回答をされた場合お互いの合致とは言い難くなっちゃうしね。
感性終わってるって言われるかもしんないけど、これが素の私なんだから仕方がない。
…そんな私と、私は27年付き合ってきた。
「……凛央さん。」
「んー?」
「やっぱあれ食べたい。
もやしとお茶漬けの元のやつ。」
「おっ、あれねっ。」
まぁ大体リクエストくれるし、
何作っても美味しい美味しいってほっぺ一杯に詰め込んでくれるし、
休みの日なんかは手伝ってくれるし、
のりおだから気になんないのかもしれない。
やっぱ大切なのは日頃の接し方だよ。
よしっ。決めた。
今日は出汁と麺つゆで作るカンタン茶碗蒸し。赤味噌のネギたっぷり味噌汁。
鶏ももの生姜焼き。
そんでリクエストしてくれた
もやしとお茶漬けの元の炒め物にしよっと。
のりおの「美味っ」て顔が目に浮かぶね。
私はのりおに背中向けて料理してるんだけど、ふとのりおを見たら目が合った。
のりおは理科のワークに手を付けていた。
「…手伝うか?」
「んーん。勉強してなー。」
ご飯は私でも作れるけど、アンタの勉強はアンタにしかできないからね。
甘えてればいいんだよ。
それがママの仕事っ。
☆☆☆☆☆☆☆
そしてしばらくするとのりおの勉強にも方がついてきたようで、気が付けば私達は談笑を交えながら手を動かすようになっていた。
お風呂のお湯を溜めるようのりおにお願いして、私も料理の盛り付けに入る。
広げられていたのりおの宿題と入れ替えるように料理を並べると、戻ってきたのりおは感嘆の声をあげてくれた。
「唐揚げ食いたいって言おうとしたけど、こっちのほうが美味そうじゃねぇか。」
「鶏肉使っちゃったから唐揚げは来週ね。」
んで40分くらいかけてご飯を食べた。
ずーっと喋ってるからなかなか箸が進まないんだよね。
まぁそんな時間が楽しくて大好きだから全然いいんだけど。
「あ、そういえば明日金曜日やね。」
明日は散髪と買い出し行かなきゃ。
私はすっかり伸び切った赤い髪をふと撫でつけた。
「…あんたが曜日覚えてるなんて珍しいな。」
「ねえそれどういう意味?!
外で仕事してないからって社会から遮断された人間やとでも言いたいわけっ!?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「そこまで言ってねぇよ。
仮に文にしたらエクスクラメーションマークめっちゃ多いだろうなそのセリフ。」
「悲しー。せっかく土日どっか連れてってあげよーと思ったのになー。」
「…それを先に言ってくれよう。
そうと決まればあんたの機嫌を全力で取りに行くのに。」
のりおはそう言って目をキラキラさせだした。
外出るの大好きだもんね。
ホントにワンちゃんみたいっ。
岐阜は海無いからね、実はせっかく夏ってことでキレイな海を見せてあげたいな、って空想がある。
それを話したら大いに賛成してくれた。
「確かあんたと最後に遠出したのは…あれか。」
「去年の冬やなー。名古屋行ったねー。」
去年と言っても今年の初め頃だが、直近の遠出でいうと近場だけど名古屋に行った。
電車で時間かけてだよ。
沢山美味しいもの食べたね。
「でもまあのりおクンは知見ないか。
どこ行きたいとか言えもんね。」
「うるさいな。都道府県くらいなら分かるんだぜ。」
「でもどこに何があるかとかは分からんやろ?」
「うんっ。全く知らねぇ。」
「じゃあ都道府県分かっててもなんも意味ないじゃん!」
今回も私が予定を決めることになりそうだが、実は私は風景のスケッチを兼ねての旅にしようとも考えていた。
のりおのためにも熟考しなくちゃね。
「じゃ、土日開けといてね。」
「おう。めっちゃ楽しみだ。」
のりおは にかーっ と笑った。
私は心の底から土日の晴れを願った。
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